Q
≪準備段階≫
Q1.意匠とは?
Q2.出願前調査とは?
Q3.意匠登録出願書類とは?
≪出願段階≫
Q4.出願手続とは?
Q5.方式審査とは?
Q6.秘密意匠とは?
≪意匠登録要件≫
Q7.狭義の意匠登録要件とは?
Q8.広義の意匠登録要件とは?
≪審査段階≫
Q9.実体審査とは
Q10.意匠登録OKのときの登録査定とは?
Q11.意匠登録OKでないときの拒絶査定とは?
Q12.拒絶査定を受け容れる場合は?
Q13.拒絶査定に不服がある場合は?
Q14.意匠登録OKのときの請求成立審決(登録審決)とは?
Q15.意匠登録OKでないときの請求不成立審決(拒絶審決)とは?
Q16.拒絶審決に不服がある場合は?
Q17.早期審査・早期審理制度とは?
≪意匠権成立段階≫
Q18.意匠権の成立はいつ?
Q19.意匠掲載公報とは?
Q20.意匠登録証とは?
Q21.意匠権の効力とは?
Q22.ライセンスの設定、許諾とは?
Q23.意匠権等が侵害されたときの対応は?
Q24.意匠権は取り消されたり無効とされたりすることがある?
≪外国での意匠権≫
Q25.意匠権の効力の地域的範囲は?
Q26.外国で意匠権を取得するには?
≪その他≫
Q30.組立家屋の意匠権の効力?
≪準備段階≫
Q1:「意匠とは?」
意匠(デザイン)とは、以下の対象について、「視覚を通じて美感を起こさせるもの」(美的外観を有するもの)をいいます。
・物品(物品の部分を含みます)の形状、模様若しくは色彩若しくはこれらの結合(以下「形状等」といいます)
・建築物(建築物の部分を含みます)の形状等
・画像(機器の操作の用に供されるもの又は機器がその機能を発揮した結果として表示されるものに限ります。画像の部分を含みます)
以下のものは全て登録されたものです。
自動車,船,飛行機,装身具,家屋,ねじ,包装紙,椅子とテーブルのセットなどの他,もなかの皮,押し寿司のような食品でも登録されます。
同じようなものを作って売れる、形のあるものなら基本的に何でも登録の対象となると言えます。
全体の形状の中で特徴のある一部分のみを登録することもできます。
特許での権利化が難しいもの(技術的には顕著な特徴が無いもの)であっても外観形状に機能的特徴があれば意匠によって安く早く権利を得ることもできます。
Q1a:「意匠についての注意点は?」
意匠法で取り扱われる意匠は、以下のような点に注意が必要です。
・意匠:意匠は、「意匠に係る物品」、「意匠に係る建築物」、「意匠に係る画像」についての創作でなければなりません。
これらから切り離された単なるモチーフは保護対象にはなりません。
意匠とは、「意匠に係る物品」、「意匠に係る建築物」、「意匠に係る画像」と一体不可分性を有するものをいいます。
・形状等:意匠において、形状は必須要素、それ以外は任意要素となります。したがって、意匠の態様には、「形状のみ」、「形状+模様」、「形状+色彩」、「形状+模様+色彩」があることになります。
・視覚性:視覚で認識されるものであること、肉眼(取引事情により拡大鏡を用いた拡大視を含みます)で見えること、外観であること(分解や破壊しなくても見ること。ピアノの鍵盤は鍵盤蓋を開けると見えますので外観に該当します)を意味します。
・美感性:何らかの美的処理がされていることで十分とされています。美学上の造形美、装飾美、機能美、秩序美などが必須であるという意味ではありません(もちろん、それらを備えていてもかまいません)。
Q1b:「意匠の類型とは?」
意匠は、以下のような類型に分けられます。
<意匠に係る物品についての意匠>
・物品とは、定形を備える有体物のうち市場で流通する動産をいい、例えば、電気・熱・光などの無体物、固有の形状を有さない気体・液体・粉状物などは該当しません。
粉状物の集合体を固定した固形石鹸やアイスクリームなどは物品に該当します。
<意匠に係る建築物についての意匠>
・建築物とは、例えば、居住用、事業活動用、店舗用などの用途に供される住宅、オフィス、販売店などをいいます。
<意匠に係る画像についての意匠>
・画像とは、例えば、情報表示用画像、入力用画像などをいいます。
<意匠に係る物品、建築物又は画像の部分についての意匠>
・物品、建築物又は画像の部分とは、意匠法の対象となる物品、建築物又は画像の中で一定の範囲を占める部分であり、他の意匠と対比可能な部分をいいます。
例えば、物品でいえば、「靴下」の「かかと」の部分が該当します。
Q1c:「創作者とは?」
創作者とは、現実に「意匠を創作した者」をいいます。
意匠創作そのものは、法律行為ではなく社会的事実行為であるため、創作者は意匠を創作するプロセスに直接参加した者に限られます。
出願手続を遂行する「出願人」が法律行為を行うにあたって「(出願人の)代理人」を立てることができるのに対し、「創作者」は「(創作者の)代理人」を立てることは原理的にできません。
また、「出願人」は自然人でも法人でもかまいませんが、「創作者」は自然人に限られます。
Q1d:「意匠の実施とは?」
意匠の実施とは、次のような行為をいいます。
<意匠に係る物品の場合>
・物品の製造、使用、譲渡、貸渡し、輸出、輸入、譲渡貸渡しの申出
<意匠に係る建築物の場合>
・建築物の建築、使用、譲渡、貸渡し、譲渡貸渡しの申出
<意匠に係る画像の場合>
・画像(プログラム等を含む)の作成、使用、電気通信回線提供又はその申出、画像記録媒体等の譲渡、貸渡し、輸出、輸入、譲渡貸渡しの申出
Q2:「出願前調査とは?」
出願前調査とは、意匠を創作するにあたって、出願しようとする意匠について、既に第三者が似たような意匠を登録していないかどうかを調査することをいいます。
意匠を創作する過程において、調査結果をフィードバックして、意匠を創作していく作業に反映させます。
調査にあたっては、特許庁が無料で提供するデータベース(「J-platpat」という名称の特許情報プラットフォームのことで,独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営)を活用することができます。
Q3:「意匠登録出願書類とは?」
意匠登録出願書類は、「願書」に「図面」を添付して構成されます。各書類の内容は、以下のとおりです。
<願書>
・意匠登録を受けようとする意思を示す「意匠登録願」という名の書類です。
「出願人」情報、「創作者」情報、代理人を立てた場合は「代理人」情報、「意匠に係る物品・意匠に係る建築物の用途・意匠に係る画像の用途」、「出願手数料」などを記載します。
また、必要に応じて、「意匠に係る物品・意匠に係る建築物の用途・意匠に係る画像の用途の説明」、「意匠の説明」を記載します。
<図面>
・意匠を図示した書類で、同一縮尺の「六面図(正面図、背面図、左側面図、右側面図、平面図、底面図)」が基本となります。
例えば左右側面図が対称に現されるような場合は、一方を省略できます。六面図で意匠を十分表現できない場合は、展開図、断面図、切断部端面図、拡大図、斜視図などを加えます。
そのほか参考図として、物品等の「使用状態を示した図」を加えます。
なお、部分意匠の場合は、対象となる部分を実線で、その周囲の全体は破線のように区別して示します。
・図面は、可能な場合には、写真、ひな形又は見本をもって代えることもできます。
Q3a:「願書の記載は具体的にどのように記載しますか?」
特許出願書類や実用新案登録出願書類では、願書に記載される事項は「出願人」情報、「発明者/考案者」情報、代理人を立てた場合の「代理人」情報などのいわゆる書誌的事項に限られます。
これに対し、意匠登録出願では、願書の記載は、権利化しようとする意匠の内容を図面とともに構成することになります。
願書には必須事項として「意匠に係る物品・意匠に係る建築物の用途・意匠に係る画像の用途」を、必要に応じて「意匠に係る物品・意匠に係る建築物の用途・意匠に係る画像の用途の説明」、「意匠の説明」を記載します。
<意匠に係る物品>
・単一物(単品)、合成物(例:トランプ)、集合物(例:背広服(背広上下、三つ揃え))については、意匠法施行規則別表第1の物品の区分に基づいて記載します。
別表第1に記載のない物品としたい場合は、同程度の詳しさで物品を特定します。
*物品の区分を掲げていた「意匠法施行規則別表第一(以下、「別表第一」)」は廃止されました。
→令和3年4月1日から、【意匠に係る物品】の欄は、意匠に係る物品若しくは意匠に係る建築物若しくは画像の用途、組物又は内装が明確となるように記載します(意匠法施行規則第7条)。
物品の区分について
・組物については、意匠法施行規則別表2に挙げられた組物(例:一組の食品セット、一組の衣服セット)の中から選択して記載します。
別表2に挙げられていない組物とすることはできません。
<意匠に係る建築物の用途>
・単体については、意匠法施行規則別表第1の物品の区分に記載されている用途(例:住宅、ホテル、劇場、野球場)に基づいて記載します。
別表第1に記載のない用途としたい場合は、同程度の詳しさで用途を特定します。
・組物については、意匠法施行規則別表2に挙げられた「一組の建築物」と記載します。
<意匠に係る画像の用途>
・単体については、意匠法施行規則別表第1の物品の区分に記載されている用途(例:情報表示用画像、入力用画像、インジケーター用画像、アイコン用画像)に基づいて記載します。
別表第1に記載のない用途としたい場合は、同程度の詳しさで用途を特定します。
・組物については、意匠法施行規則別表2に挙げられた「一組の画像セット」と記載します。
<意匠に係る物品等の説明>
・意匠法施行規則別表第1の物品の区分に記載されていない物品・建築物・画像を記載してその物品・建築物・画像を説明するとき
・物品・建築物・画像の構成を文言で説明しておいたほうが良いと判断されるとき
・参考図として添付した「使用状態を示した図」等を説明するとき
などに記載します。
<意匠の説明>
・意匠に係る物品等の記載や図面からでは当業者(出願された意匠の属する分野における通常の知識を有する者)が材質や大きさを理解できないとき
・物品・建築物の形状等又は画像が変化する場合で変化前後の態様について意匠登録を受けようとするとき
・図面に色彩を付すにあたって白色又は黒色の一方を省略するとき、物品・建築物・画像の全部又は一部が透明であるとき
・六面図の一部を省略するとき
などに必要な事項を記載します。
Q3b:「図面は具体的にどのように書きますか?」
意匠を現す図面は、同一縮尺の六面図がベースとなりますが、作図にあたっては、意匠を構成しない「線」を描出しないようにしなければなりません。
例えば、設計図などに描出される対象物の中心線を現す一点鎖線などです。
意匠を構成する線は、物品等と空間を仕切る輪郭線、物品等のある領域と隣接する領域の間を仕切る境界線、模様を現す線が基本となります。
アメリカなどでは、立体感を出すために陰影を現す線を書き加えたりしますが、日本では、陰影を施すことはしません。立体感は、斜視図によって表現します。
なお、近年では作図ソフトによって非常に細かい輪郭線や境界線を表現することが可能になりました。
例えば、ある曲面の曲率半径が一定でなくある区間ごとに曲率半径が変化するときに、異なる曲率半径の境界ごとに線を描出してあるような場合です。
意匠登録出願用の図面としてはあまりに細かすぎるのもかえって意匠の同一性の範囲を相対的に狭める結果になる可能性があります。意匠を構成する線として必要最小限の線で作図することが好ましいということができます。
特許出願や実用新案登録出願は意匠登録出願に変更することができます。その可能性のある場合には、特許出願や実用新案登録出願の図面に同一縮尺の六面図を含めておくことが望まれます。
Q3c:「意匠登録出願書類は自分で作成できますか?」
法制度上は、創作者や出願人がご自分で意匠登録出願書類を作成することに何ら問題ありません。
しかし、別に説明しましたように、実際に作成することはなかなか難しい作業になります。
といいますのも、意匠の創作は社会的事実行為ですが、意匠を落とし込んだ意匠登録出願書類は優れて法律文書であるためです。
記載内容は、意匠に裏付けられることを前提として、法律の面から審査に付されます。そうしますと、書類の作成にあたっては、ご自分の専門である意匠以外に、意匠法、意匠法施行令、意匠法施行規則、特許庁審査基準、審決例、判例、実務上の慣行などを把握した上での作業が求められるため、一般の方には非常に負担の大きい作業となります。
代理人としての弁理士はこれらに習熟した専門家です。費用はかかりますが、弁理士に意匠登録出願書類の作成を依頼されることをお勧めします。
≪出願段階≫
Q4:「出願手続とは?」
出願手続として、特許庁へ「出願手数料」を添えて意匠登録出願書類を提出します。
提出方法としては、電子データ化した書類を電子出願(インターネット回線を利用したオンライン手続)できるほか、書面(紙ベース)の書類を郵送提出又は窓口提出することもできます。
ただし、書面(紙ベース)で提出したときには、出願手数料とは別に、電子化手数料を納付しなければなりません。
特許庁側で電子化する(実務的には、一般財団法人工業所有権電子情報化センターが処理)ための実費です。
私どもの事務所では電子出願に対応しています。電子出願で意匠登録出願書類が受理されますと、ただちに出願番号(例:意願2020-123456)が付与されます。
Q4a:「出願手数料とは?」
出願手数料は、意匠登録出願書類の受理や「方式審査」及び「実体審査」のために必要な費用であり、原則として書類の提出と同時に納付することになっています。
電子出願では、出願人又は代理人が特許庁に事前に開設した予納台帳(デポジット)から引き落とす形で納付されます。
書面(紙ベース)の場合には、願書に特許印紙を貼着して納付することになります。
予納台帳が残金不足であったり、特許印紙が貼着されていない又は金額不足したりしているような場合には、定められた金額を指定期間内に納付すべき旨の補正命令が出されます。
指定期間内に納付すべき金額を納付しないときは、特許庁長官は、出願を却下することができますので、注意が必要です。
なお、現在のところ、出願手数料は「16,000円」です(減免制度はありません)。
Q5:「方式審査とは?」
方式審査とは、出願手数料の納付のチェックに加えて、出願人の手続能力(未成年者等の場合の取扱い)、代理人への特別な授権、法律などで定められた方式(書類の様式)について特許庁長官(実際には、担当部署)が行う審査のことをいいます。
違反が発見されると、指定期間内に補正すべき旨の補正命令が出されます。
指定期間内に補正しないときは、特許庁長官は、出願を却下することができますので、注意が必要です。
さらに、不適法な手続であって補正できないものは却下されます。
例えば、意匠登録出願書類の願書に「意匠に係る物品・意匠に係る建築物の用途・意匠に係る画像の用途」が記載されていないような場合です。
却下されるということは出願として受理されないということですから、出願番号の付与もありません。
Q6:「秘密意匠とは?」
意匠は、形状等によって定まる外観で権利化されます。このことから、公表されると第三者にすぐ模倣されたり、競業者に自社のデザイン開発の方向を認識されたりしてしまう確率が高いということができます。このような事情を勘案して、意匠登録制度では、特許制度とは異なり、出願公開(登録前の出願内容の公表)はされません。
しかし、一方で、意匠登録後は、意匠権という独占権を社会に向けて公示する必要があるため、意匠公報によって登録意匠が公表されます。
意匠権者は、意匠公報の発行を止めることはできませんが、意匠権の設定登録日から3年を限度として、図面等を秘密にする(意匠公報への掲載を猶予する)ことを請求することができます。意匠公報の発行と登録意匠を施した物品等の実施とのタイムラグによって不利益が生じ得る場合などです。この意匠や制度を秘密意匠といいます。
秘密意匠を希望する出願人は、出願と同時に、又は登録査定・登録審決に応じて第1年分の登録料を納付する際に、秘密請求料を添えて請求書を提出します。
現在のところ、秘密請求料は「5,100円」です。
なお、秘密意匠は、意匠権の権利行使にあたって通常の意匠とは異なる扱いとなりますのでご注意ください。
≪意匠登録要件≫
Q7:「狭義の意匠登録要件とは?」
狭義の意匠登録要件とは、出願された意匠登録を受けようとする意匠が登録を受けるための最も基本的な要件です。
<意匠についての要件>
・「工業上の利用可能性を有すること」
・「新規性を有すること」
・「創作非容易性を有すること」
<出願人についての要件>
・「創作者が原始的に意匠登録を受ける権利を有すること」
Q7a:「工業上の利用可能性とは?」
工業上の利用可能性とは、工業的生産過程(手工業を含む)を経て量産できることをいい、その可能性を有してれば足ります。
例えば、農具は農業に使用されるものでありますが、農具自体は工業的に量産できますので、工業上の利用可能性があります。
一方、自然物を意匠の主たる要素とするものや、純粋美術の著作物は工業的手段によって同一物を反復して量産できるものではないので、工業上の利用可能性がありません。
Q7b:「新規性とは?」
新規性とは、出願された意匠が出願前に日本国内又は外国において公知になった意匠でもそれに類似する意匠でもないことをいいます。
意匠における創作性は創作者の主観的認識で足りますが、意匠登録要件としては、客観的に新規性を有していることが求められます。
「公知になった意匠」には、出願人の意匠も含まれます。新規性のない意匠及び類似する意匠は創作に該当しませんので、意匠登録性を有しません。
整理しますと以下のようになります。
<公知になった意匠>
・公然に知られた意匠:守秘義務のない者に現実に知られた意匠。(実務上、公知といいます)
・頒布された刊行物に記載された意匠、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった意匠:いずれも、不特定の者が見得るような状態に置かれた意匠。
実際に見られたかどうかは関係ありません。(実務上、文献公知といいます)
<公知の判断基準>
・時間的基準:出願前、すなわち出願日ではなく時分単位で判断
・地域的基準:日本国内又は外国、すなわち世界基準で判断
Q7c:「出願前に自分の意匠が公知になってしまったが?」
自分自身の意匠であっても出願よりも前に公知になっていれば(新規性喪失といいます)、「公知になった意匠」として拒絶理由の根拠になります。
つまり、自分自身の意匠が公知になった後に出願しても、意匠登録性はありません。
しかし、これでは、出願人に酷な結果となることがあります。
例えば、意匠を施した物品をデザインコンクールに出品したりするタイミングと出願のタイミングが上手く取れないような場合です。
このような事態を避けるため、新規性喪失の例外として手続を取ることにより、公知になった意匠は新規性及び創作非容易性の根拠として取り扱われません。
なお、新規性を喪失したものが意匠に係る物品等から切り離された形状等又は画像のモチーフであれば新規性喪失例外の対象となりませんのでご注意ください。
・時期的条件:公知になった日から1年以内に出願と同時に手続を行うこと
・例外の対象となる意匠:意匠登録を受ける権利を有する者の意に反して公知となった意匠(秘密にしておく意思があったにもかかわらず他人によって公表されてしまったような場合)、意匠登録を受ける権利を有する者の行為に起因して公知になった意匠(デザインコンクールへ自ら出品したような場合)
Q7d:「創作非容易性とは?」
創作非容易性とは、出願された意匠が出願前に日本国内又は外国において公知になった形状等又は画像に基づいて、当業者が容易に創作できた意匠ではないことをいいます。
ここで注意を要する点は、「公知になった意匠」ではなく「公知になった形状等又は画像」に基づいて判断される点です。
新規性は、物品等と一体不可分な「意匠」が根拠となりますが、創作非容易性は、物品等と一体不可分な意匠に加えて、物品等から切り離された形状等又は画像も根拠となります(実務上、これらを指して「モチーフ」ということがあります)。
出願された意匠が新規性なしと創作非容易性なしの両方に該当することもあり得ることになりますが、その場合は、新規性なしの要件が優先的に適用されます。
例えば、次のような意匠は、創作非容易性がないと判断されます。
<公知になった形状等又は画像>
・公然知られ、頒布された刊行物に記載され、又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった形状等又は画像
<判断主体>
・当業者:出願された発明の属する分野における通常の知識を有する者
<進歩性がないとされる場合の例>
・置き換え:意匠の構成要素の一部を公の意匠等に置き換えること
・寄せ集め:複数の公の意匠等を組み合わせて、一の意匠を構成すること
・一部の構成の単なる削除:意匠の創作の一単位として認められる部分を単純に削除すること
・配置の変更:意匠の構成要素の配置を、単に変更すること
・構成比率の変更:意匠の特徴を保ったまま、大きさを拡大・縮小したり、縦横比などの比率を変更したりすること
・連続する単位の数の増減:繰り返し表される意匠の創作の一単位を増減させること
・物品等の枠を超えた構成の利用・転用:既存の様々なものをモチーフとし、ほとんどそのままの形状等で種々の物品に利用・転用すること
Q7e:「創作者が原始的に意匠登録を受ける権利を有するとは?」
これは、意匠の創作と同時に創作者に「意匠登録を受ける権利」が生じることを意味しています。
出願人は、原始的には創作者ということになります。
一方、意匠登録を受ける権利は、財産権として移転することができます。
例えば、会社の従業員が意匠の創作をした場合に意匠登録を受ける権利を会社に承継させ、会社が出願人として出願することができます(職務意匠といいます)。
Q8:「広義の意匠登録要件とは?」
広義の意匠登録要件には、狭義の意匠登録要件に以下の要件が加わります(ここに記載した以外の要件もありますが、複雑になりますので割愛します)。
狭義の意匠登録要件を含む広義の意匠登録要件が満たされない場合には、後述します「拒絶理由」に該当し、意匠登録を受けることはできません。
<意匠についての要件>
・「先願意匠の一部と同一又は類似する後願意匠でないこと」
・「不登録事由に該当しないこと」
・「組物の意匠は組物全体として統一があること」
・「内装の意匠は内装全体として統一的な美感を起こさせること」
・「最先の出願であること」
・「関連意匠は本意匠と一定の関係にあること」
<出願についての要件>
・「一意匠一出願を満たすこと」
<出願人についての要件>
・「意匠登録を受ける権利を有する者の出願であること」
Q8a:「先願意匠の一部と同一又は類似の後願意匠でないこととは?」
ある出願(後願B)について、その出願日よりも前の日に出願された出願(先願A)があり、後願Bの出願後に先願Aの意匠公報が発行された場合、後願Bの意匠が先願Aの意匠の一部と同一又は類似であるときには、後願Bの意匠は登録を受けることができない、というものです。
少しややこしいですが、後願Bの意匠が出願時に新規性を備えていた場合でも(後願Bの出願時には先願Aは公知になっていない)、先願Aの意匠の一部と同一又は類似であれば、後願Bの意匠は新たな創作物ということはできないこと、このような場合に先願Aと後願Bの両方とも登録すると権利関係が錯綜してしまうことの2点を勘案して定められているものです。
ただし、先願Aと後願Bの出願人が同一の場合には、後願Bの出願のタイミングによっては適用されません。
Q8b:「不登録事由に該当しないこととは?」
この要件は、公益保護の観点から、意匠登録を受けることができないというものです。
以下のものがあります。
・公の秩序、善良の風俗を害するおそれがある意匠(意匠は美的外観が対象であることから、特許・実用新案とは異なり、公衆衛生を害するおそれがあるものは含まれません。)
・他人の業務に係る物品、建築物又は画像と混同を生ずるおそれがある意匠(物品等の混同に加え、出所(製造元、販売元等)の混同も含みます。市場における流通秩序を害さないためです。)
・物品の機能を確保するために不可欠な形状のみからなる意匠、建築物の用途にとつて不可欠な形状のみからなる意匠、画像の用途にとつて不可欠な表示のみからなる意匠(物品等の技術的機能を確保するために必然的に定まる形状のみ又は表示のみの意匠を一私人に独占させることは産業の発達を阻害するためです。模様や色彩の有無は関係ありません。)
Q8c:「組物の意匠は組物全体として統一があることとは?」
同時に使用される二以上の物品であって意匠法施行規則別表第2の「組物」を構成する物品、建築物、画像に係る意匠については、組物全体として統一あるときは一意匠として出願できます。
組物全体として統一があるとされる場合の例は次のとおりです。
・組物の各構成物品等が同じような造形処理を施されているもの
・構成物品等が全体として一つのまとまった形状又は模様が施されているもの
・構成物品等の間で物語性など観念的に関連がある印象を与えるもの
Q8d:「内装の意匠は内装全体として統一的な美感を起こさせることとは?」
店舗、事務所その他の施設の内部の設備及び装飾を構成する物品、建築物、画像に係る意匠については、内装全体として統一的な美感を起こさせるときは一意匠として出願できます。
内装全体として統一があるとされる場合の例は次のとおりです。
・構成物等に共通の形状等の処理がされているもの
・構成物等が全体として一つのまとまった形状又は模様を表しているもの
・構成物等に観念上の共通性があるもの
・構成物等を統一的な秩序に基づいて配置したもの
・内装の意匠全体が一つの意匠としての統一的な創作思想に基づき創作されており、全体の形状等が視覚的に一つのまとまりある美感を起こさせるもの
Q8e:「最先の出願であることとは?」
この要件は、同一又は類似の意匠について複数の出願があり、いずれも他の意匠登録要件を満たしているとき、重複登録を排除するために、最先の出願のみが意匠登録を受けることができるというものです(先願主義といいます)。
出願日の異同の関係から、以下のように調整されます。
・異なった日に複数の意匠登録出願があった場合は、最先の出願のみ意匠登録可。
・同じ日に複数の意匠登録出願があった場合は、出願人同士の協議により定めた出願のみ意匠登録可。協議不成立・不調のときは、いずれも意匠登録不可。
Q8f:「関連意匠は本意匠と一定の関係にあることとは?」
関連意匠とは、一つのデザインコンセプトから派生した意匠の一群のバリエーションを保護する制度です。
具体的には、自己の出願に係る意匠又は登録意匠から選択した「本意匠」に類似する意匠を「関連意匠」として本意匠の出願日から10年以内に出願することができます。
また、連鎖する段階的な関連意匠として、「関連意匠A(関連意匠Bにとっての本意匠)」にのみ類似する「関連意匠B(関連意匠Aを本意匠とする関連意匠)」や、「関連意匠B(関連意匠Cにとっての本意匠)」にのみ類似する「関連意匠C(関連意匠Bを本意匠とする関連意匠)」も認められることになります。
このとき、最初の本意匠は「基礎意匠」と呼ばれます。
これら、本意匠と関連意匠の間、基礎意匠と関連意匠の間では、新規性要件・創作非容易性要件・最先出願要件は問われません。
Q8g:「一意匠一出願を満たすこととは?」
意匠登録出願は、意匠ごとにしなければなりません。1つの出願で複数の意匠を出願することはできません。
先に説明しました「組物の意匠」、「内装の意匠」は複数の構成物品が含まれますが、統一性があるときには1つの意匠とされます。
Q8h:「意匠登録を受ける権利を有する者の出願であること」
前述しましたように、意匠登録を受ける権利は原始的に創作者に帰属します。
ことため、出願人が創作者でない場合、出願人は創作者から意匠登録を受ける権利を承継していなければなりません。
意匠登録を受ける権利が共有である場合には、各共有者は共同して出願しなければなりません。
≪審査段階≫
Q9:「実体審査とは?」
「審査段階」でいう審査とは、「審査官」(特許庁職員で資格を有する者)による「実体審査」のことを指しています。
実体審査とは、審査官が意匠登録出願に「拒絶理由」があるかどうかを審査することをいいます。
意匠登録出願には、特許出願とは異なり、実体審査のための「出願審査請求」の制度はありません。
特許庁長官による方式審査をクリアすると自動的に審査官による実体審査に移行します。
審査官は、審査の結果、拒絶理由が発見されなければ「登録査定」という行政処分を行うこと、拒絶理由が発見されれば「拒絶査定」という行政処分を行うことが義務付けられています。これらの行政処分には裁量がありません。拒絶理由は法定されており、それ以外の理由で拒絶することは認められていません。
審査官は、拒絶査定をしようとする場合には、それに先立って出願人に対し「拒絶理由通知」を出します。
Q10:「意匠登録OKのときの登録査定とは?」
登録査定は、審査の結果、出願された意匠は拒絶理由を発見しないので意匠登録できるとする審査官による行政処分です。
「登録査定」というタイトルが付いた書面が出されます。
登録査定には、意匠権の設定登録のための注意書きとして、「この書面を受け取った日から30日以内に登録料の納付が必要です。」と記載されています。
登録査定を受けても登録料を納付しなければ意匠権は発生しませんので、ご注意ください。詳しくは、≪意匠権成立段階≫で説明します。
Q11:「意匠登録OKでないときの拒絶査定とは?」
拒絶査定は、審査の結果、出願された意匠は拒絶理由があるので意匠登録できないとする審査官による行政処分です。
「拒絶査定」というタイトルが付いた書面が出されます。
拒絶査定には、注意書きとして、「この査定に不服があるときは、この査定の送達日から3か月以内に審判(「拒絶査定不服審判」)を請求することができます」と記載されています。
審査官は、拒絶査定をしようとする場合、それに先立って、出願人に対し、拒絶理由を明示した「拒絶理由通知」を出します。
Q11a:「拒絶理由通知とは?」
拒絶理由通知とは、審査官が拒絶査定に先立って出願人に送る「拒絶理由」を明示した通知のことをいいます。
拒絶理由通知に対して、出願人は「意見書」を提出する機会を与えられますが、これは、出願人に反論の機会を与えるという趣旨です。
出願人は、希望すれば、この機会に「手続補正書」を提出して、拒絶理由を解消するために願書の記載や図面等の「補正」をすることもできます。
意見書(及び/又は手続補正書)は、拒絶理由通知の中で指定されている期間内(拒絶理由通知の発送の日から40日以内)に提出します。
拒絶理由通知が出される回数は法律では制限されていませんが、実務的には審査過程がエンドレスとなることを避けるため、原則的に1回のみです。
審査を効率的に進める観点から、その1回の拒絶理由通知にすべての拒絶理由が記載されることになっています。出願人は、そのすべての拒絶理由に応答しなければなりません。
Q11b:「拒絶理由とは?」
意匠登録出願が登録査定を得るためには、既に説明しました狭義及び広義の意匠登録要件(割愛したものも含む)の1つでも違反すると、拒絶理由に該当するとして出願は拒絶されます。
なお、意匠登録制度では、願書の記載、図面等について行った「補正」が以下の要件を満たさないと判断されますと、審査官により、拒絶理由ではなく、「補正却下決定」とされます。
補正については、別に説明します。
<補正についての要件>
・願書の記載、図面の補正は要旨を変更するものであってはならないこと(要旨変更補正禁止)
Q11c:「主な拒絶理由は何?」
前述した意匠登録要件に対する拒絶理由のうち、違反しているとして指摘されることが多いという意味で主な拒絶理由には以下のものがあります。
これら主な拒絶理由に関する審査官の拒絶理由通知と出願人の意見書の交換は、意匠の登録性について審査官と出願人との見解を闘わせるディスカッションという側面を有しています。
○・を付した3つの主な拒絶理由については、別に例を示して説明します。なお、これら以外の拒絶理由は、基本的に準備段階で調整しておきます。
<意匠についての拒絶理由>
○・「新規性を有さない」
○・「創作非容易性を有さない」
・「先願意匠の一部と同一又は類似の後願意匠である」
・「組物の意匠において組物全体として統一がない」
・「内装の意匠において内装全体として統一的な美感がない」
<出願についての拒絶理由>
・「一意匠一出願を満たさない」
Q11d:「新規性を有さないとは?」
実務的には、証拠として誰にでも確認できる公知の文献を1つ引用し、これを理由に拒絶されます(実務上、この場合に引用される公知の文献を引用文献、引例などといいます)。
出願された意匠は、引用された意匠と同一又は類似しているとして、新規性なしとされます。
Q11e:「創作非容易性を有さないとは?」
実務的には、寄せ集め意匠とされた場合、公知の文献を2つ以上引用することにより拒絶されます。
出願された意匠が引用された複数の意匠又は形状等(物品等の限定がないモチーフ)に基づいて一の意匠としたものであり、容易に創作できたものであるとされます。
Q11f:「拒絶理由通知への対応は?」
拒絶理由を十分吟味した上で、拒絶理由ごとに検討します。
・拒絶理由に対して反論可能であるか、
・願書の記載、図面を補正すれば反論可能であるか、
・一部について反論可能であるが残りは反論が難しいか、
・拒絶理由を受け容れざるを得ないか、についてです。
それぞれの場合における対応案は以下のとおりです。
<拒絶理由に対して反論可能である場合>
・意見書で審査官の見解に反論します。
出願された意匠と、新規性又は創作非容易性を否定するために引用された意匠についての審査官の認定に誤解や過誤があったり、両者の対比検討が合理的でなかったりすれば、その点を反論します。
なお、この反論は、あくまで技術面、法律面から冷静かつ論理的に行うもので、審査官に対する感情的な誹謗中傷となるような記載は絶対してはなりません。
i)新規性がないとして拒絶された場合の例
同一の意匠を引用されて拒絶されたときには反論の余地はありません。
しかし、類似する意匠を引用されて拒絶されたときには、以下の類否判断を行い、出願意匠は引用意匠に類似していない旨を反論します。
*出願意匠と引用意匠の「基本的構成態様」、「具体的構成態様」、「要部(需要者の注意を最も惹きやすい部分)」を認定
*両意匠について、物品等の対比、形状等の対比
*全体の美感の共通性と別異性をもって類否判断⇒共通性が上回れば類似、別異性が上回れば非類似
ii)創作非容易性がないとして拒絶された場合の例
以下の点などを指摘し、出願意匠が引用された意匠又は形状等(物品等の限定がないモチーフ)に基づいて容易に創作できたものではない旨を反論します。
*ありふれた手法により創作されたものではない点
*出願意匠に係る物品等の構造や機能と形状等の関係において出願意匠は独創性を備える点
<願書の記載、図面を補正すれば反論可能である場合>
・出願時の内容では反論困難な場合に、審査官の指摘箇所を補正することにより拒絶理由を解消することができるのであれば、手続補正書によって指摘箇所を補正します。
この際、意見書において補正後の内容を説明しつつ拒絶理由が解消した旨を反論します。
補正にあたっては、要旨変更にならないように注意します。
<一部について反論可能であるが残りは反論が難しい場合>
・一意匠一出願要件、組物の意匠の統一要件、内装の意匠の統一要件を満たさないとして、出願に複数の意匠が含まれているとされた場合には、意匠ごとに出願を「分割」して新たな出願とすることができます。
<拒絶理由を受け容れざるを得ない場合>
・すべての拒絶理由を解消できないのであれば、権利化を断念し、放置します。
Q11g:「補正とは?」
補正とは、意匠登録出願書類を補充訂正することをいい、一切の補正を認めないのは出願人に酷なことから、一定の制限下で認められています。
出願人は、拒絶理由を解消するため、願書の記載又は図面等を補正することができます。
適法な補正をしたときには補正後の内容で出願したものとみなされます。
一方、出願時の内容と同一性の範囲を超える補正である場合には、他の出願人などの第三者に不測の不利益を与えることになってしまいます。
なので、「要旨変更」であるとして補正却下決定(補正を認めない決定)となります。
その場合、出願人は、以下の中から対応を選択することになります。
<補正却下決定を受け容れる場合>
・補正前の意匠について審査を続行する(あらためて別の補正を行うことも可)。
・補正後の意匠で権利化を図る場合には、「補正後の意匠についての新出願」を行う。
<補正却下決定に不服がある場合>
・「補正却下決定不服審判」を請求する。
なお、法律上は、意匠の補正が認められていますが、要旨変更とならないような補正は非常に狭い範囲に限られています。
要旨変更とならないケースとしては、誤記の訂正や、不明瞭な記載などの訂正又は補充に限られますので、ご注意ください。
Q11h:「補正後の意匠についての新出願とは?」
出願人は、補正却下決定を受けたとき、同決定の送達日から3か月以内に補正後の意匠について新たな意匠登録出願をすることができます。
新出願は、もとの出願における手続補正書を提出した時にしたものとみなされます。
補正前の意匠ではなく補正後の意匠で権利化を図りたいという出願人に対し、一定のアドバンテージを与えるものです。
もとの出願は取り下げたものとみなされますので、新出願を通じてあらためて審査手続が進行します。
なお、新たな出願には、出願手数料が必要です。
Q11i:「補正却下決定不服審判とは?」
出願人は、補正却下決定に不服があるときは、「補正却下決定不服審判」を特許庁長官に請求することができます。
同決定の送達日から3か月以内に、審査手続とは別に、「審判手数料」を添えて「審判請求書」を提出します。
審判とは審判官(特許庁職員で資格を有する者)の合議体による審理のことをいいます。
補正却下決定不服審判は、審査官が審査官による補正却下決定に不服がある場合に、補正却下決定の当否を審判官合議体に審理させることをいいます。
審査官の判断に過誤がないとは必ずしも言い切れないためです。
審査段階では審査官1人で審査されますが(特許庁内の上司の決済はあり)、審判段階では複数(一般的には3人)の審判官合議体によって裁判類似の手続を経て審理(補正却下決定不服審判は、原則として、書面審理)されます。
審理の結果、補正却下決定が失当であると判断したときは請求成立審決(補正却下決定取消審決)がなされます。
補正却下決定が正当であると判断したときは請求不成立(補正却下決定維持審決)がなされます。
請求成立審決(補正却下決定取消審決)は、審査官を拘束します。
なお、補正後の意匠についての新出願をしたときは、当該審判を請求することはできません。
現在のところ、審判手数料は、「55,000円」です(減免制度はありません)。
Q11j:「出願の分割とは?」
意匠登録出願の分割とは、複数の意匠が出願に含まれている場合、意匠ごとに別の新たな出願に分割することをいいます。
一意匠一出願の要件、組物の意匠の統一要件、内装の意匠の統一要件を満たさない場合に、出願の分割を行うことになります。
組物や内装の意匠が統一要件を満たしている場合には、他の意匠登録要件を満たさないとの拒絶理由に対して出願の分割を行うことはできません。
統一要件を満たしている場合には、一意匠と認定されており、複数の意匠が出願に含まれないためです。
分割後の新たな出願は、要件を満たす場合は、もとの意匠登録出願の時にしたものみなされます。
具体的には、以下のような場合に分割が活用されます。
なお、新たな出願には、出願手数料が必要です。
・願書に意匠に係る物品、建築物、画像が複数記載されている。
・図面に複数の形状等が記載されている。
・組物や内装の意匠が統一要件を満たしていない。
Q11k:「反論して拒絶理由を解消できた場合は?」
出願は、拒絶理由を発見しないということで登録査定となります。
Q11l:「反論しても拒絶理由を解消できない、何も対応しない場合は?」
出願は、拒絶理由通知に示された拒絶理由をもって「拒絶査定」となります。
反論した場合は、出願人が意見書を出してから審査官が検討を終了した後に、何も対応しないで放置した場合は、意見書提出の指定期間の経過した後に、拒絶査定が出されます。
同一又は類似する他人の登録意匠があるという拒絶理由で拒絶査定となった場合、注意が必要です。
この拒絶査定が確定しますと、出願した意匠と同一又は類似の意匠を実施すれば、拒絶理由通知で引用されたその他人の意匠権の侵害(後述します)に問われるおそれがあります。
Q12:「拒絶査定を受け容れる場合は?」
拒絶査定を受け容れる場合、出願人は、以下の2つの選択肢の中から対応を選ぶことになります。
・拒絶査定の送達日から3か月以内に、当該意匠登録出願を特許出願又は実用新案登録出願に変更できます。
変更後の出願がそれぞれの登録制度の要件を満たす場合には、変更後の出願の出願日は当該意匠登録出願の出願日にしたものとみなされます。
当該意匠登録出願は、取り下げたものとみなされます。
・権利化を断念する場合は、放置します。拒絶査定の送達日から3か月を経過した後、拒絶査定が確定します。
Q12a:「出願の変更とは?」
出願の変更とは、意匠登録出願、特許出願、実用新案登録出願の間で、互いに出願形式を変更することをいいます。
意匠登録出願は、最初の拒絶査定の送達の日から3か月以内に、特許出願(意匠登録出願の出願日から3年を超えると不可)又は実用新案登録出願(意匠登録出願の出願日から9年6か月を超えると不可)に変更できます。
要件を満たす場合は、変更後の出願はもとの意匠登録出願の時にしたものみなされます。
もとの意匠登録出願は、取り下げたものとみなされます。
変更後の出願には、出願手数料、出願審査請求料(特許出願の場合)、登録料(実用新案登録出願の場合)が必要です。
なお、実務的には、意匠登録出願書類をベースにして特許又は実用新案登録出願書類を作成しようとすると、図面はともかく、意匠登録出願書類の記載に何も付け加えずに明細書や特許又は実用新案登録請求の範囲を文言で完成することには大きな困難を伴います。
変更後の特許又は実用新案登録出願において、付け加えた事項が新規事項であると判断されますと、その特許又は実用新案登録出願の出願日は、現実に出願した日となります。
Q13:「拒絶査定に不服がある場合は?」
出願人は、拒絶査定に不服がある場合、「拒絶査定不服審判」を特許庁長官に請求することができます。
拒絶査定の送達日から3か月以内に、審査手続とは別に、「審判手数料」を添えて「審判請求書」を提出します。
同審判は、拒絶査定に対する不服申立ての唯一の手段となります。これ以外の手段はありません。
現在のところ、審判手数料は、「55,000円」です(減免制度はありません)。
Q13a:「拒絶査定不服審判とは?」
審判とは審判官(特許庁職員で資格を有する者)の合議体による審理のことをいいます。
拒絶査定不服審判は、出願人が審査官による拒絶査定に不服がある場合に、拒絶査定の当否を審判官合議体に審理させることをいいます。
審査官の判断に過誤がないとは必ずしも言い切れないためです。
審査においてなされた手続は審判においても効力を有します(審査と審理は継続性を有します)。
審査段階では審査官1人で審査されますが(特許庁内の上司の決済あり)、審判段階では複数(一般的には3人)の審判官合議体によって裁判類似の手続を経て審理(拒絶査定不服審判は、原則として、書面審理)されます。その意味において審査よりも慎重に登録可否の判断がなされることが期待されます。
新規性、創作非容易性の審理にあたっては、出願された意匠と拒絶の根拠として引用された意匠又はモチーフとの対比について、意匠の属する分野の実情を勘案しつつ、より分析的な検討がなされます。
審判で結論が出るまでに1年~2年かかる場合もあります。
Q14:「意匠登録OKのときの請求成立審決(登録審決)とは?」
請求成立審決(登録審決)は、拒絶査定不服審判の審理の結果、出願された意匠は拒絶理由を発見しないので意匠登録できるとする審判官合議体による行政処分です。
「審決(請求成立)」というタイトルが付いた書面が出されます。
審決には、意匠権の設定登録のための注意書きとして、「この書面を受け取った日から30日以内に登録料の納付が必要です。」と記載されています。
請求成立審決(登録審決)を受けても登録料を納付しなければ意匠権は発生しませんので、ご注意ください。詳しくは、≪意匠権成立段階≫で説明します。
Q15:「意匠登録OKでないときの請求不成立審決(拒絶審決)とは?」
請求不成立審決(拒絶審決)は、拒絶査定不服審判の審理の結果、出願された意匠は拒絶理由があるので意匠登録できないとする審判官合議体による行政処分です。
「審決(請求不成立)」というタイトルが付いた書面が出されます。
審判官合議体は、請求不成立審決(拒絶審決)をしようとする場合であって、審査段階とは異なる新たな拒絶理由を発見したときには、先立って、出願人に対し、拒絶理由を明示した拒絶理由通知を出します。
出願人に意見書(反論)の機会を与えた上、なお拒絶理由が解消しない場合には請求不成立審決(拒絶審決)を出します。
Q16:「請求不成立審決(拒絶審決)に不服がある場合は?」
出願人は、請求不成立審決(拒絶審決)に不服がある場合、特許庁での手続を離れて、東京高等裁判所(知財高裁)に審決取消訴訟を提起することができます。
拒絶査定不服審判を含む審判における審決に対する訴えは、知財高裁の専属管轄となっています。
審判は厳格な裁判類似の手続によって技術的専門性の審理が行われることを考慮して、地方裁判所での第一審は省略されています。
Q17:「早期審査・早期審理制度とは?」
年間、意匠登録出願の件数は約3万件強となっており、これを分野別に割り振って出願順に実体審査を行っても、実体審査に着手されるまでに待ち時間が発生します。
分野別や年によってバラツキがありますが、出願から平均して約6か月で実体審査に着手されるのが実情です(特許庁HPに分野別の「意匠審査スケジュール」が公表されています)。
そこで、特許庁は、審査の促進の方策の一環として、一定の要件を満たす場合、出願人からの申請を受けて審査・審理を通常に比べて早く行う早期審査・早期審理制度を運用しています。
早期審査の対象にされた場合には、実体審査の順序が繰り上がり、早期審査の申請から着手までの待ち時間が平均約2か月以下となります。
早期審理の対象にされた場合には、早期審理の申請後に審理可能となってから審決までの時間が平均約4か月以下となっています。
Q17a:「どうすれば早期審査・早期審理制度を利用できますか?」
早期審査・早期審理制度を利用したい方は、「早期審査・早期審理に関する事情説明書」に次の対象のいずれかに該当していることを記載し、そのことを証明する書類を添付して提出します。
提出時期は、出願と同時以降ならいつでもかまいません。
制度の利用にあたって特許庁手数料は無料ですが、代理人に「事情説明書」の作成・提出を依頼した場合は代理人手数料が発生します。
なお、当面、意匠の類型のうち、建築物及び画像に係る意匠並びに内装に係る意匠は、対象外となっています。
<権利化について緊急性を要する実施関連出願>
・出願人自身又は出願人からその出願の意匠について実施許諾を受けた者(ライセンシー)が、その出願の意匠を実施しているか又は実施の準備を相当程度進めている意匠登録出願であって、以下のいずれかに該当し、権利化について緊急性を要するものであること。
i)第三者が許諾なく、その出願の意匠若しくはその出願の意匠に類似する意匠を実施しているか又は実施の準備を相当程度進めていることが明らかな場合
ii)その出願の意匠の実施行為(実施準備行為)について、第三者から警告を受けている場合
iii)その出願の意匠について、第三者から実施許諾を求められている場合
<外国関連出願>
・出願人がその出願の意匠について日本国特許庁以外の特許庁又は政府間機関へも出願している意匠登録出願であること。
≪意匠権成立段階≫
Q18:「意匠権の成立はいつ?」
特許庁長官は、第1年の1年分の登録料の納付があると、意匠原簿(不動産登記簿に類するもの)に意匠権の設定登録をし、その登録の時に意匠権が発生します。
納付は登録査定又は請求成立審決(登録審決)が出願人に送り届けられた日(送達日)から30日以内です。
登録料が納付されない場合は、意匠登録出願は却下されることがあります。
利害関係人(ライセンシーなど)は出願人の意に反しても登録料を納付し、その費用の償還を出願人に請求できます。
設定登録によって、出願番号とは別に、意匠登録番号(意匠登録第xxxxxxx号)が付与されます。
Q18a:「登録料の金額は?」
登録料は、現在のところ以下の金額に設定されています。
時間の経過に応じて意匠権の経済的価値を勘案して意匠権を維持するかどうかを判断するよう、存続期間を2段階に分けて傾斜設定されています。
・第1年-第3年までの各年:8,500円
・第4年-第25年までの各年:16,900円
Q18b:「登録料の減免制度は?」
意匠権の登録料には、減免制度の提供はありません。
Q18c:「意匠権の存続期間とは?」
意匠権(関連意匠の意匠権を除く)の存続期間は、設定登録日に始まり、出願日から25年の満了日をもって終了します。
出願日から満25年という意味ではありませんので、ご注意ください。
存続期間は、第2年以降の登録料を前年以前に納付して維持することになります。第2年以降の登録料は、1年分ごとでも複数年分をまとめてでも納付できます。
意匠権者は、第2年以降の登録料を納付しないことにより、意匠権を消滅させることができます。
意匠権が消滅しますとその登録意匠及び類似する意匠は誰でも自由に実施できることとなります。
意匠権者であった者でも同一又は類似する意匠について再度登録を受けることはできません。
利害関係人(ライセンシーなど)は意匠権者の意に反しても登録料を納付し、その費用の償還を意匠権者に請求できますので、ご注意ください。
なお、関連意匠の意匠権の存続期間は、設定登録日に始まり、基礎意匠の出願日から25年の満了日をもって終了します。
Q18d:「意匠権の存続期間は延長できますか?」
意匠権の存続期間は、特許権とは異なり、延長できません。
Q19:「意匠公報とは?」
特許庁長官は、意匠権を設定登録すると、審査・審判を通じて確定した意匠権の内容を意匠公報に掲載し、公衆に向けて公表(公示)します。
意匠登録制度では出願公開はありませんので、出願時の、又は、実体審査を通して補正をした場合は補正後の願書の記載、図面等が掲載されることになります。
秘密意匠の場合は、秘密を請求した期間の経過後に意匠公報が発行されます。
Q20:「意匠登録証とは?」
特許庁長官は、意匠権を設定登録すると、意匠権者に対し、意匠登録証を交付します。
意匠登録証は、意匠権を取得したことの名誉を表徴する「証(あかし)」として交付されるものです。
権利の取得や喪失を示す権利書や効力の証明書となるものではありません。例えば、意匠登録証を譲渡したからといって、意匠権が「譲渡」される訳ではありません。
Q20a:「意匠権は譲渡(売買)できますか?」
意匠権は、財産権として、譲渡(売買)できます。
ただし、当事者同士で譲渡の合意をしただけでは、譲渡の効力は発生しません。
意匠権は無形の財産権であるため、譲渡を含めて権利の移転(相続や会社合併による一般承継を除く)については、当事者の合意が成立していることを前提として、意匠原簿に登録することによって初めて効力が発生します。
譲渡による移転の場合には、「意匠権移転登録申請書」に当事者間の「譲渡証書」を添付して登録申請をします。
なお、一般承継の場合には、登録してなくても移転の効力が発生しますが、特許庁に遅滞なく届け出なければならないことになっています。
意匠権の設定、移転などに関する権利関係情報は、特許庁に備えられている意匠原簿によって公示されます(ただし、不動産登記簿と同様に公信力はありません)。
なお、関連意匠の意匠権については、基礎意匠の意匠権と分離して移転したり、基礎意匠の意匠権の消滅後に関連意匠の意匠権同士を分離して移転したりすることはできません。
Q21:「意匠権の効力とは?」
意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を専有します。
ただし、後述します「専用実施権」を設定したときには、その設定行為(契約)の範囲内では実施する権利を有しません。
意匠権で重要な点は、文言で表現された特許発明や登録実用新案の同一性の範囲が一定の幅を有するのに対し、図面等で表現された登録意匠の同一性の範囲は小さい幅に止まるため、意匠権の効力の実効性の観点から、類似する意匠まで権利に含められている点です。
類似する意匠の範囲がどこまでの広がりをもつかは、関連意匠を除き、事後的に明らかにされていくことになります。
字句のそれぞれの意味合いは次のとおりです。
・「業として」:個人的又は家庭的な実施以外の実施を指します。逆に言いますと、意匠権の効力は、個人的家庭的な実施には及びません。
・「専有する」:独占的に保有するという意味であり(積極的効力・独占的効力・独占権)、とりもなおさず、独占を害する他人の行為を排除できることも意味します(消極的効力・排他的効力・排他権)。
Q21a:「意匠権の効力が及ばない範囲とは?」
意匠権は非常に強力な権利なので、場合によっては弊害が生じることがあります。
このため、産業政策的な見地あるいは公益的な見地から、消極的効力である排他権の部分について制限を設けています。
以下のものには、業として行われていても、意匠権の効力は及びません。
・試験又は研究のためにする登録意匠及び類似する意匠の実施(新しい意匠創作への契機となるため)
・単に日本国内を通過するに過ぎない船舶、航空機又はこれらに使用する機械、器具、装置その他の物(国際交通機関の円滑な運航を図るため)
・意匠登録出願の時から日本国内にある物(出願時に秘密裡に存在していた物)
Q21b:「登録意匠及び類似する意匠の範囲とは?」
登録意匠の範囲は、願書の記載及び添付した図面等に基づいて定められます。
登録意匠と他の意匠が類似しているかどうかは、需要者(一般需要者、取引者)の視覚を通じた美感に基づいて判断されます。
意匠権を侵害しているかどうかの判断は、侵害が疑われる対象物の意匠が登録意匠及び類似する意匠の範囲に属しているか属していないかで判断されることになります。
ところで、出願から審査を経て登録される登録意匠は、あくまで一つの意匠です。類似する意匠は、関連意匠の場合を除いて、出願も審査も登録もされていません。
一方で、意匠権は、前述のとおり、登録意匠と類似する意匠の双方に及びます。
そして、この類似する意匠の範囲は、登録意匠を中心点として、意匠権の設定登録後に、対象物の意匠が登録意匠及び類似する意匠の範囲に属しているかどうかの検討により、事後的かつ個別具体的に判断されていくことになります。
このような事情から、意匠権については、登録意匠の同一性の範囲が狭いこと、類似する意匠の範囲は事後的に決まっていくことなどから、使い勝手が悪いと考えている方もいます。
しかし、取引界の実情に触れますと、同じ物品で数多くの登録意匠が存在している分野(例えば、自動車のタイヤホイール)では、意匠権が非常に混み合った状況になっており、登録意匠同士が少しの差異で登録される傾向にあります。その一方で、それぞれの類似する意匠の範囲は狭く判断されるという状況にあります。
逆に、これまであまり意匠権が設定されていないような分野では、登録意匠同士は大きな差異が求められるとともに、類似する意匠の範囲は広く認められやすくなります。
このように意匠権のカバーする範囲は、分野ごとの取引の実情に大きく影響を受けます。
Q21c:「登録意匠及び類似する意匠の範囲の判定とは?」
登録意匠及び類似する意匠の範囲の判定とは、侵害が疑われる対象物がその範囲に属しているかどうかについて、特許庁の審判官合議体が見解を示すことをいいます。
この見解は行政処分ではなく一種の鑑定ですが、専門官庁である特許庁の公式見解であり、裁判所における裁判官の心証形成に資するものとして大きな意義を有しています。
「対象物が登録意匠及び類似する意匠の範囲に属する」という結論を求める積極的判定と、「対象物が登録意匠及び類似する意匠の範囲に属しない」という結論を求める消極的判定の双方があります。
自分の意匠権について、自分の実施する対象物が登録意匠及び類似する意匠の範囲に属するかどうかの判定を求める自問自答の判定の請求も可能です。
現在のところ、判定手数料は「40,000円」です(減免制度はありません)。
Q22:「ライセンスの設定、許諾とは?」
意匠権者は、他人に、ライセンスとして、「専用実施権」を設定したり、「通常実施権」を許諾したりすることができます。
意匠権者は「ライセンサー」、専用実施権者は「エクスクルーシブ・ライセンシー」、通常実施権者は「ノンエクスクルーシブ・ライセンシー」ということになります。
Q22a「専用実施権とは?」
専用実施権者は、意匠権者との間で定めた設定行為(契約)に範囲内において、業として登録意匠及び類似する意匠の実施をする権利を専有します。
その設定行為の範囲内においては、意匠権者であっても実施する権利はありません。この意味において、専用実施権は、意匠権と同様の独占的効力と排他的効力を有することから、特許庁の意匠原簿に設定登録しないと成立しません。
当事者同士の契約だけでは成立しませんので、ご注意ください。
専用実施権者は、意匠権者の承諾を得た場合は、他人に通常実施権を許諾することができます。
Q22b:「通常実施権とは?」
通常実施権者は、意匠権者との間で定めた設定行為(契約)に範囲内において、業として登録意匠及び類似する意匠の実施をする権利を有します。
通常実施権者は実施する権利を専有しませんので、意匠権者、専用実施権者、他の通常実施権者は設定行為と重なる範囲でも実施できることになります。
逆の言い方をしますと、通常実施権は、独占的効力と排他的効力はなく、業として実施しても意匠権者や専用実施権者から権利行使を受けない権利ということができます。
なお、通常実施権は、意匠権者又は専用実施権者の許諾以外にも、法律によって、公正の観点から他人に付与されることがあります。
法律によって生じた通常実施権も意匠権者や専用実施権者から権利行使を受けません。
Q23:「意匠権等が侵害されたときの対応は?」
意匠権又は専用実施権を侵害されていると認識したときは、意匠権者又は専用実施権者は、まず、相手方の実施状況を十分確認し、登録意匠及び類似する意匠の範囲内で実施しているかどうかを検討します。
その蓋然性が高いと判断されたときは、警告書(タイトルは「伺い書」でも何でもOK。秘密意匠の場合には、図面等を記載した特許庁長官の証明書を提示して警告しなければなりません。)を送り、相手方の認識を確認します。
意匠権又は専用実施権を侵害した者には過失があったと推定されます。
その後,相手方の反応次第で、「差止請求」や「損害賠償請求」を検討します。
新聞、業界誌、テレビ、ネット上の広告など、あらかじめ証拠を集めておくことも重要です。
Q23a:「差止請求とは?」
意匠権者又は専用実施権者は、自己の意匠権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、侵害の停止又は予防を請求することができます。
これを、差止請求権といいます。
侵害行為には、記載した直接侵害のほかに、予備的な行為や幇助的な行為などの間接侵害も含まれます。
差止請求には、侵害者又は侵害するおそれがある者に侵害の故意や過失があったかどうかは関係ありません。
なお、差止請求とともに、侵害行為を組成した物の廃棄、侵害行為に供した設備の除却、侵害の予防に必要な行為(例えば、担保の提供)の請求もできます。
Q23b:「損害賠償請求とは?」
民法上の不法行為として、意匠権又は専用実施権が故意又は過失によって侵害された場合には、生じた損害の賠償を請求することができます。
一般には侵害者に故意又は過失があったかどうかは権利者の側に立証責任がありますが、意匠法では、侵害者に過失があったものと推定されます(ただし、秘密意匠については、過失推定されません)。
また、損害賠償請求にあたり、意匠権者又は専用実施権者の立証負担の軽減を図るため、損害額の算定方式を規定しています。
さらに、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、業務上の信用を回復するために必要な措置(新聞紙上への謝罪広告など)を請求することもできます。
Q23c:「刑事罰は?」
侵害が故意かつ既遂の場合、侵害者に刑事罰が与えられることがあります。
親告罪ではありませんので、意匠権者が告訴しなくても適用があります。
例えば、法人が故意に侵害すれば、直接的に侵害をした行為者が10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれらを併科に処せられるとともに、法人には3億円以下の罰金刑が科せられます。
Q24:「意匠権は取り消されたり無効とされたりすることがある?」
意匠権は、「意匠登録無効審判」によって無効とされることがあります。
ただし、特許権に対する「特許異議申立て」や商標権に対する「登録異議申立て」のような異議申立てによって取り消される制度は採用されていません。
Q24a:「意匠登録無効審判とは?」
意匠登録無効審判とは、意匠権消滅後を含めて、第三者が審判を請求して意匠登録を無効にしようとするものです。
審査又は拒絶査定不服審判における審理において拒絶理由がないとされた認定に過誤があった場合や、登録後に意匠登録を維持することが不適当となる場合です。
原則として誰でも意匠登録無効審判を請求できますが、実際は、権利侵害をしているとして意匠権者が相手方に意匠権を行使した場合に、相手方が無効理由を発見し(多くの場合、新規性や創作非容易性を否定できる公知の文献を新たに見つけ出すことです)、請求することがほとんどです。
意匠登録を受ける権利に関する請求については、意匠登録を受ける権利を有する者に限り請求できます。
審理は審判官合議体の進行指揮下で審判請求人と被請求人(意匠権者)との間で裁判類似の当事者対抗手続によって進行し、無効理由があるときは請求成立審決(無効審決)、無効理由がないときは請求不成立審決(登録維持審決)がなされます。
請求成立審決(無効審決)が確定しますと、意匠権は初めから存在しなかったものとみなされます(登録後の後発的理由の場合は、該当するに至った時から存在しなかったものとみなされます)。
無効理由は、意匠登録要件違反(審査段階の拒絶理由)とほぼ同じですが、形式的瑕疵に係る要件(一意匠一出願要件、組物の意匠要件、内装の意匠要件、関連意匠/本意匠要件)が除外されるとともに、意匠権成立後の後発的理由(外国人の権利享有要件違反、条約適合要件違反)が追加されています。
現在のところ、審判請求料は55,000円です(減免制度はありません)。
Q24b:「登録意匠を訂正できますか?」
登録意匠を訂正すること(一部でも変更すること)はできません。一度成立した意匠権の内容を成立後に変更することは、法的安定性から、行われるべきではないからです。
この点、特許権や実用新案権では、権利の成立後に厳格な条件下で明細書等を訂正することが認められています。
これらの権利は文言で表現された特許請求の範囲又は実用新案登録請求の範囲が根拠とされ、特許発明又は登録実用新案の技術的範囲は本来的にある広がり(外縁)をもっており、訂正は、その広がりを狭める方向にのみ認められています。
これに対し、意匠権では、登録意匠の範囲はそもそも極めて狭く、概念として捉える場合には「点」であり、その登録意匠を中心点として、事後的に類似する意匠の範囲が形成されていきます。そうしますと、登録意匠を訂正すなわち登録意匠に何らかの変更を加えた場合、中心点が移動してしまい、類似する意匠の範囲もずれていきます。
これでは、第三者の実施品が意匠権に抵触するのかしないのかの判断が不安定となり、事業活動に支障を来します。このようなことから、登録意匠の訂正はできないことになります。
意匠権者は、登録意匠とは異なる意匠を実施しようとする場合には、特許庁の「判定」制度を利用してその異なる意匠が登録意匠又は類似する意匠に属するかどうかを確認したり、その異なる意匠を「関連意匠」として権利化するかどうかを検討したりすることが望まれます。
Q24c:「意匠権は一定期間実施しないと取り消されますか?」
商標権とは異なり、意匠権、特許権、実用新案権には、登録意匠又は類似する意匠、特許発明、登録実用新案を実施しなくても、不実施を理由に取り消す取消審判の制度はありません。
≪外国での意匠権≫
Q25:「意匠権の効力の地域的範囲は?」
日本の意匠権の効力が及ぶ地域的範囲は、日本国内に限られます。
これは国家主権の問題であり、原則として、日本に限らず各国とも自国内のみ(又は政府間機関加盟国内のみ)で効力があります。
外国で意匠権を取得するためには、日本での意匠登録出願とは別にそれぞれの国へ手続をします。
各国で成立した意匠権は、他の国で成立した意匠権とは独立していることになります。
Q26:「外国で意匠権を取得するには?」
外国へ意匠登録出願するには主に以下の2通りの手続のルートがあります。
・各国へ個別に出願するルート(「工業所有権の保護に関するパリ条約」に基づく手続で、実務上、「パリ・ルート」といいます)
・複数の国々へまとめて出願するルート(「意匠の国際登録に関するハーグ協定のジュネーブ改正協定<略して、ジュネーブ改正協定」に基づく手続で、実務上、「国際登録出願」といいます)
Q26a:「パリ・ルートとは?」
パリ・ルートにおいては、日本での意匠登録出願を基礎として、その出願日から6か月以内に、例えば、外国A、外国B、外国Cにそれぞれの国の言語に翻訳した出願書類をもってそれぞれに意匠登録出願すると、外国A、外国B、外国Cでの意匠登録要件が日本での出願日を基準として審査されます。これを「優先権」といい、外国A、外国B、外国Cそれぞれに意匠登録出願を行う際に優先権を主張します(日本の意匠登録出願の出願日及び出願番号等を提示します)。
「パリ条約」では、先願優位の原則が貫徹される意匠登録制度において、同じ意匠を外国に出願したい出願人に6か月間のアドバンテージを「優先権」という形で与えることにしたものです。
母国での意匠登録出願と同じタイミングで各国の言語の出願書類の翻訳を用意しなければならないとすると出願人の負担が大きく、また、せっかく意匠を創作しているのに意匠登録出願が遅くなってしまうためです。
Q26b:「国際登録出願とは?」
国際登録出願とは、意匠の国際登録に関するジュネーブ改正協定に基づいて、同協定の締約国である72国・政府間機関(2020年7月現在)であれば、1本の国際登録出願で複数の国々へ出願手続ができるというものです。
主な手続の流れは以下のようになります。
パリ条約の優先権を主張することも可能です。
国際登録出願という形で出願手続は一本化されていますが、国際意匠登録という1つの意匠権が成立するわけではありませんので、ご注意ください。
意匠権は、国又は政府機関ごとに成立します。なお、国際登録出願では、1出願に複数の意匠を含めることができます。詳しくはお問い合わせください。
・英語で作成した願書に意匠登録を希望する締約国又は政府間機関を指定
↓
・日本特許庁を経由して又は直接にWIPO(世界知的所有権機関)国際事務局に願書及び図面等を提出
↓
・国際事務局が国際登録をし、国際登録日を国際出願日と認定
↓
・国際事務局は指定締約国又は政府間機関に出願の内容を通報
↓
・指定締約国又は政府間機関は拒絶理由があれば国際事務局に通報(拒絶理由が無ければ、高い手数料の現地代理人を使うことを避けられます。)
↓
・国際事務局は、拒絶理由を出願人又は代理人に通報
↓
・以降、指定締約国又は政府間機関別に手続が進行
↓
・最終的に、指定締約国又は政府間機関ごとに意匠登録可否決定
≪その他≫
Q30:「組立家屋の意匠権の効力は住宅の意匠に及ぶか?」
建築物のデザインについて意匠出願が可能となったことにより、すでに登録している組立家屋の意匠権との関係が問題となります。
意匠審査基準によると、建築物である「住宅」と物品である「組立家屋」とは、用途機能が類似するとされています。
したがって、両意匠は類似する関係にありますので、組立家屋の意匠権の効力は住宅の意匠に及びます。
このことから、組立家屋の意匠権を有していて、その出願から10年を経過していなければ、組立家屋の登録意匠を本意匠とし、住宅の意匠を関連意匠として出願することも考えられます。