Q
≪準備段階≫
Q1.発明とは?
Q2.出願前調査とは?
Q3.特許出願書類とは?
≪出願段階≫
Q4.出願手続とは?
Q5.方式審査とは?
Q6.出願公開とは?
≪特許要件≫
Q7.狭義の特許要件とは?
Q8.広義の特許要件とは?
≪審査段階≫
Q9.出願審査請求手続とは?
Q10.実体審査とは?
Q11.特許OKのときの特許査定とは?
Q12.特許OKでないときの拒絶査定とは?
Q13.拒絶査定を受け容れる場合は?
Q14.拒絶査定に不服がある場合は?
Q15.特許OKのときの請求成立審決(特許審決)とは?
Q16.特許OKでないときの請求不成立審決(拒絶審決)とは?
Q17.拒絶審決に不服がある場合は?
Q18.早期審査・早期審理制度とは?
≪特許権成立段階≫
Q19.特許権の成立はいつ?
Q20.特許掲載公報とは?
Q21.特許証とは?
Q22.特許権の効力とは?
Q23.ライセンスの設定、許諾とは?
Q24.特許権等が侵害されたときの対応は?
Q25.特許権は取り消されたり無効とされたりすることがある?
≪外国での特許権≫
Q26.特許権の効力の地域的範囲は?
Q27.外国で特許権を取得するには?
≪準備段階≫
Q1:「発明とは?」
発明(インベンション)とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」をいいます。
ここで、個々の意味合いは、次のとおりです。
・自然法則の利用:「自然法則自体」、「自然法則に反するもの」、「自然法則を利用したものとはいえないもの」ではないことをいいます。
3つ目の類型には、例えば、「経済法則、人為的取決め、数学上の公式など」があります。ただし、これらを、自然法則を利用して構成されているコンピュータを動作させるプログラムとして完成したときには、発明に該当します。
・技術的思想:「技術についてのまとまりある考え(技術的アイデア)」をいいます。
例えば、装置の試作品自体は発明ではなく、その試作品に具現化されているところの技術的アイデアが発明です。
技術について思考によって体系的にまとまった考えですので、単なる思い付きや空想は該当しません。
・創作:「新しいものをつくり出すこと」をいいます。
ここでいう「新しさ」は発明完成時の主観的なもので足りますが、後ほど説明しますように、特許要件としては客観的な「新規性」が求められます。
・高度:実用新案登録の対象である「考案」と区別するための要件です。
Q1a:「発明の完成とは?」
特許法で取り扱われる発明は、完成されていなければなりません。
技術的思想ですので、必ずしも試作品などの実施品が製作されている必要はありません(もちろん製作されていても一向にかまいません)。
ただ、思想としては論理的に完結している必要があります。
完成していないと判断されると、「未完成発明」として審査において拒絶されることがあります。
Q1b:「発明の類型とは?」
発明は、以下のような類型に分けられます。
<物の発明>
・物の構成(構造、制御、成分など)に関する発明です。経時的(時間的な経過)な要素を含まない発明です。
「物」は、実務上、ほとんどの有体物が対象となります。
各種装置・機械類、家電製品、コンピュータ、化学組成物のほか、日用雑貨品、食品なども含まれます。
また、これらの有体物に加え、無体物としてはプログラム等が含まれることが規定されています。
<方法の発明>
・方法の構成(工程、手順など)に関する発明です。経時的(時間的な経過)な要素を含む発明です。
「方法」は、さらに、「単純方法」(使用方法、検査方法などをいい、その方法を使用しても物の生産を伴わない方法)と、「生産方法」(その方法を使用することにより物の生産を伴う方法)に分けられます。
Q1c:「発明者とは?」
発明者とは、現実に「発明をした者」をいいます。
発明そのものは、法律行為ではなく社会的事実行為であるため、発明者は発明を完成するプロセス(着想から完成まで)に直接参加した者に限られます。
出願手続を遂行する「出願人」が法律行為を行うにあたって「(出願人の)代理人」を立てることができるのに対し、「発明者」は「(発明者の)代理人」を立てることは原理的にできません。
また、「出願人」は自然人でも法人でもかまいませんが、「発明者」は自然人に限られます。
Q1d:「発明の実施とは?」
発明の実施とは、次のような行為をいいます。
<物の発明の場合>
・その物(プログラム等を含む)の生産、使用、譲渡等(譲渡、貸渡し、プログラム等の電気通信回線を通じた提供)、輸出、輸入、譲渡等の申出(展示を含む)
<単純方法の発明の場合>
・その方法の使用
<生産方法の発明の場合>
・その方法の使用、その方法により生産した物の使用、譲渡等、輸出、輸入、譲渡等の申出
Q2:「出願前調査とは?」
出願前調査とは、発明を完成するにあたって、また、次に説明する特許出願書類を作成するにあたって、出願しようとする発明について、既に第三者が似たような発明を出願していないかどうかを調査することをいいます。
発明を完成する過程においては、調査結果をフィードバックして、発明を完成していく作業に反映させます。
特許出願書類を作成する過程においては、調査結果を利用して、特許出願書類の「明細書」のうち「背景技術」の説明に反映させます。
調査にあたっては、特許庁が無料で提供するデータベース(「J-platpat」という名称の特許情報プラットフォームのことで,独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営)を活用することができます。
Q3:「特許出願書類とは?」
特許出願書類は、「願書」に、「明細書」、「特許請求の範囲」、「要約書」、「必要な図面」を添付して構成されます。各書類の内容は、以下のとおりです。
<願書>
・特許を受けようとする意思を示す「特許願」という名の書類で、「出願人」情報、「発明者」情報、代理人を立てた場合は「代理人」情報、「出願手数料」などを記載します。
<明細書>
・発明の解説書となる書類で、「発明の名称」、「図面の簡単な説明」(図面を添付した場合)、「発明の詳細な説明」を記載します。
<特許請求の範囲>
・特許権によって権利化したい内容をまとめた書類で、「請求項」というまとまりごとに、特許を受けようとする発明を特定する事項のすべてを記載します。
<要約書>
・第三者の調査(サーチ)などに役立てるための書類で、発明の概要を文字数制限の範囲内で記載します。
<必要な図面>
・発明の内容を図示した書類で、発明の理解を助けるために外観図や断面図、実験結果を示すグラフなどを記載します。
「必要な」とありますのは、図示できない物の発明(化学組成物の発明など)の場合には不要であることを意味しています。
Q3a:「明細書は具体的にどのように書きますか?」
明細書は発明の解説書の役割を果たす書類であり、具体的には、原則として以下のような目次によって記載することになっています。
技術分野に応じて追加する項目が発生することもあります。
・発明の名称:発明の主題を記載します。
例えば、自動車に関する発明であれば、「自動車」と記載します。
・技術分野:発明の主題に対応する技術分野を記載します。
「自動車に関する」としてもいいですし、「自動車、特に水素を燃料とする自動車」などとしてもかまいません。
・背景技術:当該技術分野における既存の技術の紹介をするとともに、その抱えている問題点を述べます。
・先行技術文献:背景技術で述べた既存の技術を記載した文献名称を記載します。
通常、過去の特許文献(実用新案文献を含む)の番号を引用します。
・発明の概要:「発明が解決しようとする課題」、「課題を解決するための手段」、「発明の効果」を簡潔に記載します。
「課題を解決するための手段」は「特許請求の範囲」に実質的に対応します。
・図面の簡単な説明:図面を添付した場合に、各図が何を現しているのかを簡潔に記載します。
・発明を実施するための形態:略して「実施形態」といいますが、発明の解説書の本論となる部分として、発明を具現化した形態を記載します。
発明は技術的思想という抽象的概念ですが、ここでは、具現化された実施形態について、図面や、技術分野によっては実験結果などを参照しながら、詳しく説明します。
実施形態を構成する要素(部材、部位など)には、図面と対照できるように符号(番号、アルファベット)を付します。
実施形態は、特許請求の範囲に記載した特許を受けようとする発明の具体的な裏付けとなる(サポートする)ものです。
Q3b:「特許請求の範囲は具体的にどのように書きますか?」
特許請求の範囲は、特許を受けようとする発明の一つのまとまりを現す単位である「請求項」(英語でクレームといいます)ごとに記載する書類です。
ここに記載された内容について、請求項ごとに特許要件が判断されることになります。
請求項の数に制限はありませんが、例えば、特許請求の範囲は、次のように記載します。
請求項1:Aと、Aとある関係のBと、Bとある関係のCと、を備えるX。
請求項2:BがB1である請求項1に記載のX。
請求項3:さらに、Cとある関係のDを備える請求項1又は2に記載のX。
・ここで、「X」は発明の主題(例えば、自動車)、「A,B,C,D」はそれぞれに属性を有する、Xの構成要素を示します。
「ある関係」とは、位置関係・配置関係・機能関係などをいいます。
「B/B1」の関係は「上位概念/下位概念」といいます。例えば、「弾性体/ゴム」や「弾性体/バネ」のような関係です。
・「を備える」とは、XはAとBとCとだけから構成されているという意味ではありません。Xは少なくともAとBとCとを含んで構成されている、という意味を現す言葉です。
・請求項の記載方式から、請求項1を独立項(他の請求項から独立している形式)、請求項2及び3を従属項(他の請求項に従属している形式)といいます。
内容面から、従属項は、2つに区分されます。
請求項2のようにある要素を上位概念Bから下位概念B1に限定する限定的減縮と請求項3のように新たな要素Dを付加する付加的減縮です。
・この例では、請求項1の「AとBとCとを備えるX」で特許を得られた場合、BがB1、B2、…であろうとなかろうと、Cを備えていようといまいと、特許権の範囲内となります。
・一方、請求項1が拒絶されて請求項2の「AとB1とCとを備えるX」で特許を得られた場合には、BがB1以外のB2、B3、…であるXは特許権の範囲外となります。
また、請求項3の「AとBとCとDとを備えるX」で特許を得られた場合には、Dを備えないXは特許権の範囲外となります。
Q3c:「要約書は具体的にどのように書きますか?」
要約書は出願内容の要約ということで、「(発明が解決しようとする)課題」、「(課題を解決するための)解決手段」、「選択図(代表図)」を記載します。
特許庁は、特許公報を発行する際に、これらの発明情報を出願人や発明者などの書誌情報とともにフロントページに掲載し、第三者による調査(サーチ)の便に供します。
Q3d:「図面は具体的にどのように書きますか?」
図面は必ずしも設計図などの詳細な図面である必要はなく、概念図や模式図でもかまいません。
ただし、明細書や特許請求の範囲に記載されている事項がはっきりと分かる程度に図に現わされていることが必要です。
図面には、明細書に記載されている実施形態を構成する要素(部材、部位など)と対照が取れるように、引出線を使って符号(番号、アルファベット)を付します。
なお、特許出願は意匠登録出願に変更することができますが、その可能性が見込まれる場合には、同一縮尺の六面図も併せて作成し添付しておくことが望まれます。
Q3e:「特許出願書類は自分で作成できますか?」
法制度上は、発明者や出願人がご自分で特許出願書類を作成することに何ら問題ありません。しかし、別に説明しましたように、実際に作成することはなかなか難しい作業になります。といいますもの、発明は社会的事実行為ですが、発明を落とし込んだ特許出願書類は優れて法律文書であるためです。
記載内容は、技術に裏付けられることを前提として、法律の面から審査に付されます。
そうしますと、書類の作成にあたっては、ご自分の専門である技術以外に、特許法、特許法施行令、特許法施行規則、特許庁審査基準、審決例、判例、実務上の慣行などを把握した上での作業が求められます。これは、一般の方には非常に負担の大きい作業となります。
代理人としての弁理士はこれらに習熟した専門家ですので、費用はかかりますが、弁理士に特許出願書類の作成を依頼されることをお勧めします。
≪出願段階≫
Q4:「出願手続とは?」
出願手続として、特許庁へ「出願手数料」を添えて特許出願書類を提出しますが、提出方法としては、電子データ化した書類を電子出願(インターネット回線を利用したオンライン手続)できるほか、書面(紙ベース)の書類を郵送提出又は窓口提出することもできます。
ただし、書面(紙ベース)で提出したときには、特許庁側で電子化する(実務的には、一般財団法人工業所有権電子情報化センターが処理)ための実費として、出願手数料とは別に、電子化手数料を納付しなければなりません。
私どもの事務所では電子出願に対応しています。オンラインで特許出願書類が受理されますと、ただちに出願番号(例:特願2020-123456)が付与されます。
Q4a:「出願手数料とは?」
出願手数料は、特許出願書類の受理や「方式審査」のために必要な費用であり、原則として書類の提出と同時に納付することになっています。電子出願では、出願人又は代理人が特許庁に事前に開設した予納台帳(デポジット)から引き落とす形で納付されますが、書面(紙ベース)の場合には、願書に特許印紙を貼着して納付することになります。
予納台帳が残金不足であったり、特許印紙が貼着されていない又は金額不足したりしているような場合には、定められた金額を指定期間内に納付すべき旨の補正命令が出されます。指定期間内に納付すべき金額を納付しないときは、特許庁長官は、出願を却下することができますので、注意が必要です。
Q5:「方式審査とは?」
方式審査とは、出願手数料の納付のチェックに加えて、出願人の手続能力(未成年者等の場合の取扱い)、代理人への特別な授権、法律などで定められた方式(書類の様式)について特許庁長官(実際には、担当部署)が行う審査のことをいいます。
違反が発見されると、指定期間内に補正すべき旨の補正命令が出されます。指定期間内に補正しないときは、特許庁長官は、出願を却下することができますので、注意が必要です。
さらに、不適法な手続であって補正できないもの(例えば、特許出願書類に明細書は含まれているが特許請求の範囲が含まれていないような場合)は却下されます。却下されるということは出願として受理されないということですから、出願番号の付与もありません。
Q6:「出願公開とは?」
出願後1年6か月を経過したとき、又は、出願人から請求があったとき、方式審査をクリアしていることを前提として、特許庁長官は特許出願書類の内容を特許公報に掲載(「公開特許公報」といいます)することにより出願公開することになっています。
ただし、公開特許公報を発行する前に特許権が成立し「特許掲載公報」が発行済みの出願は除かれます。
出願公開の趣旨は、出願後一定期間経過したときには審査の進捗状況にかかわらず特許出願の内容を公衆に知らせ、秘密期間が長くなることによって生じる重複研究や重複投資のような弊害を除去するものであり、「特許制度の目的」で説明した「発明の利用」の具体的措置となります。
出願人は、所定の条件の下で、特許権の設定登録前に出願公開された発明を業として実施した者に対し、実施料相当額の補償金を特許権設定登録後に請求することができます。出願公開されますと、出願番号とは別に、公開番号(例:特開2020-654321)が付与されます。
≪特許要件≫
Q7:「狭義の特許要件とは?」
狭義の特許要件とは、出願された特許を受けようとする発明(特許請求の範囲に記載された発明)が特許を受けるための最も基本的な要件です。
<発明についての要件>
・「産業上の利用可能性を有すること」
・「新規性を有すること」
・「進歩性を有すること」
<出願人についての要件>
・「発明者が原始的に特許を受ける権利を有すること」
Q7a:「産業上の利用可能性とは?」
産業上の利用可能性とは、学術的・実験的にのみ実施する発明ではなく、産業すなわち工業・鉱業・農林水産業・運輸通信業・商業として実施できる発明を指しています。
効率性やコスト面での優位を持っているかどうかは関係ありません。
人間を手術・治療・診断する方法、個人的にのみ利用できる喫煙方法、明らかに実施不可能な発明(地球表面全体を紫外線吸収フィルムで覆う方法)などは、産業上の利用可能性がないとされます。
なお、人間を手術するための外科器具などは工業的に生産できますので、産業上の利用可能性があります。
Q7b:「新規性とは?」
新規性とは、出願された発明が出願前に日本国内又は外国において公知になった発明でないことをいいます。
発明の定義における創作性は発明者の主観的認識で足りますが、特許要件としては、客観的に新規性を有していることが求められます。
「公知になった発明」には、出願人の発明も含まれます。
新規性のない発明は技術の累積的進歩に貢献しませんので、特許性を有しません。
整理しますと以下のようになります。
<公知になった発明>
・公然に知られた発明:守秘義務のない者に現実に知られた発明。(実務上、公知といいます)
・公然実施をされた発明:公然と実施され見学者などに技術的に理解された可能性のある発明。実務上、公用といいます)
・頒布された刊行物に記載された発明、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明:いずれも、不特定の者が見得るような状態に置かれた発明。
実際に見られたかどうかは関係ありません。(実務上、文献公知といいます)
<公知の判断基準>
・時間的基準:出願前、すなわち出願日ではなく時分単位で判断
・地域的基準:日本国内又は外国、すなわち世界基準で判断
Q7c:「出願前に自分の発明が公知になってしまったが?」
自分自身の発明であっても出願よりも前に公知になっていれば(新規性喪失といいます)、「公知になった発明」として拒絶理由の根拠になります。つまり、自分自身の発明が公知になった後に出願しても、特許性はありません。
しかし、これでは、例えば、発明を研究成果として学会で発表したり、発明を施した装置を博覧会へ出品したりするタイミングと出願のタイミングが上手く取れないような場合、技術の進歩にかえって貢献できない結果となることがあります。
このような事態を避けるため、新規性喪失の例外として手続を取ることにより、公知になった発明は新規性及び進歩性の根拠として取り扱われません。
・時期的条件:公知になった日から1年以内に出願と同時に手続を行うこと
・例外の対象となる発明:特許を受ける権利を有する者の意に反して公知になった発明(秘密にする意思があったにもかかわらず他人によって公表されてしまったような場合)、特許を受ける権利を有する者の行為に起因して公知になった発明(博覧会へ自ら出品したような場合)
Q7d:「進歩性とは?」
進歩性とは、出願された発明が出願前に日本国内又は外国において公知になった発明に基づいて、当業者が容易に発明できたものではないことをいいます。
進歩性のない発明は技術の累積的進歩に貢献しませんので、特許性はありません。整理しますと以下のようになります。
<判断主体>
・当業者:出願された発明の属する分野における通常の知識を有する者
<進歩性がないとされる場合の例>
・次のような発明においては、発明の構成を達成するのに困難性があり、構成を達成した結果、通常に予期されるもの以上の顕著な効果が発現されていると判断されない限り、当業者ならば想到容易ということで進歩性がないと判断されます。
・寄せ集め発明:複数の公知の発明を単に寄せ集めた発明
・置換発明・転用発明:ある分野の公知の技術を置換又は転用した発明
・用途発明:公知の技術の用途を変更したり限定したりした発明
・選択発明:先行する発明の上位概念を下位概念に限定した発明
・限定発明:公知の技術の数値・形状・配列等を限定又は変更した発明
・化学物質発明:化学構造や用途・性質が著しく異ならない発明
Q7e:「発明者が原始的に特許を受ける権利を有するとは?」
これは、発明の完成と同時に発明者に「特許を受ける権利」が生じることを意味しています。出願人は、原始的には発明者ということになります。
一方、特許を受ける権利は、財産権として移転することができます。
例えば、会社の従業員が発明をした場合に特許を受ける権利を会社に承継させ、会社が出願人として出願することができます(職務発明といいます)。
Q8:「広義の特許要件とは?」
広義の特許要件には、狭義の特許要件に以下の要件が加わります(ここに記載した以外の要件もありますが、複雑になりますので割愛します)。
狭義の特許要件を含む広義の特許要件が満たされない場合には、後述します「拒絶理由」に該当し、特許を受けることはできません。
<発明についての要件>
・「先願発明/考案と同一の後願発明でないこと」
・「不特許事由に該当しないこと」
・「最先の出願であること」
<出願についての要件>
・「明細書が実施可能な程度に記載されていること」
・「特許請求の範囲が明細書の記載によって裏付けられていること」
・「発明の単一性を満たすこと」
<出願人についての要件>
・特許を受ける権利を有する者の出願であること
Q8a:「先願発明/考案と同一の後願発明でないこととは?」
この要件は、ある出願(後願B)について、その出願日よりも前の日に出願された特許又は実用新案登録出願(先願A)があり、後願Bの出願後に先願Aの特許公報、出願公開、実用新案公報が発行された場合、後願Bの発明が先願Aの最初の明細書等に記載された発明/考案と実質的に同一であるときには、後願Bの発明は特許を受けることができない、というものです。
実務上、先願Aは、後願Bにとって「拡大先願」と呼ばれます。
少しややこしいですが、後願Bの発明が出願時に新規性を備えていた場合でも(後願Bの出願時には先願Aは公知になっていない)、先願Aの最初の明細書等に記載された発明/考案と実質的に同一であれば、後願Bの発明は新たな創作物ということはできないこと、このようにしておけば出願順ではなく出願審査請求順に審査することができること、などを勘案して定められているものです。
ただし、先願Aと後願Bの発明者が同一の場合、後願Bの出願時に先願Aと後願Bの出願人が同一の場合には、適用されません。
Q8b:「不特許事由に該当しないこととは?」
この要件は、公益保護の観点から、発明が、公の秩序、善良の風俗、公衆の衛生を害するおそれがある場合、特許を受けることができないというものです。
Q8c:「最先の出願であることとは?」
この要件は、実質的に同一の発明について複数の出願があり、いずれも他の特許要件を満たしているとき、重複特許を排除するために、最先の出願のみが特許を受けることができるというものです(先願主義といいます)。
実質的に同一の発明かどうかの判断は、それぞれの特許請求の範囲を比較して判断します。
出願日の異同、特許出願の発明と実用新案登録出願の考案との関係から、以下のように調整されます。
<発明同士の場合>
・異なった日に複数の特許出願があった場合は、最先の出願のみ特許可。
・同じ日に複数の特許出願があった場合は、出願人同士の協議により定めた出願のみ特許可。協議不成立・不調のときは、いずれも特許不可。
<発明と考案の場合>
・異なった日に特許出願と実用新案登録出願があった場合は、特許出願が先であったときのみ特許可。
・同じ日に特許出願と実用新案登録出願があった場合は、出願人同士の協議により定めた出願のみ特許又は実用新案登録。協議不成立・不調のときは、特許不可。
Q8d:「明細書が実施可能な程度に記載されていることとは?」
この要件は実施可能要件といいます。
明細書は、当業者が追試しようとしたときに追試できる程度に記載されていなければならないというものです。
当業者である第三者が他人の出願された発明又は特許された発明の有効性や問題点を確認し、さらなる改良技術の開発を行えるようにするための要件です。
物の発明ではその物の生産かつ使用ができること、単純方法の発明ではその方法を使用できること、生産方法の発明ではその方法で物を生産できることが求められます。
Q8e:「特許請求の範囲が明細書の記載によって裏付けられていることとは?」
この要件はサポート要件といいます。
特許を受けようとする発明の内容をまとめた特許請求の範囲の記載は、明細書によって、具体的には実施形態によって裏付けられている(サポートされている)ものでなければならないというものです。
権利化したい発明の内容が特許請求の範囲にのみ記載されている場合、公衆に公開していない発明について権利を要求することになります。これは、公開の代償として独占的な特許権を付与する特許制度の趣旨を逸脱してしまうことになるためです。
Q8f:「発明の単一性を満たすこととは?」
この要件は単一性要件といいます。
異なる二以上の発明は別々に出願することを前提として、それら二以上の発明が特定の技術的関係を有することにより「単一性」の要件を満たす一群の発明であるときには一出願とすることができるというものです。
特定の技術的関係とは、例えば以下のようなものをいいます。
・同一の特別な技術的特徴を有する(例:同じ構造を採用した異なる雄ねじ)
・対応する特別な技術的特徴を有する(例:雄ねじと、対応する雌ねじ)
・物と、その物の生産方法・使用方法・取扱方法
・方法と、その方法の実施に直接使用する装置
・化学において、中間生成物と最終生成物
Q8g:「特許を受ける権利を有する者の出願であることとは?」
前述しましたように、特許を受ける権利は原始的に発明者に帰属します。出願人が発明者でない場合、出願人は発明者から特許を受ける権利を承継していなければなりません。
特許を受ける権利が共有である場合には、各共有者は共同して出願しなければなりません。
≪審査段階≫
Q9:「出願審査請求手続とは?」
「審査段階」でいう審査とは「審査官」(特許庁職員で資格を有する者)による「実体審査」のことを指しています。
特許出願では、意匠登録出願や商標登録出願と異なり、特許庁長官による方式審査をクリアしても自動的には審査官による実体審査に移行しません。
特許では、自らの権利化を目指すことではなく第三者の権利化を阻むために出願することもあります。このため、特許出願手続とは別に、「審査手数料」を添えて「出願審査請求書」を提出することによって出願人が意思を表示した場合に実体審査へ移行させることになっています。
出願審査請求書は、出願日から3年以内に特許庁長官あてに提出しますが、出願と同時に行うこともできます。
その期限内に出願審査請求が行われなければ、特許出願は取り下げられたものとみなされます(「みなし取下げ」といいます)。
なお、出願審査請求は、出願人以外の者も行うことができます。
出願公開された特許出願を見た第三者がその発明が特許査定されるかどうかを確かめたいという意思を有することがあるため、その意思を考慮したものです。
Q9a:「出願審査請求料の金額や減免制度は?」
出願手数料とは異なり、出願審査請求とともに納付する出願審査請求料は高額に設定されています。
現在のところ、「138,000円+4,000円×請求項の数」です。
これは、実体審査にあたっては、世界中の公知文献をサーチし、明細書、特許請求の範囲、図面に記載された内容を公知文献と対比検討するためには相応の費用がかかるためです。
一定の条件を満たす出願人には減免制度が用意されています。
減免を受けるための手続としては、出願審査請求書に減免制度のうち出願人がどの対象に該当するかを特記事項として記載します。証明書の提出は不要です。
<減免制度の例>
・規模別中小企業:1/2に軽減
・中小ベンチャー企業・小規模企業:1/3に軽減
・研究開発型中小企業・法人税非課税中小企業:1/2に軽減
・個人(市町村民税非課税者等):免除又は1/2に軽減
Q10:「実体審査とは?」
実体審査とは、審査官が特許出願に「拒絶理由」があるかどうかを審査することをいいます。
審査官は、審査の結果、拒絶理由が発見されなければ「特許査定」という行政処分を行うこと、拒絶理由が発見されれば「拒絶査定」という行政処分を行うことが義務付けられています。
これらの行政処分には裁量がありません。拒絶理由は法定されており、それ以外の理由で拒絶することは認められていません。
審査官は、拒絶査定をしようとする場合には、それに先立って出願人に対し「拒絶理由通知」を出します。
Q11:「特許OKのときの特許査定とは?」
特許査定は、審査の結果、出願された発明は拒絶理由を発見しないので特許できるとする審査官による行政処分です。
「特許査定」というタイトルが付いた書面が出されます。
特許査定には、特許権の設定登録のための注意書きとして、「この書面を受け取った日から30日以内に特許料の納付が必要です。」と記載されています。特許査定を受けても特許料を納付しなければ特許権は発生しませんので、ご注意ください。詳しくは、≪特許権成立段階≫で説明します。
Q11a:「特許査定の捉え方は?」
拒絶理由がまったくなく、すなわち、「拒絶理由通知」が出されることなく、出願時の内容のままで特許査定を得ることができた場合(実務では、一発査定などといいます)、特許権取得のための全体のコスト(費用、時間)を節約できる点で喜ばしいことになります。
しかし、他方で、一発査定の場合、そもそも出願時の特許請求の範囲が狭すぎたのではないか、出願時より広い範囲でも特許査定を得ることができたのでないか、という疑問というか可能性を探りたいという意思が芽生えることがあります。
このような意思を尊重するため、特許査定されたものよりも広い特許請求の範囲を構築して、特許査定の送達日から30日以内に「出願の分割」を行うことができます。
Q12:「特許OKでないときの拒絶査定とは?」
拒絶査定は、審査の結果、出願された発明は拒絶理由があるので特許できないとする審査官による行政処分です。
「拒絶査定」というタイトルが付いた書面が出されます。
拒絶査定には、注意書きとして、「この査定に不服があるときは、この査定の送達日から3か月以内に審判(「拒絶査定不服審判」)を請求することができます」と記載されています。審査官は、拒絶査定をしようとする場合、それに先立って、出願人に対し、拒絶理由を明示した「拒絶理由通知」を出します。
Q12a:「拒絶理由通知とは?」
拒絶理由通知とは、審査官が拒絶査定に先立って出願人に送る「拒絶理由」を明示した通知のことをいいます。
拒絶理由通知に対して、出願人は「意見書」を提出する機会を与えられますが、これは、出願人に反論の機会を与えるという趣旨です。
出願人は、希望すれば、この機会に「手続補正書」を提出して、拒絶理由を解消するために特許請求の範囲や明細書等の「補正」をすることもできます。
意見書及び/又は手続補正書は、拒絶理由通知の中で指定されている期間内(拒絶理由通知の発送の日から60日以内)に提出します。
拒絶理由通知が出される回数は法律では制限されていませんが、実務的には審査過程がエンドレスとなることを避けるため、原則的には最大2回(1回目を最初、2回目を最後といいます)となっています。
1回(1回目の最初)のみの場合もありますし、3回(1回目を出し直して2回目を最初とし、3回目を最後とする)にわたることも稀ながらあります。
審査を効率的に進める観点から、最初の拒絶理由通知にすべての拒絶理由が記載されることになっています。
最後の拒絶理由通知には「最初の拒絶理由通知に対する出願人の応答によって生じた拒絶理由のみ」が記載されています。
Q12b:「拒絶理由とは?」
特許出願が特許査定を得るためには、既に説明しました狭義及び広義の特許要件(割愛したものも含む)をすべて満たす必要があります。
その1つにでも違反すると、拒絶理由に該当するとして出願は拒絶されます。
また、特許制度では、これらの特許要件に加え、明細書、特許請求の範囲、図面について行った「補正」が以下の補正要件を満たさないと判断されますと、これらも拒絶理由となります。補正については、別に説明します。
<拒絶理由通知後の補正についての要件>
・「明細書等の補正が当初明細書等の範囲を超えないこと(新規事項を含む補正禁止)」
・「特許請求の範囲における発明が補正前と補正後で単一性を有すること(別発明への補正禁止)」
Q12c:「主な拒絶理由は何?」
前述した特許要件及び補正要件に対する拒絶理由のうち、違反しているとして指摘されることが多いという意味で主な拒絶理由には以下のものがあります。
これら主な拒絶理由に関する審査官の拒絶理由通知と出願人の意見書の交換は、発明の特許性について出願人と審査官との見解を闘わせるディスカッションという側面を有しています。特に、○・を付した4つの主な拒絶理由については、別に例を示して説明します。
なお、4つの主な拒絶理由以外の拒絶理由については、該当することがないように原則として準備段階であらかじめ調整しておきます。
<発明についての拒絶理由>
○・「新規性を有さない」
○・「進歩性を有さない」
○・「先願発明/考案と同一の後願発明である」
<出願についての拒絶理由>
・「明細書が実施可能な程度に記載されていない」
・「特許請求の範囲の明細書の記載によって裏付けられていない」
・「発明の単一性を満たさない」
<拒絶理由通知後の補正についての拒絶理由>
○・「明細書等の補正が当初明細書等の範囲を超えている(新規事項を含む補正禁止)」
・「特許請求の範囲における発明が補正前と補正後で単一性を有していない(別発明への補正禁止)」
Q12d:「新規性を有さないとは?」
実務的には、証拠として誰にでも確認できる公知の文献を1つ引用し、これを理由に拒絶されます(実務上、この場合に引用される公知の文献を引用文献、引例などといいます)。
例えば、出願された発明において特許請求の範囲の請求項1が「Aと、Aと特定関係にあるBと、Bと特定関係にあるCと、を備えるX。」の場合、引用文献1の全体を通じて「Aと、Aと特定関係にあるBと、Bと特定関係にあるCと、を備えるX。」が記載されていると、新規性なしとされます。
Q12e:「進歩性を有さないとは?」
実務的には、寄せ集め発明とされた場合、公知の文献を1つ又は2つ以上引用することにより拒絶されます。
例:
出願された発明において特許請求の範囲の請求項1が「Aと、Aと特定関係にあるBと、Bと特定関係にあるCと、を備えるX。」の場合、
引用文献1の全体を通じて「Aと、Aと特定関係にあるBと、を備えるX。」が記載され、
引用文献2の全体を通じて「Bと特定関係にあるC、を備えるX。」が記載されているとき、
当業者ならば、引用文献2を引用文献1に適用することにより、請求項1に係る発明を達成すること、
は、進歩性なし(想到容易)とされます。
Q12f:「先願発明/考案と同一の後願発明であるとは?」
実務的には、証拠として誰にでも確認できる公知ではない文献を1つ引用し、これを理由に拒絶されます。
例:
出願された発明において特許請求の範囲の請求項1が「Aと、Aと特定関係にあるBと、Bと特定関係にあるCと、を備えるX。」の場合、
引用文献1の明細書等の全体を通じて「Aと、Aと特定関係にあるBと、Bと特定関係にあるCと、を備えるX。」が記載されていると、新規性なしと擬制されます。
Q12g:「明細書等の補正が当初明細書等の範囲を超えているとは?」
後に説明しますように、拒絶理由への対応として、明細書、特許請求の範囲、図面を補正することができますが、補正は、出願に際して願書に最初に添付した明細、特許請求の範囲、図面(実務上、当初明細書等といいます)の記載事項の範囲内で行わなければならいとされています。
その範囲を超えた補正の部分は「新規事項」と呼ばれ、拒絶されます。
適法な補正の効果は出願時に遡ることから、新規事項を含む補正を認めてしまうと他の出願人などの第三者に不測の不利益を与えることになってしまいます。
そこで、公正の観点から、明細書等への新規事項追加補正禁止要件違反が拒絶理由として定められています。
ただし、最後の拒絶理由通知に応答して行った補正が新規事項と判断されると、審査の無限ループを避けるため、補正却下決定されます。
Q12h:「拒絶理由通知への対応は?」
拒絶理由を十分吟味した上で、拒絶理由ごとに、
・拒絶理由に対して反論可能であるか、
・明細書、特許請求の範囲、図面を補正すれば反論可能であるか、
・一部について反論可能であるが残りは反論が難しいか、
・拒絶理由を受け容れざるを得ないか、
について検討を行います。
それぞれの場合における対応案は以下のとおりです。
<拒絶理由に対して反論可能である場合>
・意見書で審査官の見解に反論します。
出願された発明と、新規性又は進歩性を否定するために引用された発明についての審査官の認定に誤解や過誤があったり、両者の対比検討が合理的でなかったりすれば、その点を反論します。
なお、この反論は、あくまで技術面、法律面から冷静かつ論理的に行うもので、審査官に対する感情的な誹謗中傷となるような記載は絶対してはなりません。
i)新規性がないとして拒絶された場合の例
出願された発明は引用された発明と同一ではないと反論することになります。
例えば、
出願発明が「Aと、Aと特定関係にあるBと、Bと特定関係にあるCと、を備えるX。」であるのに対し、引用発明も「Aと、Aと特定関係にあるBと、Bと特定関係にあるCと、を備えるX。」を開示しているとされたとします。
この場合、例えば、以下の点などを指摘し、両者は同一ではない旨を反論します。
*両者の「B」、「C」は異なる属性をもっている点
*両者の「BとCの特定関係」は異なる関係である点
ii)進歩性がないとして拒絶された場合の例
出願された発明は引用された複数の発明から考え付ける(想到できる)ものではないと反論することになります。
例えば、
引用発明1が「Aと、Aと特定関係にあるBと、を備えるX。」を開示し、引用発明2が「Bと特定関係にあるC、を備えるX。」を開示しており、引用発明2を引用発明1に適用することは当業者ならば想到容易とされたとします。
この場合、以下の点などを指摘し、引用発明1と引用発明2から出願発明の「Aと、Aと特定関係にあるBと、Bと特定関係にあるCと、を備えるX。」を想到することは容易ではない旨を反論します。
*出願発明と引用発明1・引用発明2の課題・効果は異なっている点
*引用発明1にも引用発明2にも両者を結合させる動機付けや結合させる場合の構成上の工夫の記載や示唆はない点、
*引用発明1と引用発明2に両者を結合させると不都合が生じ得るなどの出願発明とは反対方向の記載や示唆(反対教示)がある点
<明細書、特許請求の範囲、図面を補正すれば反論可能である場合>
・出願時の内容では反論困難な場合に、審査官の指摘箇所を補正することにより拒絶理由を解消することができるのであれば、手続補正書によって指摘箇所を補正します。そして、意見書において補正後の内容を説明しつつ拒絶理由が解消した旨を反論します。
<一部について反論可能であるが残りは反論が難しい場合>
・この場合、反論可能な部分のみを現在の出願に残し、反論が難しい部分については新たな出願に「分割」することができます。
例えば、
特許請求の範囲のうち、請求項2は拒絶理由がないが請求項1には拒絶理由があり、請求項1への反論を検討するのに時間を要しそうだという場合です。
請求項1を新たな出願に分割し、現在の出願を拒絶理由が無い請求項2のみとします。このことにより早期に権利化することが可能となります。
請求項1については、新たな出願によってあらためて権利化を目指すことになります。
<拒絶理由を受け容れざるを得ない場合>
・すべての拒絶理由を解消できないのであれば、権利化を断念し、放置します。
Q12i:「補正とは?」
補正とは、特許出願書類を補充訂正することをいい、一切の補正を認めないのは出願人に酷なことから、一定の制限下で認められています。出願人は、特許査定が出るまでの間、明細書、特許請求の範囲、図面について補正をすることができます。
ただし、拒絶理由通知が出た後は、その中で指定された期間内に限って補正をすることができます。
適法な補正をしたときには補正後の内容で出願したものとみなされます。一方、補正にあたっては、拒絶理由のところで述べましたように、以下の制限がかかります。
なお、最後の拒絶理由通知に対して行った補正が以下の要件に該当しますと、審査の無限ループを避けるため、補正却下決定(補正を認めない決定)となります。
補正却下決定については、意匠登録制度とは異なり、拒絶査定に不服の場合に請求できる拒絶査定不服審判でのみ争うことができます。
<拒絶理由通知後の補正についての要件>
・「明細書等の補正が当初明細書等の範囲を超えないこと(新規事項を含む補正禁止)」
適法な補正の効果は出願時に遡ります。このことから、新規事項(当初明細書等の記載の範囲を超える事項)を含む補正を認めてしまうと他の出願人などの第三者に不測の不利益を与えることになります。それを防ぐためのものです。
・「特許請求の範囲における発明が補正前と補正後で単一性を有すること(別発明への補正禁止)」
これは、拒絶理由通知後に特許請求の範囲における発明について、補正前と単一性を有しない別発明への補正を認めしまうと既に行った審査が無駄になってしまい、審査のやり直しが生じることになります。それを防ぐためのものです。
Q12j:「出願の分割とは?」
明細書、特許請求の範囲、図面において公開された発明を広く保護するという趣旨の下、記載されている複数の発明の一部を別の新たな特許出願に分割することをいいます。
出願の分割は、広い意味で補正と同じような役割を果たしますが、補正は別に説明しましたように制限がかかりますので、別の新たな出願に分割してそれぞれの発明の権利化を目指せることができることになります。
分割後の新たな出願は、要件を満たす場合は、もとの特許出願の時にしたものみなされます。
具体的には、以下のような場合に分割が活用されます。
なお、新たな出願には、出願手数料、出願審査請求料が必要です。
・発明の単一性の要件の満たさないとされたとき。
・明細書又は図面のみに記載されている発明をあらためて特許請求の範囲に記載して権利化を図りたいが、補正で対応できないとき。
・拒絶理由が示された請求項を分割して新たな出願とすることにより、もとの出願を拒絶理由がない請求項のみにして早期の権利化を図りたいとき。
Q12k:「反論して拒絶理由を解消できた場合は?」
出願は、拒絶理由を発見しないということで特許査定となります。
Q12l:「反論しても拒絶理由を解消できない、何も対応しない場合は?」
出願は、拒絶理由通知に示された拒絶理由をもって「拒絶査定」となります。
反論した場合は、出願人が意見書を出してから審査官が検討を終了した後に、何も対応しないで放置した場合は、意見書提出の指定期間の経過した後に、拒絶査定が出されます。
Q13:「拒絶査定を受け容れる場合は?」
拒絶査定を受け容れる場合、出願人は、以下の3つの選択肢の中から対応を選ぶことになります。
・拒絶査定の送達日から3か月以内に、当該特許出願の明細書の範囲内で、新たな出願を「分割」することができます。
もとの出願の審査過程を勘案して特許請求の範囲を再構築し、新たな出願で権利化を目指すことになります。
分割の要件を満たす場合には、新たな出願の出願日は当該特許出願の出願日に遡及します。
・拒絶査定の送達日から3か月以内に、当該特許出願を実用新案登録出願又は意匠登録出願に「変更」できます。
変更後の出願がそれぞれの登録制度の要件を満たす場合には、変更後の出願の出願日は当該特許出願の出願日にしたものとみなされます。
当該特許出願は、取り下げたものとみなされます。
・権利化を断念する場合は、放置します。拒絶査定の送達日から3か月を経過した後、拒絶査定が確定します。
Q13a:「出願の変更とは?」
出願の変更とは、特許出願、実用新案登録出願、意匠登録出願の間で、互いに出願形式を変更することをいいます。
特許出願は、最初の拒絶査定の送達の日から3か月以内に、実用新案登録出願(特許出願の出願日から9年6か月を超えると不可)又は意匠登録出願に変更できます。
要件を満たす場合は、変更後の出願はもとの特許出願の時にしたものみなされます。
もとの特許出願は、取り下げたものとみなされます。
変更後の出願には、出願手数料、登録料(実用新案登録出願の場合)が必要です。
なお、実務的には、特許出願書類をベースにして実用新案登録出願書類を作成することは容易ですが、特許出願書類をベースにして意匠登録出願書類を作成するにあたっては、図面の作成に困難を伴うことがあります。特許出願書類の図面と意匠登録出願書類の図面では要求仕様が異なるためです。
したがいまして、特許出願を意匠登録出願へ変更することが準備段階から予期されているようなときは、特許出願書類の図面に、発明の主題である物について同一縮尺の六面図も含めておくことが望まれます。
変更後の意匠登録出願において、図面が特許出願の図面から要旨変更されていると判断されますと、その意匠登録出願の出願日は、現実に出願した日となります。
Q14:「拒絶査定に不服がある場合は?」
出願人は、拒絶査定に不服がある場合、拒絶査定の送達日から3か月以内に、審査手続とは別に、「審判手数料」を添えて「審判請求書」を提出し、「拒絶査定不服審判」を特許庁長官に請求することができます。同審判は、拒絶査定に対する不服申立ての唯一の手段となります。これ以外の手段はありません。
現在のところ、審判手数料は、「49,500円+5,500円×請求項の数」です(減免制度はありません)。
Q14a:「拒絶査定不服審判とは?」
審判とは審判官(特許庁職員で資格を有する者)の合議体による審理のことをいいます。拒絶査定不服審判は、出願人が審査官による拒絶査定に不服がある場合に、拒絶査定の当否を審判官合議体に審理させる手続きです。審査官の判断に過誤がないとは必ずしも言い切れないためです。
審査においてなされた手続は審判においても効力を有します(審査と審理は継続性を有します)。
審査段階では審査官1人で審査が行われる(特許庁内の上司によって決済はされます)のに対し、審判段階では複数(一般的には3人)の審判官合議体によって裁判類似の手続を経て審理(拒絶査定不服審判は、原則として、書面審理)されます。その意味において審査よりも慎重に特許可否の判断がなされることが期待されます。
特に進歩性の審理にあたっては、出願された発明と拒絶の根拠として引用された複数の発明との対比について、より分析的な検討がなされます。
審判で結論が出るまでに1年~2年かかる場合もあります。
審判請求と同時に明細書、特許請求の範囲、図面について補正又は分割があった場合には、審判官合議体の審理に先立って、審査官の審査に付されます(「前置審査」といいます)。特許性判断の効率化を図るためです。
Q14b:「前置審査とは?」
審判請求と同時に明細書、特許請求の範囲、図面について補正又は出願の分割があったときには、その補正後又は分割後の内容を審査官(原則として、拒絶査定をした審査官)が見れば、今までの審査段階の経緯を踏まえて特許性の判断を効率良く行うことができることを考慮して、前置審査が設けられています。
前置審査によって特許できると判断された場合には、審査官は、先の拒絶査定を取り消して、あらためて特許査定を出します。一方、その補正又は分割によっても特許できないと判断された場合には、審判官合議体の審理へと進みます。
Q15:「特許OKのときの請求成立審決(特許審決)とは?」
請求成立審決(特許審決)は、拒絶査定不服審判の審理の結果、出願された発明は拒絶理由を発見しないので特許できるとする審判官合議体による行政処分です。
「審決(請求成立)」というタイトルが付いた書面が出されます。
審決には、特許権の設定登録のための注意書きとして、「この書面を受け取った日から30日以内に特許料の納付が必要です。」と記載されています。
請求成立審決(特許審決)を受けても特許料を納付しなければ特許権は発生しませんので、ご注意ください。詳しくは、≪特許権成立段階≫で説明します。
Q16:「特許OKでないときの請求不成立審決(拒絶審決)とは?」
請求不成立審決(拒絶審決)は、拒絶査定不服審判の審理の結果、出願された発明は拒絶理由があるので特許できないとする審判官合議体による行政処分です。
「審決(請求不成立)」というタイトルが付いた書面が出されます。
審判官合議体は、請求不成立審決(拒絶審決)をしようとする場合であって、審査段階とは異なる新たな拒絶理由を発見したときには、先立って、出願人に対し、拒絶理由を明示した拒絶理由通知を出します。出願人に意見書(反論)の機会を与えた上、なお拒絶理由が解消しない場合には請求不成立審決(拒絶審決)を出します。
Q17:「請求不成立審決(拒絶審決)に不服がある場合は?」
出願人は、請求不成立審決(拒絶審決)に不服がある場合、特許庁での手続を離れて、東京高等裁判所(知財高裁)に審決取消訴訟を提起することができます。
拒絶査定不服審判を含む審判における審決、特許異議申し立てにおける取消決定に対する訴えは、知財高裁の専属管轄となっています。
審判や特許異議申立ては厳格な裁判類似の手続によって技術的専門性の審理が行われることを考慮して、地方裁判所での第一審は省略されています。
Q18:「早期審査・早期審理制度とは?」
審査又は審判は以上説明したような手続を経て進行しますが、年間、特許出願の件数は約30万件強、出願審査請求件数は24万件弱となっており、これを分野別に割り振って出願審査請求順に実体審査を行っても、実体審査に着手されるまでに相当の待ち時間が発生します。分野別や年によってバラツキがありますが、出願審査請求を行ってから平均して約10か月で実体審査に着手されるのが実情です(特許庁HPに出願別の「審査着手見通し時期」が公表されています)。
そこで、特許庁は、審査の促進の方策の一環として、一定の要件を満たす場合、出願人からの申請を受けて審査・審理を通常に比べて早く行う早期審査・早期審理制度を運用しています。
早期審査の対象にされた場合には、実体審査の順序が繰り上がります。
早期審査の申請から着手までの待ち時間が平均約3か月以下、早期審理の対象にされた場合には、早期審理の申請後に審理可能となってから審決までの時間が平均約4か月以下となっています。
Q18a:「どうすれば早期審査・早期審理制度を利用できますか?」
早期審査・早期審理制度を利用したい方は、「早期審査・早期審理に関する事情説明書」に次の対象のいずれかに該当していることを記載し、そのことを証明する書類を添付して提出します。
提出時期は、出願審査請求と同時以降で出願日から3年以内です。制度の利用にあたって特許庁手数料は無料ですが、代理人に「事情説明書」の作成・提出を依頼した場合は代理人手数料が発生します。
<中小企業、個人、大学、公的研究機関等の出願>
・その発明の出願人の全部又は一部が、中小企業又は個人、大学・短期大学、公的研究機関、承認又は認定を受けた技術移転機関(承認TLO又は認定TLO)若しくは各独立行政法人の設置法等で定められた試験研究機関の研究成果に係る技術移転機関(試験独法関連TLO)であるもの
<外国関連出願>
・出願人がその発明について、日本国特許庁以外の特許庁又は政府間機関へも出願している特許出願(国際出願を含む)であるもの
<実施関連出願>
・出願人自身又は出願人からその出願に係る発明について実施許諾を受けた者が、その発明を実施している(「早期審査に関する事情説明書」の提出日から2年以内に実施予定の場合と、農薬取締法における登録、薬機法における承認を受けるために必要な手続(委託圃場試験依頼書、治験計画届書の提出等)を行っている場合を含む。)特許出願であるもの
<グリーン関連出願>
・グリーン発明(省エネ、CO2削減等の効果を有する発明)について特許を受けようとする特許出願であるもの
<震災復興支援関連出願>
・出願人の全部又は一部が、災害救助法の適用される特定被災地域に住所又は居所を有する者であって、地震に起因した被害を受けた者である特許出願であるか、又は、出願人が法人であり、当該法人の特定被災地域にある事業所等が地震に起因した被害を受けた場合であって、当該事業所等の事業としてなされた発明又は実施される発明であるもの
<アジア拠点化推進法関連出願>
・出願人の全部又は一部が、特定多国籍企業による研究開発事業の促進に関する特別措置法(アジア拠点化推進法)に基づき認定された研究開発事業計画に従って研究開発事業を行うために特定多国籍企業が設立した国内関係会社であって、該研究開発事業の成果に係る発明(認定研究開発事業計画における研究開発事業の実施期間の終了日から起算して2年以内に出願されたものに限る。)に関する特許出願であるもの
≪特許権成立段階≫
Q19:「特許権の成立はいつ?」
特許庁長官は、特許査定又は請求成立審決(特許審決)が出願人に送り届けられた日(送達日)から30日以内に第1年~第3年までの3年分の特許料の納付、免除、猶予があると、特許原簿(不動産登記簿に類するもの)に特許権の設定登録をし、その登録の時に特許権が発生します。
免除も猶予もされていないのに特許料の納付がなされない場合は、特許出願は却下されることがあります。
利害関係人(ライセンシーなど)は出願人の意に反しても特許料を納付し、その費用の償還を出願人に請求できます。
設定登録によって、出願番号、公開番号とは別に、特許番号(特許第xxxxxxx号)が付与されます。
Q19a:「特許料の金額は?」
特許料は、現在のところ以下の金額に設定されています。
時間の経過に応じて特許権の経済的価値を勘案して特許権を維持するかどうかを判断するよう、存続期間を4段階に分けて傾斜設定されています。(2022.4改定)
・第1年-第3年までの各年:4,300円+300円×請求項の数
・第4年-第6年までの各年:10,300円+800円×請求項の数
・第7年-第9年までの各年:24,800円+1,900円×請求項の数
・第10年-第25年までの各年:59,400円+4,600円×請求項の数
Q19b:「特許料の減免制度は?」
一定の条件を満たす出願人には特許料の減免制度が用意されています。
減免を受ける手続としては、出願人が減免制度のどの対象に該当するかを特許料納付書に特記事項として記載します。証明書の提出は不要です。
・規模別中小企業:第1年-第10年が1/2に軽減
・中小ベンチャー企業・小規模企業:第1年-第10年が1/3に軽減
・研究開発型中小企業・法人税非課税中小企業:第1年-第10年が1/2に軽減
・個人(市町村民税非課税者等):第1年-第10年が免除又は1/2に軽減、ほか
Q19c:「特許権の存続期間とは?」
特許権の存続期間は、設定登録日に始まり、出願日から20年の満了日をもって終了します。
出願日から満20年という意味ではありませんので、ご注意ください。
存続期間は、設定登録によって設定登録日から3年は確保された状態となっていますが、4年目からは、第4年以降の特許料を前年以前に納付して維持することになります。
第4年以降の特許料は、1年分ごとでも複数年分をまとめてでも納付できます。
特許権者は、第4年以降の特許料を納付しないことにより、特許権を消滅させることができます。特許権が消滅しますとその特許発明は誰でも自由に実施できることとなり、特許権者であった者でも同一の発明について再度特許を受けることはできません。
利害関係人(ライセンシーなど)は特許権者の意に反しても特許料を納付し、その費用の償還を特許権者に請求できますので、ご注意ください。
Q19d:「特許権の存続期間は延長できますか?」
できる場合があります。
希望する特許権者は、設定登録日が以下の日のいずれか遅い日(基準日といいます)以後であるときには、設定登録日から3か月以内に、延長可能期間の範囲内で存続期間を延長登録するための「延長登録出願」を行って延長登録査定を得ることになります。
特許権の存続期間は設定登録日から始まる一方で出願日から起算した20年の満了日で終了しますので、出願から審査・審判にかかる時間が長くなればなるほど、存続期間は浸食されることになります。延長登録は、この浸食期間を一定の範囲で回復しようとするものです。
・設定登録日から特許出願日から起算して5年を経過した日
・出願審査請求日から起算して3年を経過した日
Q20:「特許公報とは?」
特許庁長官は、特許権を設定登録すると、審査・審判を通じて確定した特許権の内容を特許公報(特許掲載公報)に掲載し、公衆に向けて公表(公示)します。
特許出願時の内容は出願公開(公開特許公報)によって公表済みですが、特許掲載公報には、審査・審判を通じて確定した内容、すなわち、審査・審判を通じて明細書、特許請求の範囲、図面に補正があった場合、その補正後のものが掲載されることになります。
Q21:「特許証とは?」
特許庁長官は、特許権を設定登録すると、特許権者に対し、特許証を交付します。特許証は、特許権を取得したことの名誉を表徴する「証(あかし)」として交付されるものです。
権利の取得や喪失を示す権利書や効力の証明書となるものではありません。例えば、特許証を譲渡したからといって、特許権が「譲渡」される訳ではありません。
Q21a:「特許権は譲渡(売買)できますか?」
特許権は、財産権として、譲渡(売買)できます。
ただし、当事者同士で譲渡の合意をしただけでは、譲渡の効力は発生しません。
特許権は無形の財産権であるため、譲渡を含めて権利の移転(相続や会社合併による一般承継を除く)については、当事者の合意が成立していることを前提として、特許原簿に登録することによって初めて効力が発生します。
譲渡による移転の場合には、「特許権移転登録申請書」に当事者間の「譲渡証書」を添付して登録申請をします。
なお、一般承継の場合には、登録してなくても移転の効力が発生しますが、特許庁に遅滞なく届け出なければならないことになっています。
特許権の設定、存続期間の延長、移転などに関する権利関係情報は、特許庁に備えられている特許原簿によって公示されます(ただし、不動産登記簿と同様に公信力はありません)。
Q22:「特許権の効力とは?」
特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有します。
ただし、後述します「専用実施権」を設定したときは、その設定行為(契約)の範囲内では実施をする権利を有しません。
字句のそれぞれの意味合いは次のとおりです。
・「業として」:個人的又は家庭的な実施以外の実施を指します。逆に言いますと、特許権の効力は、個人的家庭的な実施には及びません。
・「専有する」:独占的に保有するという意味であり(積極的効力・独占的効力・独占権)、とりもなおさず、独占を害する他人の行為を排除できることも意味します(消極的効力・排他的効力・排他権)。
Q22a:「特許権の効力が及ばない範囲は?」
特許権は非常に強力な権利ですが、場合によっては弊害が生じることがあります。産業政策的な見地あるいは公益的な見地から、消極的効力である排他権の部分について制限を設けています。
以下のものには、業として行われていても、特許権の効力は及びません。
・試験又は研究のためにする特許発明の実施(改良発明への契機となるため)
・単に日本国内を通過するに過ぎない船舶、航空機又はこれらに使用する機械、器具、装置その他の物(国際交通機関の円滑な運航を図るため)
・特許出願の時から日本国内にある物(出願時に秘密裡に存在していた物)
・二以上の医薬(人の病気の診断、治療、処置又は予防のため使用する物をいう。)を混合することにより製造されるべき医薬の発明又は二以上の医薬を混合して医薬を製造する方法の発明に係る特許権の効力は、医師又は歯科医師の処方せんにより調剤する行為及び医師又は歯科医師の処方せんにより調剤する医薬
Q22b:「特許発明の技術的範囲とは?」
特許発明の技術的範囲とは、特許発明を法律的見地からみた場合に効力範囲、権利範囲、保護範囲と捉える内容を、技術的見地からみた範囲という捉え方です。
特許発明の技術的範囲は、特許された特許請求の範囲の記載に基づいて定められます。
特許請求の範囲は文言で表現されているものであり、抽象的であるがゆえにある程度の広がり(外縁)をもつわけですが、その広がりを技術的範囲と捉えることになります。
特許権を侵害しているかどうかの判断は、侵害が疑われる対象物や対象方法が特許発明の技術的範囲に属しているか属していないか、で判断されることになります。
Q22c:「特許発明の技術的範囲の判定とは?」
特許発明の技術的範囲の判定とは、利害関係人の求めにより、侵害が疑われる対象物や対象方法が技術的範囲に属しているかどうかについて、特許庁の審判官合議体が見解を示すことをいいます。
この見解は行政処分ではなく一種の鑑定ですが、専門官庁である特許庁の公式見解であり、裁判所における裁判官の心証形成に資するものとして大きな意義を有しています。
「対象物又は対象方法が特許発明の技術的範囲に属する」という結論を求める積極的判定と、「対象物又は対象方法が特許発明の技術的範囲に属しない」という結論を求める消極的判定の双方があります。
自分の特許権について、自分の実施する対象物又は対象方法が技術的範囲に属するかどうかの判定を求める自問自答の判定の請求も可能です。
判定手数料がかかります(減免制度はありません)。
Q23:「ライセンスの設定、許諾とは?」
特許権者は、他人に、ライセンスとして、「専用実施権」を設定したり、「通常実施権」を許諾したりすることができます。
特許権者は「ライセンサー」、専用実施権者は「エクスクルーシブ・ライセンシー」、通常実施権者は「ノンエクスクルーシブ・ライセンシー」ということになります。
Q23a「専用実施権とは?」
専用実施権者は、特許権者との間で定めた設定行為(契約)に範囲内において、業として特許発明の実施をする権利を専有します。その設定行為の範囲内においては、特許権者であっても実施する権利はありません。この意味において、専用実施権は、特許権と同様の独占的効力と排他的効力を有することから、特許庁の特許原簿に設定登録しないと成立しません。
当事者同士の契約だけでは成立しませんので、ご注意ください。
専用実施権者は、特許権者の承諾を得た場合は、他人に通常実施権を許諾することができます。
Q23b:「通常実施権とは?」
通常実施権者は、特許権者との間で定めた設定行為(契約)に範囲内において、業として特許発明の実施をする権利を有します。
通常実施権者は実施する権利を専有しませんので、特許権者、専用実施権者、他の通常実施権者は設定行為と重なる範囲でも実施できることになります。
逆の言い方をしますと、通常実施権は、独占的効力と排他的効力はなく、業として実施しても特許権者や専用実施権者から権利行使を受けない権利ということができます。
なお、通常実施権は、特許権者又は専用実施権者の許諾以外にも、法律によって、公正の観点から他人に付与されることがあります。
法律によって生じた通常実施権も特許権者や専用実施権者から権利行使を受けません。
Q24:「特許権等が侵害されたときの対応は?」
特許権又は専用実施権を侵害されていると認識したときは、特許権者又は専用実施権者は、まず、相手方の実施状況を十分確認し、特許発明の技術的範囲内で実施しているかどうかを検討します。
その蓋然性が高いと判断されたときは、警告書(タイトルは「伺い書」でも何でもOK)を送り、相手方の認識を確認します。
特許権又は専用実施権を侵害した者には過失があったと推定されます。
その後,相手方の反応次第で、「差止請求」や「損害賠償請求」を検討します。
新聞、業界誌、テレビ、ネット上の広告など、あらかじめ証拠を集めておくことも重要です。
Q24a:「差止請求とは?」
特許権者又は専用実施権者は、自己の特許権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、侵害の停止又は予防を請求することができます。これを、差止請求権といいます。
侵害行為には、記載した直接侵害のほかに、予備的な行為や幇助的な行為などの間接侵害も含まれます。
差止請求には、侵害者又は侵害するおそれがある者に侵害の故意や過失があったかどうかは関係ありません。
なお、差止請求とともに、侵害行為を組成した物の廃棄、侵害行為に供した設備の除却、侵害の予防に必要な行為(例えば、担保の提供)の請求もできます。
Q24b:「損害賠償請求とは?」
民法上の不法行為として、特許権又は専用実施権が故意又は過失によって侵害された場合には、生じた損害の賠償を請求することができます。
一般には侵害者に故意又は過失があったかどうかは権利者の側に立証責任がありますが、特許法では、侵害者に過失があったものと推定されることになっています。
また、損害賠償請求にあたり、特許権者又は専用実施権者の立証負担の軽減を図るため、損害額の算定方式を規定しています。
さらに、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、業務上の信用を回復するために必要な措置(新聞紙上への謝罪広告など)を請求することもできます。
Q24c:「刑事罰は?」
侵害が故意かつ既遂の場合、侵害者に刑事罰が与えられることがあります。親告罪ではありませんので、特許権者が告訴しなくても適用があります。
例えば、法人が故意に侵害すれば、直接的に侵害をした行為者が10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれらを併科に処せられるとともに、法人には3億円以下の罰金刑が科せられます。
Q25:「特許権は取り消されたり無効とされたりすることがある?」
特許権は、「特許異議申立て」によって取り消されたり、「特許無効審判」によって無効とされたりすることがあります。
Q25a:「特許異議申立てとは?」
特許異議申立てとは、審査又は拒絶査定不服審判における審理において拒絶理由がないとされた認定に過誤があった場合に、一般公衆から特許査定に係る異議を受け付け、再審理を通じて特許査定という行政処分の信頼性を確保しようとするものです。
特許権の設定登録に伴って発行される特許掲載公報の発行日から6か月以内であれば、誰でも申立てをすることができます。
審理は審判官合議体と特許権者の間で裁判類似の手続で進行します。
取消理由があった場合には取消決定がなされ、取消決定が確定しますと、特許権は初めから存在しなかったとみなされます。
取消理由がなかった場合には、維持決定がなされます。
取消理由は、特許要件違反(審査段階の拒絶理由)とほぼ同じですが、出願人の特許を受ける権利や、特許発明の形式的瑕疵に係る特許要件違反は除外されています。
Q25b:「特許無効審判とは?」
特許無効審判とは、審査又は拒絶査定不服審判における審理において拒絶理由がないとされた認定に過誤があった場合や、登録後に特許を維持することが不適当となる場合に、特許権消滅後を含めて、第三者が審判を請求して意匠登録を無効にしようとするものです。
利害関係人であれば原則として誰でも特許無効審判を請求できますが、実際は、権利侵害をしているとして特許権者が相手方に特許権を行使した場合に、相手方が無効理由を発見し(多くの場合、新規性や進歩性を否定できる公知の文献を新たに見つけ出すことです)、請求することがほとんどです。
特許を受ける権利に関する請求については、特許を受ける権利を有する者に限り請求できます。
審理は審判官合議体の進行指揮下で審判請求人と被請求人(特許権者)との間で裁判類似の当事者対抗手続によって進行します。
無効理由があるときは請求成立審決(無効審決)、無効理由がないときは請求不成立審決(登録維持審決)がなされます。
請求成立審決(無効審決)が確定しますと、特許権は初めから存在しなかったものとみなされます(登録後の後発的理由の場合は、該当するに至った時から存在しなかったものとみなされます)。
無効理由は、特許要件違反(審査段階の拒絶理由)とほぼ同じですが、形式的瑕疵に係る要件(発明の単一性要件、別発明への補正禁止要件)が除外されるとともに、特許権成立後の訂正要件違反、後発的理由(外国人の権利享有要件違反、条約適合要件違反)が追加されています。
Q25c:「明細書等を訂正できますか?」
一定の条件を満たす場合に限り、明細書等を訂正できます。
一度成立した特許権の内容を成立後に変更することは、法的安定性から、本来行われるべきではありません。しかし、無効理由を含んでいることや、記載上の不備があることが設定登録の後に発見された場合、変更を一切認めないのは発明者や特許権者の保護に欠けるとの趣旨から、厳格な条件下で明細書等を「訂正」することが認められています。
1つは、特許権者自らが「訂正審判」を請求する場合、もう1つは、特許異議申立てや特許無効審判が他人からなされたときに特許権者が対応として「訂正請求」をする場合です。いずれの場合も、訂正は、以下の目的に限られます。
・特許請求の範囲の減縮
・誤記の訂正
・明瞭でない記載の釈明
Q25d:「特許権は一定期間実施しないと取り消されますか?」
商標権とは異なり、特許権、実用新案権、意匠権には、特許発明、登録実用新案、登録意匠又は類似する意匠を実施しなくても、不実施を理由に取り消す取消審判の制度はありません。
≪外国での特許権≫
Q26:「特許権の効力の地域的範囲は?」
日本の特許権の効力が及ぶ地域的範囲は、日本国内に限られます。
これは国家主権の問題であり、原則として、日本に限らず各国とも自国内のみ(又は政府間機関加盟国内のみ)で効力があります。
外国で特許権を取得するためには、日本での特許出願とは別にそれぞれの国へ手続をすることになります。
各国で成立した特許権は、他の国で成立した特許権とは独立していることになります。
Q27:「外国で特許権を取得するには?」
外国へ特許出願するには主に以下の2通りの手続のルートがあります。
・各国へ個別に出願するルート(「工業所有権の保護に関するパリ条約」に基づく手続で、実務上、「パリ・ルート」といいます)
・複数の国々へまとめて出願するルート(「特許協力条約<PCT>」に基づく手続で、実務上、「PCTルート(国際出願)」といいます)
Q27a:「パリ・ルートとは?」
パリ・ルートにおいては、日本での特許出願(又は実用新案登録出願)を基礎として、その出願日から1年以内に、例えば、外国A、外国B、外国Cにそれぞれの国の言語に翻訳した明細書等をもってそれぞれに特許出願すると、外国A、外国B、外国Cでの特許要件が日本での出願日を基準として審査されます。これを「優先権」といい、外国A、外国B、外国Cそれぞれに特許出願を行う際に優先権を主張します(日本の特許出願(又は実用新案登録出願)の出願日及び出願番号等を提示します)。
「パリ条約」では、先願優位の原則が貫徹される特許制度において、同じ発明を外国に出願したい出願人に1年間のアドバンテージを「優先権」という形で与えることにしたものです。
母国での特許出願と同じタイミングで各国の言語の明細書等の翻訳を用意しなければならないとすると出願人の負担が大きく、また、せっかく発明が完成しているのに特許出願が遅くなってしまうからです。
Q27b:「PCTルート(国際出願)とは?」
PCTルート(国際出願)とは、特許協力条約<PCT>に基づいて、同条約の締約国である153国(政府間機関経由を含む)(2020年7月現在)であれば、1本の国際出願で複数の国々へ出願手続ができるというものです。主な手続の流れは以下のようになります。
パリ条約の優先権を主張することも可能です。国際出願という形で出願手続は一本化されていますが、国際特許という1つの特許権が成立するわけではありません。ご注意ください。
特許権は、国(政府間機関経由を含む)ごとに成立します。詳しくはお問い合わせください。
・日本語で作成した願書に特許を希望する締約国又は政府間機関を指定
↓
・日本特許庁に願書及び日本語の明細書等を提出
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・日本特許庁がWIPO(世界知的所有権機関)国際事務局に願書及び明細書等を送付
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・日本特許庁が受理した日を国際出願日と認定
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・国際事務局は国際出願の内容について国際公開公報を発行
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・日本特許庁は国際段階として国際調査、特許性に関する見解書作成、出願人から請求あれば国際予備審査を実行
↓
・出願人は指定国の中から特許権を希望する国・政府間機関を選択し、明細書等の翻訳文を付して、優先日(国際出願日又は優先権主張の場合は日本での基礎出願日)から原則として30か月以内に国内移行手続を実施
↓
・以降、選択締約国又は政府間機関別に手続が進行
↓
・最終的に、選択締約国又は政府間機関ごとに特許可否決定