商標Q&A

Q

≪準備段階≫
Q1.商標とは?
Q2.出願前調査とは?
Q3.商標登録出願書類とは?

≪出願段階≫
Q4.出願手続とは?
Q5.方式審査とは?
Q6.出願公開とは?

≪商標登録要件≫
Q7.狭義の商標登録要件とは?
Q8.広義の商標登録要件とは?

≪審査段階≫
Q9.実体審査とは?
Q10.商標登録OKのときの登録査定とは?
Q11.商標登録OKでないときの拒絶査定とは?
Q12.拒絶査定を受け容れる場合は?
Q13.拒絶査定に不服がある場合は?
Q14.商標登録OKのときの請求成立審決(登録審決)とは?
Q15.商標登録OKでないときの請求不成立審決(拒絶審決)とは?
Q16.拒絶審決に不服がある場合の対応は?
Q17.早期審査・早期審理制度とは?

≪商標権成立段階≫
Q18.商標権の成立はいつ?
Q19.商標掲載公報とは?
Q20.商標登録証とは?
Q21.商標権の効力とは?
Q22.ライセンスの設定、許諾とは?
Q23.商標権等が侵害されたときの対応は?
Q24.商標権は取り消されたり無効とされたりすることがある?

≪外国での商標権≫
Q25.商標権の効力の地域的範囲は?
Q26.外国で商標権を取得する方法

≪準備段階≫

Q1:「商標とは何?」
商標(トレードマーク)は、「人の知覚によって認識できる標章(マーク)のうち、文字、図形、記号、立体的形状、色彩、これらの結合、音、その他のもの」であって、以下のものをいいます。
・業として、商品(グッズ)を生産、証明又は譲渡する者がその商品について使用をするもの(実務上、「商品商標」と呼びます)
・業として、役務(サービス)を提供又は証明する者がその役務について使用をするもの(実務上、「役務商標」と呼びます)

Q1a:「商標についての注意点は?」
商標法で取り扱われる商標は、以下のような点に注意が必要です。
・「業として」:「一定の目的の下に継続反復して行う行為として」という意味合いであり、「業として」は、商標の定義(構成要件)として挙げられています。したがって、「業として」使用しない標章は商標に該当しないことになります。
・「商品商標」「役務商標」:商標は、商品・役務と一体不可分性を有することを意味しています。商品・役務から切り離された商標というものはありません。

Q1b:「商標の態様とは?」
現在、商標法によって保護される商標の態様には、以下のものがあります。
・文字商標(ネーミング)
・図形商標(ロゴ)
・記号商標(ロゴ)
・立体商標(店の前に立つ人形などの立体的形状)
・結合商標(文字、図形、記号、立体的形状又は色彩の結合)

・変化商標(文字、図形、記号、立体的形状又は色彩が変化するもの)
・動き商標(変化商標のうち時間経過によって変化するもの)
・ホログラム商標(変化商標のうちホログラフィー等によって変化するもの)
・色彩のみからなる商標(形状に限定なし)
・音商標(CMメロディなど)
・位置商標(標章を付する位置が特定されるもの)

Q1c:「商品とは?」
商標法には「商品の定義」はありませんが、特許庁では、「商取引の目的たり得るべき物、特に動産」としています。
著作物は、商品化権によって許諾されている場合などには商品となり得ます。
コンピュータプログラムなどの無体物は商品に含まれますが、建物などの不動産は商品に含まれません。
商品の大小は関係ありませんので、例えば飛行機や船などの大きな動産も商品に含まれます。
なお、商品に類似するものの範囲には役務が含まれることがあります。(印刷物と印刷物の小売サービスとは類似するとされます。)

Q1d:「役務とは?」
商標法には「役務の定義」はありませんが、特許庁では、「他人のために行う労務又は便益であって、独立して商取引の目的たりうべきもの」としています。
商品に含まれない不動産については、不動産を仲介する事業者の役務には「建物の管理」が、施工業者の役務には「建設工事」が、それぞれ該当します。
「独立して」とは、次のようなことを意味しています。
例えば、ラーメン店の役務は「飲食物の提供」ですが、ラーメン店が行う「出前」はそれだけでは商取引の目的とはならないので、ここでいう役務には該当しません。
一方、例えば、宅配業者が行う「宅配」はそれだけで商取引の目的となりますので、「車両による輸送」として、ここでいう役務に該当することになります。
なお、役務に類似するものの範囲には商品が含まれることがあります。(印刷物の小売サービスと印刷物の関係)

Q1e:「商標(標章)の使用とは?」
商標(標章)の使用とは、次のような行為をいいます。

<商品商標の場合>
・商品又はその包装に標章を付す行為(商品と商標の一体性を生み出す行為。例:商品のタグや商品に吊り下げるラベルなどに標章を表示する行為)
・商品又はその包装に標章を付したものを譲渡、引渡し、譲渡引渡しのために展示、輸出、輸入、電気通信回線を通じて提供する行為(流通ルートに置く行為)

<役務商標の場合>
・役務の利用に供する物に標章を付す行為(例:レストランにおいて食器類に標章<例えば、店の名称>を付す行為)
・役務の利用に供する物に標章を付したものを用いて役務を提供する行為(例:レストランにおいて食器類に標章<例えば、店の名称>を付して営業する行為)
・役務の提供の用に供する物に標章を付したものを役務の提供のために展示する行為(例:コーヒー店で標章を付したコーヒーサイフォンを店内に置く行為)
・役務の提供を受ける者の提供に係る物に標章を付す行為(例:クリーニング店が店名入り袋に洗濯物を入れて顧客に返却する行為)
・電磁的方法により映像面に標章を表示して役務を提供する行為(標章を画像に表示して配信サービスを行う行為)

<共通>
・標章を付した広告、価格表、取引書類を展示、頒布、電磁的方法により提供する行為(例:依頼された広告案に標章<デザイン事務所の名称>を表示する行為)

<音商標の場合>
・商品の譲渡又は引渡し、役務の提供のために音の標章を発する行為(例:商品の宣伝において会社名と一体になったCMメロディを流す行為)

Q2:「出願前調査とは?」
出願前調査とは、商標を選択するにあたって、出願しようとする商標について、既に第三者が似たような商標を出願又は登録していないかどうかを調査することをいいます。
商標を選択する過程において、調査結果をフィードバックして、商標を選択していく作業に反映させます。
調査にあたっては、特許庁が無料で提供するデータベース(「J-platpat」という名称の特許情報プラットフォームのことで,独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営)を活用することができます。

Q3:「商標登録出願書類とは?」
商標登録出願書類は、「願書」に「必要な書面」を添付して構成されます。各書類の内容は、以下のとおりです。

<願書>
・商標登録を受けようとする意思を示す「商標登録願」という名の書類で、必須事項として、「出願人」情報、代理人を立てた場合は「代理人」情報、「商標登録を受けようとする商標」、「指定商品又は指定役務、商品役務の区分」、「出願手数料」などを記載します。

<必要な書面>
・該当する場合に提出する証明書などです。「必要な」とありますのは、該当しない場合には不要という意味合いです。

Q3a:「願書に追加的に記載する事項は?」
以下の商標については、願書に当該商標である旨を追加的に記載し、又は物件を添付しなければなりません。

・以下の商標についてはその旨を記載
標準文字のみの商標(標準文字:特許庁の定める文字データ)
立体商標
動き商標
ホログラム商標
色彩のみからなる商標
音商標
位置商標

・以下の商標については「商標の詳細な説明」を記載
動き商標
ホログラム商標
色彩のみからなる商標
位置商標
(音商標については、記載するかどうかは任意)

・以下の商標については物件を提出
音商標(音階を記録した光ディスク)

・「商標の詳細な説明」の記載及び「物件」は、該当する商標を特定するものでなければなりません。

Q3b:「商品の詳細な説明とは?」
商品の詳細な説明の記載例は、以下のとおりです。
・動き商標:商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という。)は、時間の経過に伴う標章の変化の状態を示す5枚の図からなる動き商標である。なお、各図の右下隅に表示されている番号は、図の順番を表したものであり、商標を構成する要素ではない。鳥が図1から図5にかけて翼を羽ばたかせながら、徐々に右上に移動する様子を表している。この動き商標は、全体として3秒間である。

・ホログラム商標:商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という。)は、見る角度により表示される内容が変わるホログラム商標である。なお、商標の右下隅に表示されている「図1」といった番号は、図の順番を表したものであり、商標を構成する要素ではない。左側から見た場合には、図1に示すとおり、正面から見た場合には、図2に示すとおり、右側から見た場合には、図3に示すとおりである。

・色彩のみからなる商標:商標登録を受けようとする商標は、赤色(RGBの組合せ:R255,G0,B0)のみからなるものである。

・位置商標:商標登録を受けようとする商標(以下「商標」という。)は、標章を付する位置が特定された位置商標であり、包丁の柄の部分の立体的形状からなる。なお、包丁の刃の部分の破線は、商品の形状の一例を示したものであり、商標を構成する要素ではない。

Q3c:「指定商品又は指定役務とは?」
指定商品又は指定役務とは、商標を使用する商品役務であって、願書に指定して記載したものをいいます。
商品役務は、後述する「商品役務の区分」のいずれかに属します。1つの区分内で複数の商品役務を指定することもできますし、異なる区分に属する商品役務をそれぞれの区分ごとに指定することもできます。

1つの出願で指定商品又は指定役務を多く指定しておけば費用面でメリットがある(出願の本数を削減できる)一方、指定商品又は指定役務が多くなりますと他人の業務と衝突する可能性のある範囲が広がります。ですので、出願のタイミングや事業の進行状況などを考慮して、出願ごとに指定商品又は指定役務をどれにするかを検討することが望ましいといえます。

Q3d:「商品役務の区分とは?」
市場で流通している商品役務を一定の基準によって分類したもので、第1類から第45類までの区分があります。
第1類から第35類までが商品の区分、第36類から第45類までが役務の区分です。
願書には、商品役務が第何類に属するかを記載しなければなりませんが、1つの出願で複数の区分の商品役務を指定することができます。
ただし、特許庁手数料(出願手数料、登録料など)は区分の数に応じて定められており、また、一般的に代理人(弁理士)の手数料も区分の数に応じて増減します。
複数の区分をまとめて出願すると区分ごとに出願するよりも特許庁や弁理士の手数料が割安になるとともに登録後の管理が容易になるというメリットがあります。一方、使用していない指定商品又は指定役務だけが属する区分については費用だけが生じることになります。それらの点を考慮して区分の数を検討することが望ましいといえます。

Q3e:「商標登録出願書類は自分で作成できますか?」
法制度上は、出願人がご自分で商標登録出願書類を作成することに何ら問題ありません。しかし、別に説明しましたように、実際に作成することはなかなか難しい作業になる場合があります。といいますのも、商標登録出願書類は優れて法律文書であるためです。記載内容は、法律の面から審査に付されます。そうしますと、書類の作成にあたっては、ご自分の専門である商品役務の知識以外に、商標法、商標法施行令、商標法施行規則、特許庁審査基準、審決例、判例、実務上の慣行などを把握した上での作業が求められるため、一般の方には非常に負担の大きい作業となります。代理人としての弁理士はこれらに習熟した専門家です。費用はかかりますが、弁理士に商標登録出願書類の作成を依頼されることをお勧めします。

≪出願段階≫

Q4:「出願手続とは?」
出願手続として、特許庁へ「出願手数料」を添えて商標登録出願書類を提出します。
提出方法としては、電子データ化した書類を電子出願(インターネット回線を利用したオンライン手続)できるほか、書面(紙ベース)の書類を郵送提出又は窓口提出することもできます。
ただし、書面(紙ベース)で提出したときには、特許庁側で電子化する(実務的には、一般財団法人工業所有権電子情報化センターが処理)ための実費として、出願手数料とは別に、電子化手数料を納付しなければなりません。
私どもの事務所では電子出願に対応しています。オンラインで商標登録出願書類が受理されますと、ただちに出願番号(例:商願2020-123456)が付与されます。

Q4a:「出願手数料とは?」
出願手数料は、商標登録出願書類の受理や「方式審査」及び「実体審査」のために必要な費用であり、原則として書類の提出と同時に納付することになっています。
電子出願では、出願人又は代理人が特許庁に事前に開設した予納台帳(デポジット)から引き落とす形で納付されます。
書面(紙ベース)の場合には、願書に特許印紙を貼着して納付することになります。
予納台帳が残金不足であったり、特許印紙が貼着されていない又は金額不足したりしているような場合には、定められた金額を指定期間内に納付すべき旨の補正命令が出されます。
指定期間内に納付すべき金額を納付しないときは、特許庁長官は、出願を却下することができますので、注意が必要です。
現在のところ、出願手数料は「3,400円+8,600円×区分の数」です(減免制度はありません)。

Q5:「方式審査とは?」
方式審査とは、出願手数料の納付のチェックに加えて、出願人の手続能力(未成年者等の場合の取扱い)、代理人への特別な授権、法律などで定められた方式(書類の様式)について特許庁長官(実際には、担当部署)が行う審査のことをいいます。
違反が発見されると、指定期間内に補正すべき旨の補正命令が出されます。指定期間内に補正しないときは、特許庁長官は、出願を却下することができますので、注意が必要です。
さらに、不適法な手続であって補正できないもの(例えば、商標登録出願書類の願書に「指定商品又は指定役務」又は「商品役務の区分」が記載されていないような場合)は却下されます。
却下されるということは出願として受理されないということですから、出願番号の付与もありません。

Q6:「出願公開とは?」
出願があったとき、方式審査をクリアしていることを前提として、特許庁長官は商標登録出願書類の内容を商標公報に掲載(「公開商標公報」といいます)することにより出願公開することになっています。出願公開の趣旨は、第三者が無駄な商標選定をしなくてもよいように、商標のサーチのために情報提供を行うというものです。出願公開されますと、出願番号を利用して、公開番号(例:商標公開2020-123456)が付与されます。

≪商標登録要件≫

Q7:「狭義の商標登録要件とは?」
狭義の商標登録要件とは、出願された商標登録を受けようとする商標が登録を受けるための最も基本的な要件です。
<商標についての要件>
・「自己の業務に係る商品役務について使用すること」
・「自他商品役務識別力を有すること」

Q7a:「自己の業務に係る商品役務について使用することとは?」
この要件は、出願された商標を自己の業務に係る商品役務について使用をする意図があることをいいます。
「自己の」とあることから、自己が使用しないでもっぱら他人に使用させるだけの意図にある商標は、この要件を満たさないことになります。
ただし、登録後に、他人に商標権を譲渡したり、ライセンスを設定又は許諾したりすることについては、私的自治の範囲である財産権の処分であることから、当該要件は関知しません。
「使用をする」とある点については、登録の際に実際に使用をしていなくても、登録後近い将来に使用をする予定があれば足ります。

Q7b:「自他商品役務識別力を有することとは?」
自他商品役務識別力(略して単に「識別力」ということがあります)とは、商標が自己の商品役務と他人の商品役務を識別する力のことをいいます。
識別力が無い商標を登録しても出所表示機能を発揮し得ない(出所すなわち製造元、販売元、提供元などを示す目印とならない)ことから、無意味なことになります。この識別力が無い商標には、商品役務が流通過程に置かれた際に誰でもが使用する必要があることから、特定の一私人に独占させることが妥当でない商標も含まれます。
商標のもつ機能を分析的に捉えると以下のようになりますが、自体商品役務識別機能は商標が備えるべき最も本質的な機能ということができます。

・自他商品役務識別機能:自己の業務に係る商品役務と他人の業務に係る商品役務を区別する働きをいいます。
・出所表示機能:同一の商標が使用された商品役務は同一の事業者による商品役務であることを示す働きをいいます。
・品質保証機能:同一の商標が使用された商品役務は同一の品質又は質であることを保証する働きをいいます。
・宣伝広告機能:商品役務の存在、品質又は質、効能を需要者に広く知らせる働きをいいます。

Q7c:「識別力が無いとは?」
以下のような商標は、識別力が無いと判断されます。

<普通名称>
・普通名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
・普通名称:取引界において一般的名称と認められている名称
・普通に用いられる方法:書体や全体構成に特殊な工夫がないこと
・標章のみ:他の識別力のある標章との結合商標でないこと
・例示:商品「サニーレタス」に商標「サニーレタス」
商品「スマートフォン」に商標「スマホ」

<慣用商標>
・ある商品役務について慣用されている商標
・慣用商標:同種類の商品役務に当該事業者が普通に使用している商標
・例示:商品「自動車の部品,付属品」に商標「純正」,「純正部品」
商品「清酒」に商標「正宗」
役務「婚礼の執行」に商標「赤色及び白色の組合せの色彩」
役務「葬儀の執行」に商標「黒色及び白色の組合せの色彩」
商品「焼き芋」に商標「石焼き芋の売り声」
役務「屋台における中華そばの提供」に商標「チャルメラの音」

<記述的商標>
・商品の産地、販売地、品質その他の特徴等の表示又は役務の提供の場所、質その他の特徴等を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
・商品について:産地表示、販売地表示、品質表示、原材料表示、効能表示、用途表示、形状表示、生産使用の方法時期表示、その他の特徴表示、数量価格表示
・役務について:役務提供場所表示、質表示、提供の用に供する物表示、効能表示、用途表示、態様表示、役務提供の方法時期表示、その他の特徴表示、数量価格表示
・例示:原材料表示:商品「バッグ」に商標「革」
用途表示:商品「自転車」に商標「通学」
価格表示:いずれかの商品役務に商標「1,000円」
使用又は提供時期表示:いずれかの商品役務に商標「正月」
品質表示:商品「書籍」に商標「商標法」
質表示:役務「放送番組の制作」に商標「ニュース」
質表示:役務「録音済みコンパクトディスクの貸与」に商標「日本民謡集」
特徴表示(色彩):商品「自動車用タイヤ」に商標「黒色」
特徴表示(音):商品「炭酸飲料」に商標「シュワシュワ」という音

<ありふれた氏又は名称>
・ありふれた氏又は名称を普通に用いられる方法で表示する標章のみからなる商標
・氏:氏名のうちの「氏」(「氏名」や氏名のうちの「名」は該当せず)
・名称:商号、屋号、芸名、筆名など
・例示:氏として、「小林」、「佐藤」
名称として、「日本屋」、「薩摩堂」

<極めて簡単で、かつ、ありふれた標章>
・極めて簡単で、かつ、ありふれた標章のみからなる商標
・仮名文字1字、ローマ文字1字又は2字、輪郭など(「エイビー\AB」の2段構成や、ロゴ文字で表示した「JR」や「JA」などは該当せず)
・例示:数字として、「トウェルブ」、「じゅうに」
輪郭として、「△」、「□」、「○」、「◇」
図形として、「1本の直線」、「1本の波線」

<識別力が無い商標>
・需要者が何人かの業務に係る商品役務であることを認識できない商標
・識別力が無い商標を総括的に定めたもの(単位、現元号、単なる地模様、自然音を認識させる音、特定の役務に多数使用されている店名など)
・例示:役務「アルコール飲料を主とする飲食物の提供」に商標「さくら」、「愛」、「純」、「ゆき」、「蘭」
商品「焼肉のたれ」の広告における「ビールを注ぐ『コポコポ』という効果音」

<使用による例外>
・「記述的商標」、「ありふれた氏又は名称」、「極めて簡単で、かつ、ありふれた標章」については、使用された結果、識別力を獲得し、需要者が商品役務の出所を認識できるものは、商標登録を受けることができます。」

Q8:「広義の商標登録要件とは?」
広義の商標登録要件には、狭義の商標登録要件に以下の要件が加わります(ここに記載した以外の要件もありますが、複雑になりますので割愛します)。
狭義の商標登録要件を含む広義の商標登録要件が満たされない場合には、後述します「拒絶理由」に該当し、商標登録を受けることはできません。

<商標についての要件>
・「不登録事由に該当しないこと」
・「最先の出願であること(同日出願の場合)」
・「地域団体商標の要件を満たすこと」

<出願についての要件>
・「商標の詳細な説明及び物件が商標を特定するものであること」
・「一商標一出願を満たすこと」

Q8a:「不登録事由に該当しないこととは?」
この要件は、公益保護及び出願人以外の私益保護の観点から、商標登録を受けることができないというものです。以下のものがあります。

<公益保護>
・「国旗、菊花紋章、勲章、褒章、外国国旗」と同一又は類似する商標
・「工業所有権の保護に関するパリ条約同盟国、世界貿易機関加盟国、商標法条約締約国の紋章その他の記章であって経済産業大臣が指定するもの」と同一又は類似する商標
・「国際連合その他の国際機関の標章であって経済産業大臣が指定するもの」と同一又は類似する商標(例外があります)
・「赤十字の標章又は名称、関連する特殊標章」と同一又は類似する商標
・「日本国、パリ条約同盟国、世界貿易機関加盟国、商標法条約締約国の政府又は地方公共団体の監督用又は証明用の印章又は記号であって経済産業大臣が指定するもの」と同一又は類似する商標
・「国、地方公共団体、これらの機関、非営利公益団体、非営利公益事業の標章であって著名なもの」と同一又は類似する商標
・「公序良俗を害するおそれ」がある商標(矯激、卑猥、差別的なもの、社会道徳観念に反するものなどが該当します。周知著名な歴史上の人物名を使用して公共の利益を損なうおそれがある場合や、救急車のサイレンの音、国歌なども該当します)
・「政府、地方公共団体などが開設する博覧会の賞」と同一又は類似の標章を有する商標
・「商品の品質又は役務の質の誤認を生ずるおそれ」がある商標
・「商品、商品の包装、役務が当然に備える特徴(立体的形状、色彩、音)のみ」からなる商標

<私益保護>
・「現存する他人の肖像、氏名(自然人)、名称(法人)、著名な雅号、芸名、筆名、これらの著名な略称」を含む商標(その他人の承諾を除く)
・「需要者に広く認識されている他人の未登録商標と同一又は類似の商標であって同一又は類似の商品役務に使用」する商標
・「他人の先願先登録商標と同一又は類似の商標であって同一又は類似の商品役務に使用」する商標
・「他人の登録防護標章と同一の商標であって同一の商品役務に使用」する商標
・「種苗法によって品種登録された品種の名称」と同一又は類似の商標であって当該品種の種苗又は類似する商品役務に使用する商標
・「他人の商品役務と混同を生ずるおそれ」がある商標(具体的には、国内で著名な他人の商標との関係において、商標及び商品役務が同一又は類似でなくても出所混同のおそれがある商標をいいます)
・「ぶどう酒又は蒸留酒の産地標章を産地以外の地域を産地とするぶどう酒又は蒸留酒に使用」する商標
・「日本国又は外国で広く認識されている商標と同一又は類似する他人の商標であって不正の目的で使用」する商標(商品役務の同一又は類似、出所混同の有無は、不問です)」

<特則>
・私益保護のうち、「他人の肖像等」、「周知の他人の未登録商標」、「国内で著名な他人の商標」、「ぶどう酒等産地表示」、「外国で周知の他人の商標」については、出願時に該当しなければ、適用がありません。

Q8b:「最先の出願であることとは?」
同一又は類似の商品役務について使用する同一又は類似の商標について複数の出願があったとします。
いずれも他の商標登録要件を満たしているとき、重複登録を排除するために、最先の出願のみが商標登録を受けることができるという要件です(先願主義といいます)。
出願日の異同の関係から、以下のように調整されます。

・異なった日に複数の商標登録出願があった場合は、最先の出願のみ商標登録可。
・同じ日に複数の商標登録出願があった場合は、出願人同士の協議により定めた出願のみ商標登録可。
協議不成立・不調のときは、特許庁長官が行う公正なくじにより定めた出願のみ商標登録可。
このうち、「異なった日」については、不登録事由の「他人の登録商標」の要件と効果が同じことから、拒絶理由としては、「同じ日」についての要件のみが挙げられています。

Q8c:「地域団体商標の要件を満たすこととは?」
商標は「自己の業務に係る商品役務について使用する」ものをいいますが、流通過程における実相として、事業者を構成員とする団体も取引界に存在します。
そのような団体では構成員に商標を使用させるケースがあります。このため、商標登録要件を拡張して「自己又は構成員の業務に係る商品役務について使用する」商標の登録を認める2つの制度があります。
1つは「団体商標」と、もう1つは「地域団体商標」といいます。
「団体商標」の商標についての登録要件は通常の商標についての要件と同じです。
一方、「地域団体商標」の商標については通常の商標とは異なる登録要件が課せられるため、その登録要件を満たさなければなりません。

<団体商標>
・趣旨:地域おこしや特定の業界の活性化のために独自ブランドによる特産品作りをするような場合に利用されます。
・団体:一般社団法人、その他の社団(法人格を有しないもの、会社を除く)、事業協同組合(法人格を有するもの)
・出願時の証明書:該当する団体であることの証明書(方式審査の対象)

<地域団体商標>
・趣旨:地名と商品役務名とを組合せた商標を登録し、地域ブランドの育成に資することを目的とします。
・団体:該当する地域における、事業協同組合(法人格を有し加入自由条件があるもの。農業協同組合等)、商工会、商工会議所、特定非営利活動法人(NPO法人)、これらに相当する外国の法人
・商標:地域の名称と商品役務の普通名称、慣用名称を組み合わせた商標であって、普通に用いられる方法で表示する文字のみからなる商標(さらに、「本場」、「特産」などの慣用文字を付加してもかまいません)。
「地名+商品役務名」のみからなるような商標は、「記述的商標(産地表示等)」に該当し、通常では識別力が無いとして登録されません。
これに対し、地域団体商標は、使用された結果需要者の間に広く認識されているものについて登録が認められます。

・指定商品又は指定役務:商標に含まれるものに限られます。
・例示:「夕張メロン」、「喜多方ラーメン」など
・出願時の証明書:該当する団体であることの証明書、地域の名称の関連性を示す証明書(方式審査の対象)

Q8d:「商標の詳細な説明及び物件が商標を特定するものであることとは?」
動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、位置商標について記載した「商標の詳細な説明」、音商標について提出した「物件(音階を記録した光ディスク)」は、商標を特定するに足るものでなければなりません。

Q8e:「一商標一出願を満たすこととは?」
商標登録出願は、1又は2以上の商品役務を指定するとともに、商標ごとにしなければなりません。1つの出願で複数の商標を出願することはできません。
指定した商品を「指定商品」、指定した役務を「指定役務」といいますが、この指定は、特許庁の定める「商品及び役務の区分」に従ってしなければなりません。
なお、この区分は、商品又は役務の類似の範囲を定めるものではありません。

≪審査段階≫

Q9:「実体審査とは?」
「審査段階」でいう審査とは、「審査官」(特許庁職員で資格を有する者)による「実体審査」のことを指しています。
実体審査とは、審査官が商標登録出願に「拒絶理由」があるかどうかを審査することをいいます。
商標登録出願には、特許出願とは異なり、実体審査のための「出願審査請求」の制度はなく、特許庁長官による方式審査をクリアすると自動的に審査官による実体審査に移行します。
審査官は、審査の結果、拒絶理由が発見されなければ「登録査定」という行政処分を行うこと、拒絶理由が発見されれば「拒絶査定」という行政処分を行うことが義務付けられています。これらの行政処分には裁量がありません。拒絶理由は法定されており、それ以外の理由で拒絶することは認められていません。
審査官は、拒絶査定をしようとする場合には、それに先立って出願人に対し「拒絶理由通知」を出します。

Q10:「商標登録OKのときの登録査定とは?」
登録査定は、審査の結果、出願された商標は拒絶理由を発見しないので商標登録できるとする審査官による行政処分です。
「登録査定」というタイトルが付いた書面が出されます。
登録査定には、商標権の設定登録のための注意書きとして、「この書面を受け取った日から30日以内に登録料の納付が必要です。」と記載されています。
登録査定を受けても登録料を納付しなければ商標権は発生しませんので、ご注意ください。詳しくは、≪商標権成立段階≫で説明します。

Q11:「商標登録OKでないときの拒絶査定とは?」
拒絶査定は、審査の結果、出願された商標は拒絶理由があるので商標登録できないとする審査官による行政処分です。
「拒絶査定」というタイトルが付いた書面が出されます。
拒絶査定には、注意書きとして、「この査定に不服があるときは、この査定の送達日から3か月以内に審判(「拒絶査定不服審判」)を請求することができます」と記載されています。
審査官は、拒絶査定をしようとする場合、それに先立って、出願人に対し、拒絶理由を明示した「拒絶理由通知」を出します。

Q11a:「拒絶理由通知とは?」
拒絶理由通知とは、審査官が拒絶査定に先立って出願人に送る「拒絶理由」を明示した通知のことをいいます。
拒絶理由通知に対して、出願人は「意見書」を提出する機会を与えられますが、これは、出願人に反論の機会を与えるという趣旨です。
出願人は、希望すれば、この機会に「手続補正書」を提出して、拒絶理由を解消するために願書に記載した指定商品又は指定役務、商標の「補正」をすることもできます。
意見書及び/又は手続補正書は、拒絶理由通知の中で指定されている期間内(拒絶理由通知の発送の日から40日以内)に提出します。
拒絶理由通知が出される回数は法律では制限されていません。しかし、実務的には審査過程がエンドレスとなることを避けるため、原則的に1回のみです。審査を効率的に進める観点から、その1回の拒絶理由通知にすべての拒絶理由が記載されることになっています。出願人は、そのすべての拒絶理由に応答しなければなりません。

Q11b:「拒絶理由とは?」
商標登録出願が登録査定を得るためには、既に説明しました狭義及び広義の商標登録要件(割愛したものも含む)の1つでも違反すると、拒絶理由に該当するとして出願は拒絶されます。
なお、願書に記載した指定商品又は指定役務、商標について行った「補正」が以下の要件を満たさないと判断されますと、審査官により、拒絶理由ではなく、「補正却下決定」とされます。補正については、別に説明します。
<補正についての要件>
・願書に記載した指定商品又は指定役務、商標の補正は要旨を変更するものであってはならないこと(要旨変更補正禁止)

Q11c:「主な拒絶理由は何?」
前述した商標登録要件に対する拒絶理由のうち、違反しているとして指摘されることが多いという意味で主な拒絶理由には以下のものがあります。
これら主な拒絶理由に関する審査官の拒絶理由通知と出願人の意見書の交換は、商標の登録性について審査官と出願人との見解を闘わせるディスカッションという側面を有しています。

<商標についての拒絶理由>
・不登録事由の「私益保護」のうち、以下に該当する、すなわち、他人の商標と同一又は類似とされる場合
・「需要者に広く認識されている他人の未登録商標と同一又は類似の商標であって同一又は類似の商品役務に使用」する商標
・「他人の先願先登録商標と同一又は類似の商標であって同一又は類似の商品役務に使用」する商標

Q11d:「需要者に広く認識されている他人の未登録商標による拒絶とは?」
出願された商標は、該当する他人の商標を引用して拒絶されます。引用される商標の属性は以下のとおりです。
・「他人の」:出願人以外の者の商標であれば、出所の混同が起こり得るためです。
・「周知な未登録商標」:登録はされていないが、数県にまたがる程度に需要者に広く認識されている商標です。
・「同一又は類似の商標」:標章自体が同一又は類似することです。
・「同一又は類似の商品役務」:願書に記載された指定商品又は指定役務と、引用された商標が使用されている商品役務とが同一又は類似であることです。

Q11e:「他人の先願先登録商標による拒絶とは?」
出願された商標は、該当する他人の商標を引用して拒絶されます。引用される商標の属性は以下のとおりです。
・「他人の」:出願人以外の者の商標であれば、出所の混同が起こり得るためです。
・「先願先登録商標」:自分の出願日よりも前に出願され、既に登録済みの商標です。
・「同一又は類似の商標」:標章自体が同一又は類似することです。
・「同一又は類似の商品役務」:願書に記載された指定商品又は指定役務と、引用された商標が使用されている商品役務とが同一又は類似であることです。

Q11f:「拒絶理由通知への対応は?」
拒絶理由を十分吟味した上で、拒絶理由ごとに検討を行います。
すなわち、
・拒絶理由に対して反論可能であるか、
・指定商品又は指定役務を補正すれば反論可能であるか、
・一部について反論可能であるが残りは反論が難しいか、
・拒絶理由を受け容れざるを得ないか、
などです。
それぞれの場合における対応案は以下のとおりです。
出願された商標が「他人の先願先登録商標と同一又は類似の商標であって同一又は類似の商品役務に使用する商標」であるという拒絶理由を受けた場合の例を説明します。

<拒絶理由に対して反論可能である場合>
・意見書で審査官の見解に反論します。
出願商標と引用商標との間における、商標の同一性・類似性、商品役務の同一性・類似性の判断について、審査官の認定に誤解や過誤があったり、両者の対比検討が合理的でなかったりすれば、その点を反論します。
なお、この反論は、あくまで技術面、法律面から冷静かつ論理的に行うもので、審査官に対する感情的な誹謗中傷となるような記載は絶対してはなりません。

<指定商品又は指定役務を補正すれば反論可能である場合>
・意見書による反論のみでは解消が難しいと考えられる場合には、手続補正書をもって指定商品又は指定役務を補正します。
例えば、出願した複数の指定商品又は指定役務のうち、審査官が類似しているとして引用した他人の登録商標の指定商品又は指定役務と同一又は類似のものを削除します。
補正にあたっては、要旨変更(詳しくは後述します)となる補正には要注意です。

<指定商品又は指定役務の一部については反論が難しい場合>
・この場合、反論可能な指定商品又は指定役務を現在の出願に残し、反論が難しい部分については新たな出願に「分割」することができます。
これにより、もとの出願を拒絶理由がない状態にして早期の権利化を図るとともに、拒絶理由については新たな出願で争うことができます。

・審査官が類似しているとして引用した他人の登録商標について、その登録を取り消すことができる場合があります。
登録後3年間継続して登録商標を使用していない事実があれば、不使用による商標登録取消審判(詳しくは後述します)を特許庁長官に請求します。
実務的には、衝突している指定商品・指定役務の範囲内で取り消せば十分です。

・審査官が引用した他人の登録商標を、その他人から譲渡してもらうことができます。商標権の買取ということになりますが、これによって「他人の」登録商標ではなくなりますので、その旨を意見書で説明することによって拒絶理由は解消します。
なお、買取交渉には日時を要することがあるため、審査官には上申書を提出して意見書の提出期限を猶予してもらうこともできます(下記の2つも同様です)。

・同様の趣旨で、他人が会社であれば、会社そのものを買収することで「他人」ではなくなり、拒絶理由は解消します。

・上記2つとは逆に、自己の商標登録出願の出願人名義をその他人に譲渡することによっても「他人の」登録商標でなくすことができます。
この場合、他人名義で登録査定を得た後、あらためて自己の名義に戻すことをあらかじめ約定しておきます(英語で、アサイン・バックといいます)。

<拒絶理由を受け容れざるを得ない場合>
・すべての拒絶理由を解消できないのであれば、権利化を断念し、放置します。

Q11g:「補正とは?」
補正とは、商標登録出願書類を補充訂正することをいい、一切の補正を認めないのは出願人に酷なことから、一定の制限下で認められています。
出願人は、拒絶理由を解消するため、願書に記載した指定商品又は指定役務、商標を補正することができます。
適法な補正をしたときには補正後の内容で出願したものとみなされます。一方、出願時の内容と同一性の範囲を超える補正である場合には、「要旨変更」であるとして補正却下決定(補正を認めない決定)となります。他の出願人などの第三者に不測の不利益を与えることになってしまうからです。その場合、出願人は、以下の中から対応を選択することになります。

<補正却下決定を受け容れる場合>
・補正前の指定商品又は指定役務、商標について審査を続行する(あらためて別の補正を行うことも可)。
・補正後の指定商品又は指定役務、商標で権利化を図る場合には、「補正後の商標についての新出願」を行う。

<補正却下決定に不服がある場合>
・「補正却下決定不服審判」を請求する。
なお、法律上は、指定商品又は指定役務、商標の補正が認められていますが、要旨変更とならないような補正は非常に狭い範囲に限られていますので、ご注意ください。要旨変更とならない補正は、次のようなものです。
・指定商品又は指定役務の補正:指定商品又は指定役務の減縮(削除したり、カバーしている範囲を縮めたりすること)、誤記の訂正、明瞭でない記載の釈明
・商標の補正:標章中にある「JIS」、「JAS」、「特許」などのような公的な意味を付記的に表示している部分の削除
指定商品又は指定役務の内容を変更(異なるものに変えること)又は拡大(追加したり、カバーしている範囲を広げたりすること)すると要旨変更と認定されます。したがって、実務上は、補正は減縮のみとの前提で対処していくことになります。また、商標は、原則的には補正困難との前提で対処していくことになります。

Q11h:「補正後の指定商品又は指定役務、商標についての新出願とは?」
出願人は、補正却下決定を受けたとき、同決定の送達日から3か月以内に補正後の指定商品又は指定役務、商標について新たな商標登録出願をすることができます。
新出願は、もとの出願における手続補正書を提出した時にしたものとみなされます。補正前の指定商品又は指定役務、商標ではなく補正後の指定商品又は指定役務、商標で権利化を図りたいという出願人に対し、一定のアドバンテージを与えるものです。
もとの出願は取り下げたものとみなされますので、新出願を通じてあらためて審査手続が進行します。
なお、新たな出願には、出願手数料が必要です。

Q11i:「補正却下決定不服審判とは?」
出願人は、補正却下決定に不服があるときは、「補正却下決定不服審判」を特許庁長官に請求することができます。同決定の送達日から3か月以内に、審査手続とは別に、「審判手数料」を添えて「審判請求書」を提出します。
審判とは審判官(特許庁職員で資格を有する者)の合議体による審理のことをいいます。
補正却下決定不服審判は、審査官が審査官による補正却下決定に不服がある場合に、補正却下決定の当否を審判官合議体に審理させることをいいます。審査官の判断に過誤がないとは必ずしも言い切れないためです。
審査段階では審査官1人で審査が行われます(特許庁内の上司によって決済はされます)。これに対し、審判段階では複数(一般的には3人)の審判官合議体によって裁判類似の手続を経て審理(補正却下決定不服審判は、原則として、書面審理)されます。
審理の結果、補正却下決定が失当であると判断したときは請求成立審決(補正却下決定取消審決)が、補正却下決定が正当であると判断したときは請求不成立(補正却下決定維持審決)が、がなされます。請求成立審決(補正却下決定取消審決)は、審査官を拘束します。
なお、補正後の意匠についての新出願をしたときは、当該審判を請求することはできません。
現在のところ、審判手数料は、「15,000円+40,000円×区分の数」です(減免制度はありません)。

Q11j:「出願の分割とは?」
商標登録出願の分割とは、複数の指定商品又は指定役務が出願に含まれている場合、指定商品又は指定役務ごとに別の新たな出願に分割することをいいます。
引用された商標の商品役務と同一又は類似とされた指定商品又は指定役務を分割することになります。
分割後の新たな出願は、要件を満たす場合は、もとの商標登録出願の時にしたものみなされます。
なお、新たな出願には、出願手数料が必要です。

Q11k:「反論して拒絶理由を解消できた場合は?」
出願は、拒絶理由を発見しないということで登録査定となります。

Q11l:「反論しても拒絶理由を解消できない、何も対応しない場合は?」
出願は、拒絶理由通知に示された拒絶理由をもって「拒絶査定」となります。
反論した場合は、出願人が意見書を出してから審査官が検討を終了した後に、何も対応しないで放置した場合は、意見書提出の指定期間の経過した後に、拒絶査定が出されます。
同一又は類似する他人の登録商標があるという拒絶理由で拒絶査定となった場合、注意が必要です。この拒絶査定が確定しますと、拒絶理由通知で引用されたその他人の商標権の侵害(後述します)に問われるおそれがあるからです。

Q12:「拒絶査定を受け容れる場合は?」

拒絶査定を受け容れる場合、出願人は、以下の2つの選択肢の中から対応を選ぶことになります。

・拒絶査定の送達日から3か月以内に、当該商標登録出願を他の形式の商標登録出願に変更できます。変更後の出願がそれぞれの要件を満たす場合には、変更後の出願の出願日は当該商標登録出願の出願日にしたものとみなされます。当該商標登録出願は、取り下げたものとみなされます。
・権利化を断念する場合は、放置します。拒絶査定の送達日から3か月を経過した後、拒絶査定が確定します。

Q12a:「出願の変更とは?」

出願の変更とは、出願形式の異なる商標登録出願の間で、互いに出願形式を変更することをいいます。
もとの出願が拒絶されても、変更後の出願で登録査定を得ることができる可能性があるためです。
要件を満たす場合は、変更後の出願はもとの出願の時にしたものみなされます。もとの出願は、取り下げたものとみなされます。
変更後の出願には、出願手数料が必要です。
変更後の出願において、出願人の要件を満たさない場合(団体商標及び地域団体商標の出願人としての団体に該当しない場合)には、方式審査の結果として、不適法な手続であって補正できないものに該当するため却下されます。
また、変更後の出願において、指定商品又は指定役務、商標がもとの出願と同一でない場合には、変更後の出願の出願日は、現実に出願した日となります。

・団体商標   ⇒ 通常の商標又は地域団体商標
・地域団体商標 ⇒ 通常の商標又は団体商標
・通常の商標  ⇒ 団体商標又は地域団体商標

Q13:「拒絶査定に不服がある場合は?」
出願人は、拒絶査定に不服がある場合、「拒絶査定不服審判」を特許庁長官に請求することができます。拒絶査定の送達日から3か月以内に、審査手続とは別に、「審判手数料」を添えて「審判請求書」を提出します。
同審判は、拒絶査定に対する不服申立ての唯一の手段となります。これ以外の手段はありません。
現在のところ、審判手数料は、「15,000円+40,000円×区分の数」です(減免制度はありません)。

Q13a:「拒絶査定不服審判とは?」
審判とは審判官(特許庁職員で資格を有する者)の合議体による審理のことをいいます。
拒絶査定不服審判は、出願人が審査官による拒絶査定に不服がある場合に、拒絶査定の当否を審判官合議体に審理させることをいいます。審査官の判断に過誤がないとは必ずしも言い切れないためです。
審査においてなされた手続は審判においても効力を有します(審査と審理は継続性を有します)。
審査段階では審査官1人で審査が行われます(特許庁内の上司によって決済はされます)。これに対し、審判段階では複数(一般的には3人)の審判官合議体によって裁判類似の手続を経て審理(拒絶査定不服審判は、原則として、書面審理)されます。その意味において審査よりも慎重に登録可否の判断がなされることが期待されます。
審理にあたっては、指定商品又は指定役務が属する取引界における実際の商標の使用状況や認識が考慮される傾向にあります。
審判で結論が出るまでに1年~2年かかる場合もあります。

Q14:「商標登録OKのときの請求成立審決(登録審決)とは?」
請求成立審決(登録審決)は、拒絶査定不服審判の審理の結果、出願された商標は拒絶理由を発見しないので商標登録できるとする審判官合議体による行政処分です。
「審決(請求成立)」というタイトルが付いた書面が出されます。
審決には、商標権の設定登録のための注意書きとして、「この書面を受け取った日から30日以内に登録料の納付が必要です。」と記載されています。
請求成立審決(登録審決)を受けても登録料を納付しなければ商標権は発生しませんので、ご注意ください。詳しくは、≪商標権成立段階≫で説明します。

Q15:「商標登録OKでないときの請求不成立審決(拒絶審決)とは?」
請求不成立審決(拒絶審決)は、拒絶査定不服審判の審理の結果、出願された商標は拒絶理由があるので商標登録できないとする審判官合議体による行政処分です。
「審決(請求不成立)」というタイトルが付いた書面が出されます。
審判官合議体は、請求不成立審決(拒絶審決)をしようとする場合であって、審査段階とは異なる新たな拒絶理由を発見したときには、先立って、出願人に対し、拒絶理由を明示した拒絶理由通知を出します。出願人に意見書(反論)の機会を与えた上、なお拒絶理由が解消しない場合には請求不成立審決(拒絶審決)を出します。

Q16:「請求不成立審決(拒絶審決)に不服がある場合は?」
出願人は、請求不成立審決(拒絶審決)に不服がある場合、特許庁での手続を離れて、東京高等裁判所(知財高裁)に審決取消訴訟を提起することができます。
拒絶査定不服審判を含む審判における審決に対する訴えは、知財高裁の専属管轄です。
審判は厳格な裁判類似の手続によって技術的専門性の審理が行われることを考慮して、地方裁判所での第一審は省略されています。

Q17:「早期審査・早期審理制度とは?」
年間、商標登録出願の件数は約19万件強となっており、これを分野別に割り振って出願順に実体審査を行っても、実体審査に着手されるまでに待ち時間が発生します。分野別や年によってバラツキがありますが、出願から平均して約10か月~約14か月で実体審査に着手されるのが実情です(特許庁HPに分野別の「商標審査着手状況」が公表されています)。
そこで、特許庁は、審査の促進の方策の一環として、一定の要件を満たす場合、出願人からの申請を受けて審査・審理を通常に比べて早く行う早期審査・早期審理制度を運用しています。
早期審査の対象にされた場合には、実体審査の順序が繰り上がり、早期審査の申請から着手までの待ち時間が平均約2か月以下です。
早期審理の対象にされた場合には、早期審理の申請後に審理可能となってから審決までの時間が平均約4か月以下となっています。

Q17a:「どうすれば早期審査・早期審理制度を利用できますか?」
早期審査・早期審理制度を利用したい方は、「早期審査・早期審理に関する事情説明書」に次の対象のいずれかに該当していることを記載し、そのことを証明する書類を添付して提出します。
提出時期は、出願と同時以降ならいつでもかまいません。
制度の利用にあたって特許庁手数料は無料ですが、代理人に「事情説明書」の作成・提出を依頼した場合は代理人手数料が発生します。
なお、当面、商標の態様のうち、動き商標、ホログラム商標、色彩のみからなる商標、音商標、位置商標、立体商標の一部は、対象外となっています。

・対象1:出願人(又はライセンシー)が、出願商標を指定商品・指定役務の一部に既に使用していて(又は使用の準備を相当程度進めていて)、かつ、権利化について緊急性を要する案件
・対象2:出願人(又はライセンシー)が、出願商標を既に使用している商品・役務(又は使用の準備を相当程度進めている商品・役務)"のみ"を指定している案件
・対象3:出願人(又はライセンシー)が、出願商標を指定商品・指定役務の一部に既に使用していて(又は使用の準備を相当程度進めていて)、かつ、「類似商品・役務審査基準」等に掲載されている商品・役務"のみ"を指定している案件

≪商標権成立段階≫

Q18:「商標権の成立はいつ?」
特許庁長官は、登録査定又は請求成立審決(登録審決)が出願人に送り届けられた日(送達日)から30日以内に登録料の納付があると、商標原簿(不動産登記簿に類するもの)に商標権の設定登録をします。その登録の時に商標権が発生します。
登録料の納付がなされない場合は、商標登録出願は却下されることがあります。
利害関係人(ライセンシーなど)は出願人の意に反しても登録料を納付し、その費用の償還を出願人に請求できます。
設定登録によって、出願番号とは別に、商標登録番号(商標登録第xxxxxxx号)が付与されます。

Q18a:「登録料の金額は?」
後述しますように、商標権の存続期間は10年単位で更新できるようになっています。
登録料は、現在のところ、設定登録時(最初の10年分)及び更新申請時(2回目以降の10年分)の納付分として以下の金額に設定されています。(2022.4改定)
・設定登録時:32,900円×区分の数
・更新申請時:43,600円×区分の数

Q18b:「登録料の減免制度は?」
商標権の登録料には、減免制度の提供はありません。

Q18c:「登録料の分割納付は?」
商標権の登録料には、分割納付制度の提供があります。
商標権の存続期間は10年単位ですが、登録料の納付については、前期分割登録料と後期分割登録料の5年ずつに分けて納付することができます。(2022.4改定)
後期分割登録料を納付しないときは、前期5年の満了をもって商標権は消滅します。

・設定登録時:前期分割登録料17,200円×区分の数
後期分割登録料17,200円×区分の数
・更新申請時:前期分割登録料22,800円×区分の数
後期分割登録料22,800円×区分の数

Q18d:「商標権の存続期間とは?」
商標権の存続期間は、設定登録日に始まり、設定登録日から10年の満了日をもって終了します。
この存続期間は、商標権者の「更新登録の申請」により何回でも10年単位で更新できます。逆に、商標権者が不要と思えば、更新をしないことにより商標権を消滅させることができます。登録料を前期5年と後期5年に分割して納付しているときは、5年単位で権利の維持を続けるかどうかの判断をすることになります。
なお、商標権消滅後にその商標を使用し続けていた場合、他人がその商標を登録すると、商標権の侵害で訴えられることもありますので注意が必要です。

Q18e:「なぜ商標権にだけ存続期間を更新する制度があるの?」
特許権、実用新案権、意匠権では、時間の経過とともに権利の内容である創作物の陳腐化が起きます。このことから、一定の存続期間をもって権利を消滅させ、消滅後は誰でも自由に実施できるようにしています。
これに対し、商標権では、登録商標に化体した業務上の信用を維持するため、商標権者が希望する限り、更新を続けることで商標権を永久に存続させることができるようにしています。前述したように、商標法は商標使用者の業務上の信用を保護することを目的としていますので、存続期間を限るとかえって商標法の目的に反してしまいます。
ただ、10年単位での更新登録の申請とすることで商標権を維持する意思を確認していることになります。
なお、商標を使用していなくても更新はできます。使用されていない商標が登録されたままで第三者の選択の範囲が狭まるという弊害が生じているという問題点もあります。

Q18f:「更新登録の申請手続は?」
特許庁に商標権存続期間更新登録申請書という書面を提出し、同時に次の10年分(又は前期5年分)の登録料(更新登録申請時の登録料を更新登録料ということがあります)を納付します。
納付できる者は、商標権者のみです。
更新申請できる期間は、商標権の存続期間満了前6ヶ月から満了の日までです。
更新は、「出願」ではなく「申請」ですので、出願時のような審査は行われません。
更新申請の際に、登録商標を使用した事実の証明などは不要です。

Q19:「商標公報とは?」
特許庁長官は、商標権を設定登録すると、審査・審判を通じて確定した商標権の内容を商標公報(商標掲載公報)に掲載し、公衆に向けて公表(公示)します。
商標登録出願時の内容は出願公開(公開商標公報)によって公表済みです。が、商標掲載公報には、審査・審判を通じて確定した内容、すなわち、審査・審判を通じて指定商品又は指定役務、商標に補正があった場合、その補正後のものが掲載されます。
商標掲載公報の発行日から2か月間、出願書類及び附属物件が公衆の縦覧に供されます。
縦覧とは、無料で誰でも見ることができることをいいます(手数料を納付して見る「閲覧」とは区別されます)。この縦覧は、後述します「登録異議申立て」の便宜を考慮してのものです。

Q20:「商標登録証とは?」
特許庁長官は、商標権を設定登録すると、商標権者に対し、商標登録証を交付します。
商標登録証は、商標権を取得したことの名誉を表徴する「証(あかし)」として交付されるものです。権利の取得や喪失を示す権利書や効力の証明書となるものではありません。例えば、商標登録証を譲渡したからといって、商標権が「譲渡」される訳ではありません。

20a:「商標権は譲渡(売買)できますか?」
商標権は、財産権として、譲渡(売買)できます。
ただし、当事者同士で譲渡の合意をしただけでは、譲渡の効力は発生しません。商標権は無形の財産権であるため、譲渡を含めて権利の移転(相続や会社合併による一般承継を除く)については、当事者の合意が成立していることを前提として、商標原簿に登録することによって初めて効力が発生します。
譲渡による移転の場合には、「商標権移転登録申請書」に当事者間の「譲渡証書」を添付して登録申請をします。なお、一般承継の場合には、登録してなくても移転の効力が発生しますが、特許庁に遅滞なく届け出なければならないことになっています。
商標権の設定、移転などに関する権利関係情報は、特許庁に備えられている商標原簿によって公示されます(ただし、不動産登記簿と同様に公信力はありません)。
指定商品又は指定役務が複数ある商標権については、指定商品又は指定役務ごとに分割して移転することもできます。
譲渡の対価は対象となる商標や交渉次第ですが、有名な商標になると何億円から何千億円もの価値があります。

Q21:「商標権の効力とは?」
商標権者は、指定商品又は指定役務について登録商標を使用する権利を専有します。ただし、後述します「専用使用権」を設定したときには、その設定行為(契約)の範囲内では使用する権利を有しません。
商標権で重要な点は、類似範囲については、それらを専有する権利はないという点です。類似範囲においては、商標権は他人が使用することを排除する権利があるにとどまります。
類似範囲の使用とは、指定商品又は指定役務についての登録商標に類似する商標の使用、指定商品又は指定役務に類似する商品役務についての登録商標又は登録商標に類似する商標の使用です。
・「専有する」:独占的に保有するという意味であり(積極的効力・独占的効力・独占権)、とりもなおさず、独占を害する他人の行為を排除できることも意味します(消極的効力・排他的効力・排他権)。

Q21a:「商標権の効力が及ばない範囲とは?」
商標権は非常に強力な権利ですが、場合によっては弊害が生じることがあります。そこで、公益的又は第三者の私益保護の見地から、消極的効力である排他権の部分について制限を設けています。以下のものには、業として行われていても、商標権の効力は及びません。

<他人の私益保護が必要な商標>
・自己(他人)の肖像、氏名(自然人)、名称(法人)、著名な雅号、芸名、筆名、これらの著名な略称を普通に用いられる方法で表示する商標

<一般的登録要件を満たさない態様の商標>
・指定商品と同一又は類似の商品の普通名称、産地,販売地,品質その他の特徴等、又は指定商品と類似の役務の普通名称、提供の場所,質その他の特徴等を普通に用いられる方法で表示する商標
・指定役務と同一又は類似の役務の普通名称、提供の場所,質その他の特徴等、又は指定役務と類似の商品の普通名称、産地,販売地,品質その他の特徴等を普通に用いられる方法で表示する商標
・指定商品又は指定役務と同一又は類似の商品役務に慣用されている商標
・需要者が何人かの業務に係る商品役務であることを認識できる態様により使用されていない商標

<公益保護が必要な商標>
・商品、商品の包装、役務が当然に備える特徴(立体的形状、色彩、音)のみからなる商標

Q21b:「登録商標の範囲とは?」
登録商標の範囲は、願書に記載した商標に基づいて定められます。また、指定商品又は指定役務の範囲は、願書に記載した指定商品又は指定役務に基づいて定められます。
商標、指定商品又は指定役務ともに、実際の使用状態が基準になるのではなく、審査・審判を通じて確定した願書に記載されたものが基準となります。
なお、ここでいう「範囲」とは同一範囲のことであり、類似範囲ではありません。

Q21c:「商標権の効力の判定とは?」
商標権の効力の判定とは、商標権の効力をめぐる係争に判断資料を提供することを目的として、特許庁の審判官合議体が見解を示すことをいいます。
この見解は行政処分ではなく一種の鑑定ですが、専門官庁である特許庁の公式見解であり、裁判所における裁判官の心証形成に資するものとして大きな意義を有しています。
自分の商標権について、自分の実際に使用している商標が登録商標の同一範囲といえるかどうかの判定を求める自問自答の判定の請求も可能です。
現在のところ、判定手数料は「40,000円」です(減免制度はありません)。

Q22:「ライセンスの設定、許諾とは?」
商標権者は、他人に、ライセンスとして、「専用使用権」を設定したり、「通常使用権」を許諾したりすることができます。
商標権者は「ライセンサー」、専用使用権者は「エクスクルーシブ・ライセンシー」、通常使用権者は「ノンエクスクルーシブ・ライセンシー」ということになります。

Q22a「専用使用権とは?」
専用使用権者は、商標権者(国等の商標権、地域団体商標の商標権を除く)との間で定めた設定行為(契約)に範囲内において、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を専有します。
その設定行為の範囲内においては、商標権者であっても実施する権利はありません。この意味において、専用使用権は、商標権と同様の独占的効力と排他的効力を有することから、特許庁の商標原簿に設定登録しないと成立しません。当事者同士の契約だけでは成立しませんので、ご注意ください。
専用使用権者は、商標権者の承諾を得た場合は、他人に通常使用権を許諾することができます。

Q22b:「通常使用権とは?」
通常使用権者は、商標権者との間で定めた設定行為(契約)に範囲内において、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をする権利を有します。
通常使用権者は使用する権利を専有しませんので、商標権者、専用使用権者、他の通常使用権者は設定行為と重なる範囲でも使用できることになります。逆の言い方をしますと、通常使用権は、独占的効力と排他的効力はなく、指定商品又は指定役務について登録商標の使用をしても商標権者や専用使用権者から権利行使を受けない権利ということができます。
団体商標権者の団体構成員、地域団体商標権者の地域団体構成員は、実質的に通常使用権者とみなされます。
なお、通常使用権は、商標権者又は専用商標権者の許諾以外にも、法律によって、公正の観点から他人に付与されることがあります。法律によって生じた通常使用権も商標権者や専用使用権者から権利行使を受けません。

Q23:「商標権等が侵害されたときの対応は?」
商標権又は専用使用権を侵害されていると認識したときは、商標権者又は専用使用権者は、まず、相手方の使用状況を十分確認します。
そして、自己の商標権と「同一範囲」(指定商品又は指定役務についての登録商標)、「類似範囲」(指定商品又は指定役務についての登録商標に類似する商標の使用、指定商品又は指定役務に類似する商品役務についての登録商標又は登録商標に類似する商標)の使用をしているかどうかを検討します。
その蓋然性が高いと判断されたときは、警告書(タイトルは「伺い書」でも何でもOK。)を送り、相手方の認識を確認します。
商標権又は専用使用権を侵害した者には過失があったと推定されます。その後,相手方の反応次第で、「差止請求」や「損害賠償請求」を検討します。
新聞、業界誌、テレビ、ネット上の広告など、あらかじめ証拠を集めておくことも重要です。

Q23a:「差止請求とは?」
商標権者又は専用使用権者は、自己の商標権又は専用使用権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、侵害の停止又は予防を請求することができます。これを、差止請求権といいます。
侵害行為には、記載した直接侵害のほかに、予備的な行為や幇助的な行為などの間接侵害も含まれます。
差止請求には、侵害者又は侵害するおそれがある者に侵害の故意や過失があったかどうかは関係ありません。
なお、差止請求とともに、侵害行為を組成した物の廃棄、侵害行為に供した設備の除却、侵害の予防に必要な行為(例えば、担保の提供)の請求もできます。

Q23b:「損害賠償請求とは?」
民法上の不法行為として、商標権又は専用使用権が故意又は過失によって侵害された場合には、生じた損害の賠償を請求することができます。
一般には侵害者に故意又は過失があったかどうかは権利者の側に立証責任がありますが、商標法では、侵害者に過失があったものと推定されることになっています。
また、損害賠償請求にあたり、商標権者又は専用使用権者の立証負担の軽減を図るため、損害額の算定方式を規定しています。
さらに、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、業務上の信用を回復するために必要な措置(新聞紙上への謝罪広告など)を請求することもできます。

Q23c:「刑事罰は?」
侵害が故意かつ既遂の場合、侵害者に刑事罰が与えられることがあります。親告罪ではありませんので、商標権者が告訴しなくても適用があります。例えば、法人が故意に侵害すれば、直接的に侵害をした行為者が10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれらを併科に処せられるとともに、法人には3億円以下の罰金刑が科せられます。

Q24:「商標権の同一範囲、類似範囲とは?」
商標権が侵害されたかどうかの判断については、他人の使用している商標、商品役務が登録意匠、指定商品又は指定役務と同一範囲にあるか類似範囲にあるかが重要なポイントです。
同一範囲、類似範囲については前述しましたが、あらためて整理しますと、以下のとおりです。

・同一範囲:商標が同一、かつ、商品役務が同一

・類似範囲:
-->商標が同一、かつ、商品役務が類似
-->商標が類似、かつ、商品役務が同一
-->商標が類似、かつ、商品役務が類似

Q24a:「商標が類似するとは?」
ある商標と、対比する商標とを、同一又は類似の商品役務に使用したときに、需要者が「商品役務の出所(製造元、販売元、提供元など)が同じ?」と思うほどの混同を生ずる場合をいいます。その判断要素として、商標の外観が紛らわしいかどうか、商標の称呼が紛らわしいかどうか、商標から生ずる観念が紛らわしいかどうかを検討し、その商品役務の取引の実情を勘案して総合的に判断します。

<外観が紛らわしいとは?>
・外観とは、「見た目」をいいます。
商標の見た目が紛らわしいとは、対比される商標をその場で注意して見比べると区別がつくが、場所的又は時間的に別々に見ると区別がつき難いような場合を指します。
主に図形商標など商標の形状に特徴のあるものが該当しますが、文字商標においても、例えば、文字配列の観点から「JNOC」と「JNCO」とが紛らわしいとされた例があります。

<称呼が紛らわしいとは?>
・称呼とは、「呼び名」をいいます。
商標の呼び名が紛らわしいとは、対比される商標をその場で注意して聞き比べると区別がつくが、場所的又は時間的に別々に聞くと区別がつき難いような場合を指します。
主に文字商標など商標の可読部分に特徴のあるものが該当します。例えば、「pba」(ピービーエー)と「BBA」(ビービーエー)とが紛らわしいとされた例があります。

<観念が紛らわしいとは?>
・観念とは、「意味・内容」をいいます。
商標から生ずる観念が紛らわしいとは、外観や称呼が紛らわしなくても、商標から生ずる意味・内容が原則として同一の場合を指します。
例えば、「名奉行金さん」と「遠山の金さん」とが紛らわしいとされた例があります。

Q24b:「商品役務が類似するとは?」
ある商品役務と、対比する商品役務とに、同一又は類似の商標を使用したときに、需要者が「商品役務の出所(製造元、販売元、提供元など)が同じ?」と思うほどの混同を生ずる場合をいいます。
判断要素は、以下のとおりです。

・商品については、生産部門・販売部門・需要者層等の流通経路、原材料・形状・用途等の商品の属性が一致するかなどを判断します。(清酒と焼酎は類似商品)

・役務については、提供部門・需要者層等の流通経路、提供場所・提供供用物・提供態様・用途等の役務の属性が一致するかどうかなどを判断します。(寿司屋とラーメン屋は類似役務)

なお、審査では判断を統一するため、「類似群」という概念を用いています。同じ「類似群コード」が付された商品役務同士は類似していると判断されます。ただし、「類似群コード」が同じでも非類似になる場合や逆の場合もあります。また、商品と役務とが類似する場合もあります。

Q24c:「無料の検索サイトで商標の類似の判断は可能ですか?」
おおまかな判断は可能な場合もあると思いますが、類似するかどうかの判断(類否判断)が微妙なときには、困難と言わざるを得ません。
商標を担当する弁理士は、特許庁の審査基準、特許庁の審決例、裁判所の判決例などの情報や蓄積を参照しながら慎重に検討しますので、弁理士に調査を依頼することをお勧めします。

Q25:「商標登録は取り消されたり無効とされたりすることがある?」
商標登録は、「登録異議申立て」によって取り消されたり、「商標登録無効審判」によって無効とされたり、「不使用による商標登録取消審判」によって取り消されたりすることがあります。

Q25a:「登録異議申立てとは?」
登録異議申立てとは、審査又は拒絶査定不服審判における審理において拒絶理由がないとされた認定に過誤があった場合に、一般公衆から登録査定に係る異議を受け付け、再審理を通じて登録査定という行政処分の信頼性を確保しようとするものです。
商標権の設定登録に伴って発行される商標掲載公報の発行日から2か月以内であれば、誰でも申立てをすることができます。
審理は審判官合議体と商標権者の間で裁判類似の手続で進行し、取消理由があった場合には取消決定がなされます。取消決定が確定しますと、商標権は初めから存在しなかったとみなされます。取消理由がなかった場合には、維持決定がなされます。
取消理由は、商標登録要件違反(審査段階の拒絶理由)とほぼ同じですが、「最先の出願であること(異日出願の場合)」が追加され、「一商標一出願」は形式的瑕疵として除外されています。
申立て手数料がかかります。

Q25b:「商標登録無効審判とは?」
商標登録無効審判とは、商標権消滅後を含めて、第三者が審判を請求して商標登録を無効にしようとするものです。
審査又は拒絶査定不服審判における審理において拒絶理由がないとされた認定に過誤があった場合や、登録後に商標登録を維持することが不適当となる場合です。
利害関係人であれば原則として誰でも商標登録無効審判を請求できます。しかし、実際は、ある商標を使用しようとする者がサーチをして抵触する登録商標を発見したり、権利侵害をしているとして商標権者が相手方に商標権を行使した場合に、相手方が無効理由を発見したり、という状況下で、請求することがほとんどです。
審理は審判官合議体の進行指揮下で審判請求人と被請求人(商標権者)との間で裁判類似の当事者対抗手続によって進行し、無効理由があるときは請求成立審決(無効審決)、無効理由がないときは請求不成立審決(登録維持審決)がなされます。
請求成立審決(無効審決)が確定しますと、商標権は初めから存在しなかったものとみなされます(登録後の後発的理由の場合は、該当するに至った時から存在しなかったものとみなされます)。
無効理由は、商標登録要件違反(審査段階の拒絶理由)とほぼ同じですが、「最先の出願であること(異日出願の場合)」、「出願により生じた権利を承継しない者の出願」が追加され、「一商標一出願」は形式的瑕疵として除外されています。後発的理由(外国人の権利享有要件違反、条約適合要件違反、公益保護に抵触、地域団体商標の周知性喪失)が追加されています。
審判請求料がかかります。

Q25c:「不使用による商標登録取消審判とは?」
不使用による商標登録取消審判とは、不使用の商標登録を存続させることによる弊害を取り除くため、第三者が審判を請求して商標登録を取り消そうとするものです。

この審判は誰でも請求できます。実際は、ある商標を使用しようとする者がサーチをして抵触する登録商標を発見したときになされます。
商標権者、専用使用権者、通常使用権者のいずれもがその登録商標を継続して3年以上日本国内で使用していない場合、商標登録の取消を請求できます。

我が国では、使用の事実が登録要件となっていないため、不使用の商標も登録され更新されていきますが、使用されていないということは保護すべき業務上の信用が形成されていないばかりか、後発の第三者にとっては商標の選択を狭めることになってしまいます。そこで、後発の第三者は、不使用の登録商標の譲受けや放棄を商標権者と交渉しても不調に終わったような場合に、この審判によって商標権を消滅させ、あらためて自分の使用する商標として出願できるようになります。

審理は審判官合議体の進行指揮下で審判請求人と被請求人(商標権者)との間で裁判類似の当事者対抗手続によって進行し、不使用の事実があるときは請求成立審決(取消審決)、使用の事実があるときは請求不成立審決(登録維持審決)がなされます。
請求成立審決(取消審決)が確定しますと、商標権はその後消滅します。
審判請求料がかかります。

Q25d:「登録商標、指定商品又は指定役務を訂正できますか?」
登録商標、指定商品又は指定役務を訂正すること(一部でも変更すること)はできません。
一度成立した商標権の内容を成立後に変更することは、法的安定性から、行われるべきではないからです。
ただし、指定商品又は指定役務については、設定登録時や更新申請時に、商品役務の区分を単位として削除することはできます。
出願人又は商標権者は、それらの時点で、自己の業務の実情に合わせて、権利を発生させるか持続させるかの判断をできることになります。
商標権者は、登録商標とは異なる商標を使用しようとする場合には、特許庁の「判定」制度を利用してその異なる商標が登録商標と同一範囲にあるかどうかを確認することが望まれます。
なお、登録商標と色を違えて使用する商標は、原則として、同一範囲内とされます。また、前述しました「不使用による商標登録取消審判」においては、例えば登録商標が平仮名文字の場合に、片仮名やローマ字に変更して使用することは登録商標の使用と認められる場合もありますが、問題が生ずる場合もあります。

≪外国での商標権≫

Q26:「商標権の効力の地域的範囲は?」
日本の商標権の効力が及ぶ地域的範囲は、日本国内に限られます。これは国家主権の問題であり、原則として、日本に限らず各国とも自国内のみ(又は政府間機関加盟国内のみ)で効力があります。外国で商標権を取得するためには、日本での商標登録出願とは別にそれぞれの国へ手続をします。各国で成立した商標権は、他の国で成立した意匠権とは独立していることになります。

Q27:「外国で商標権を取得する方法」
外国へ商標登録出願するには主に以下の2通りの手続のルートがあります。
・各国へ個別に出願するルート(「工業所有権の保護に関するパリ条約」に基づく手続で、実務上、「パリ・ルート」といいます)
・複数の国々へまとめて出願するルート(「標章の国際登録に関するマドリッド協定の議定書<略して、マドリッド議定書>」に基づく手続で、実務上、「国際登録出願」といいます)

Q27a:「パリ・ルートとは?」
パリ・ルートにおいては、日本での商標登録出願を基礎として、その出願日から6か月以内に、例えば、外国A、外国B、外国Cにそれぞれの国の言語に翻訳した出願書類をもってそれぞれに商標登録出願すると、外国A、外国B、外国Cでの商標登録要件が日本での出願日を基準として審査されます。これを「優先権」といい、外国A、外国B、外国Cそれぞれに商標登録出願を行う際に優先権を主張します(日本の商標登録出願の出願日及び出願番号等を提示します)。
「パリ条約」では、先願優位の原則が貫徹される商標登録制度において、同じ商標を外国に出願したい出願人に6か月間のアドバンテージを「優先権」という形で与えることにしたものです。母国での商標登録出願と同じタイミングで各国の言語の出願書類の翻訳を用意しなければならないとすると出願人の負担が大きいからです。

Q27b:「国際登録出願とは?」
国際登録出願とは、標章の国際登録に関するマドリッド協定の議定書<略して、マドリッド議定書。英語で、マドリッド・プロトコル(略して、マドプロ)>に基づいて、同議定書の締約国である106国・政府間機関(2019年10月現在)であれば、1本の国際登録出願で複数の国々へ出願手続ができるというものです。
主な手続の流れは以下のようになります。パリ条約の優先権を主張することも可能です。
国際登録出願という形で出願手続は一本化されていますが、国際商標登録という1つの商標権が成立するわけではありませんので、ご注意ください。商標権は、国又は政府機関ごとに成立します。詳しくはお問い合わせください。

・英語で作成した願書に商標登録を希望する締約国又は政府間機関を指定
・日本特許庁を経由してWIPO(世界知的所有権機関)国際事務局に願書及び図面等を提出
・国際事務局が国際登録をし、国際登録日を国際出願日と認定
・国際事務局は指定締約国又は政府間機関に出願の内容を通報
・指定締約国又は政府間機関は拒絶理由があれば国際事務局に通報
・国際事務局は、拒絶理由を出願人又は代理人に通報
・以降、指定締約国又は政府間機関別に手続が進行
・最終的に、指定締約国又は政府間機関ごとに商標登録可否決定