皆さん、こんにちは!
自社のサービス名やロゴを守る「商標登録」。いざ出願してみたら、特許庁から「ちょっと待った!」とストップがかかることがあります。その理由で多いのが、「既に登録されている他の商標と似ていますよ」というもの。
「いやいや、名前も見た目も違うのに?」と思うかもしれませんが、実は商標が似ているかどうかの判断は、名前やロゴだけでなく、その商標を使う「商品」や「サービス」が似ているかどうかも、とても重要なポイントなのです。
今回は、この「商品の類似性」が大きな争点となり、一度は「ノー」と判断されながらも、見事逆転で登録が認められた、非常に興味深い事例(不服2024-10490)をご紹介します。
「待った!」がかかった商標出願
ある企業が、「sense」という文字とオレンジ色の図形を組み合わせたロゴを、自社が開発する**「スマートフォン用のアプリケーション」**について出願しました。このアプリは、電気システムの状態やエネルギー使用量を管理するためのものです。
ところが、特許庁の審査官から「登録できません」という拒絶査定が届いてしまいました。 その理由は、既に**「マウスパッド」**を指定商品として、「SENSE」という文字の商標が登録されていたから、というものでした。
審査官は、「スマホアプリ」と「マウスパッド」は類似する商品だと判断したのです。
「え!?スマホアプリとマウスパッドって、全然違うものじゃない?」
きっと多くの方が、そう思われるのではないでしょうか。
なぜ「類似する」と判断されたのか?
もちろん、審査官もやみくもに判断したわけではありません。拒絶査定の理由を見てみると、次のような点が指摘されていました。 7
- どちらもPC・スマホ関連のグッズとして、同じ会社が販売していることがある。
- どちらも「電気の作用を持つ機械」に使うもので、用途に共通点がある。
- マウスパッドを買う人も、スマホアプリを使う人も、コンピューターを使う人という点で共通している。
なるほど、広い意味での「IT関連商品」という括りで見ると、たしかに共通点があるかもしれません。このように、審査では「類似する」と判断されてしまったのです。
「やっぱり違う商品だ!」不服審判での逆転劇
しかし、出願人に依頼された弊事務所はこの判断を不服として、「その判断は再検討してください!」と特許庁に審判を請求しました。そして、より慎重に商品を比較検討する審判の場で、最初の判断が覆ることになります。
審決では、以下のポイントから「スマホアプリ」と「マウスパッド」は類似しないと結論付けられました。
比較ポイント | スマートフォン用のアプリケーション | マウスパッド |
作り方(生産部門) | 技術者がコンピューターで設計・開発する | 工場などで物理的に製造される |
売り方(販売部門) | 主にスマホ上でダウンロードして販売される | 主に家電量販店やECサイトで販売される |
使い道(用途) | スマホに特定の機能(エネルギー管理など)を実行させる | マウスの滑りを良くし、動作性を向上させる |
使う人(需要者) | 共通する部分もあるが、そもそもスマホはマウスを使わない上、アプリの用途も専門的なので、共通性は限定的 | |
完成品と部品? | 完成品と部品のような関係にはない |
このように、商品の作り方から売り方、具体的な使い道まで丁寧に見比べていくと、「両者はまったく異なる商品であり、消費者が『同じ会社の製品かな?』と間違うことはないでしょう」という結論に至ったのです。
その結果、最初の拒絶査定は取り消され、本件商標は無事に登録されることになりました。
まとめ
この事例は、商標登録における「商品・サービスの類似性」の判断が、いかに具体的かつ多角的に行われるかを示しています。一見すると「これはもうダメかもしれない…」と感じるような拒絶理由であっても、専門的な視点から商品の実情を丁寧に主張することで、結果を覆せる可能性があるのです。
もしご自身の商標出願で思わぬ「待った!」がかかってしまった場合も、決して諦めずに、ぜひ一度私たち専門家にご相談ください。あなたのビジネスと大切なブランドを守るために、最適な道筋を一緒に探っていきましょう。