実用Q&A

Q

≪準備段階≫
Q1.考案とは?
Q2.出願前調査とは?
Q3.実用新案登録出願書類とは?

≪出願段階≫
Q4.出願手続とは?
Q5.方式審査とは?
Q6.基礎的要件審査とは?

≪実用新案登録要件≫
Q7.狭義の実用新案登録要件とは?
Q8.広義の実用新案登録要件とは?

≪実用新案技術評価≫
Q9.実用新案技術評価とは?

≪実用新案権成立段階≫
Q10.実用新案権の成立はいつ?
Q11.実用新案登録掲載公報とは?
Q12.実用新案登録証とは?
Q13.実用新案権の効力とは?
Q14.ライセンスの設定、許諾とは?
Q15.実用新案権等が侵害されたときの対応は?
Q16.実用新案権は取り消されたり無効とされたりすることがある?

≪外国での実用新案権≫
Q17.実用新案権の効力の地域的範囲は?
Q18.外国で実用新案権を取得するには?

≪準備段階≫

Q1:「考案とは?」
考案(ユーティリティ・モデル)とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作」をいいます。

ここで、個々の意味合いは、次のとおりです。

・自然法則の利用:「自然法則自体」、「自然法則に反するもの」、「自然法則を利用したものとはいえないもの」ではないことをいいます。
3つ目の類型には、例えば、「経済法則、人為的取決め、数学上の公式など」があります。

・技術的思想:「技術についてのまとまりある考え(技術的アイデア)」をいいます。
例えば、装置の試作品自体は考案ではなく、その試作品に具現化されているところの技術的アイデアが考案です。
技術について思考によって体系的にまとまった考えですので、単なる思い付きや空想は該当しません。

・創作:「新しいものをつくり出すこと」をいいます。
ここでいう「新しさ」は考案完成時の主観的なもので足りますが、後ほど説明しますように、実用新案登録要件としては客観的な「新規性」が求められます。

・なお、実用新案登録の対象である考案には「高度のもの」という定義はありません。

Q1a:「考案の完成とは?」
実用新案登録法で取り扱われる考案は、完成されていなければなりません。
技術的思想ですので、必ずしも試作品などの実施品が製作されている必要はありません(もちろん製作されていても一向にかまいません)。
しかし、思想としては論理的に完結している必要があります。

Q1b:「考案の類型とは?」
考案は、以下のような類型に限られます。

<物品の考案>
・実用新案登録制度における保護対象である考案は、物品の形状、構造又は組合せに係る考案に限られます。

なお、実用新案登録制度における「物品」は意匠登録制度の「意匠に係る物品」よりも広い概念で、例えば建築物を含みます。
一方、特許制度の発明に係る「物」よりも狭い概念であり、「物品」に化学物質などは含みません。
また、特許制度が「方法の発明」を対象として含むのに対し、実用新案登録制度では、「方法の考案」は対象となりません。

Q1c:「考案者とは?」
考案者とは、現実に「考案をした者」をいいます。
考案そのものは、法律行為ではなく社会的事実行為であるため、考案者は考案を完成するプロセス(着想から完成まで)に直接参加した者に限られます。
出願手続を遂行する「出願人」が法律行為を行うにあたって「(出願人の)代理人」を立てることができるのに対し、「考案者」は「(考案者の)代理人」を立てることは原理的にできません。
また、「出願人」は自然人でも法人でもかまいませんが、「考案者」は自然人に限られます。

Q1d:「考案の実施とは?」
考案の実施とは、次のような行為をいいます。

<物品の考案>
・その物品の生産、使用、譲渡、貸渡し、輸出、輸入、譲渡又は貸渡しの申出(展示を含む)

Q2:「出願前調査とは?」
出願前調査とは、考案を完成するにあたって、また、次に説明する実用新案登録出願書類を作成するにあたって、出願しようとする考案について、既に第三者が似たような考案を出願していないかどうかを調査することをいいます。

考案を完成する過程においては、調査結果をフィードバックして、考案を完成していく作業に反映させます。
実用新案登録出願書類を作成する過程においては、調査結果を利用して、実用新案登録出願書類の「明細書」のうち「背景技術」の説明に反映させます。

調査にあたっては、特許庁が無料で提供するデータベース(「J-platpat」という名称の実用新案登録情報プラットフォームのことで,独立行政法人工業所有権情報・研修館が運営)を活用することができます。

Q3:「実用新案登録出願書類とは?」
実用新案登録出願書類は、「願書」に、「明細書」、「実用新案登録請求の範囲」、「要約書」、「図面」を添付して構成されます。各書類の内容は、以下のとおりです。

<願書>
・実用新案登録を受ようとする意思を示す「実用新案登録願」という名の書類です。
「出願人」情報、「考案者」情報、代理人を立てた場合は「代理人」情報、「出願手数料」、「登録料」などを記載します。

<明細書>
・考案の解説書となる書類で、「考案の名称」、「図面の簡単な説明」、「考案の詳細な説明」を記載します。

<実用新案登録請求の範囲>
・実用新案権によって権利化したい内容をまとめた書類で、「請求項」というまとまりごとに、実用新案登録を受けようとする考案を特定する事項のすべてを記載します。

<要約書>
・第三者の調査(サーチ)などに役立てるための書類で、考案の概要を文字数制限の範囲内で記載します。

<図面>
・考案の内容を図示した書類で、考案の理解を助けるために外観図や断面図などを記載します。
特許出願書類とは異なり、図面は必須となります(「必要な図面」ではありません)。

Q3a:「明細書は具体的にどのように書きますか?」
明細書は考案の解説書の役割を果たす書類であり、具体的には、原則として以下のような目次によって記載することになっています。

・考案の名称:考案の主題を記載します。
例えば、マスクに関する考案であれば、「マスク」と記載します。

・技術分野:考案の主題に対応する技術分野を記載します。
「マスクに関する」としてもいいですし、「マスク、特に夏場に使用するマスク」などとしてもかまいません。

・背景技術:当該技術分野における既存の技術の紹介をするとともに、その抱えている問題点を述べます。

・先行技術文献:背景技術で述べた既存の技術を記載した文献名称を記載します(通常、過去の特許文献(実用新案文献を含む)の番号を引用します)。

・考案の概要:「考案が解決しようとする課題」、「課題を解決するための手段」、「考案の効果」を簡潔に記載します。
「課題を解決するための手段」は「実用新案登録請求の範囲」に実質的に対応します。

・図面の簡単な説明:添付した各図が何を現しているのかを簡潔に記載します。

・考案を実施するための形態:略して「実施形態」といいますが、考案の解説書の本論となる部分として、考案を具現化した形態を記載します。
考案は技術的思想という抽象的概念ですが、ここでは、具現化された実施形態について、図面や、技術分野によっては実験結果などを参照しながら、詳しく説明します。
実施形態を構成する要素(部材、部位など)には、図面と対照できるように符号(番号、アルファベット)を付します。
実施形態は、実用新案登録請求の範囲に記載した実用新案登録を受けようとする考案の具体的な裏付けとなる(サポートする)ものです。

Q3b:「実用新案登録請求の範囲は具体的にどのように書きますか?」
実用新案登録請求の範囲は、実用新案登録を受けようとする考案の一つのまとまりを現す単位である「請求項」(英語でクレームといいます)ごとに記載する書類です。
ここに記載された内容について、請求項ごとに実用新案登録要件が判断されることになります。
請求項の数に制限はありませんが、例えば、実用新案登録請求の範囲は、次のように記載します。

請求項1:Aと、Aとある関係のBと、Bとある関係のCと、を備えるX。

請求項2:BがB1である請求項1に記載のX。

請求項3:さらに、Cとある関係のDを備える請求項1又は2に記載のX。

・ここで、「X」は考案の主題(例えば、マスク)、「A,B,C,D」はそれぞれに属性を有する、Xの構成要素を示します。
「ある関係」とは、位置関係・配置関係・機能関係などをいいます。
「B/B1」の関係は「上位概念/下位概念」といいます。
例えば、「弾性体/ゴム」や「弾性体/バネ」のような関係です。

・「を備える」とは、XはAとBとCとだけから構成されているという意味ではなく、Xは少なくともAとBとCとを含んで構成されているという意味を現す言葉です。

・請求項の記載方式から、請求項1を独立項(他の請求項から独立している形式)、請求項2及び3を従属項(他の請求項に従属している形式)といいます。
内容面から、従属項は、2つに区分されます。
請求項2のようにある要素を上位概念Bから下位概念B1に限定する限定的減縮、請求項3のように新たな要素Dを付加する付加的減縮です。

・この例では、請求項1の「AとBとCとを備えるX」で実用新案登録を得られた場合、BがB1、B2、…であろうとなかろうと、Cを備えていようといまいと、実用新案権の範囲内となります。

・一方、請求項1が拒絶されて請求項2の「AとB1とCとを備えるX」で実用新案登録を得られた場合には、BがB1以外のB2、B3、…であるXは実用新案権の範囲外となります。
また、請求項3の「AとBとCとDとを備えるX」で実用新案登録を得られた場合には、Dを備えないXは実用新案権の範囲外となります。

Q3c:「要約書は具体的にどのように書きますか?」
要約書は出願内容の要約ということで、「(考案が解決しようとする)課題」、「(課題を解決するための)解決手段」、「選択図(代表図)」を記載します。
特許庁は、実用新案公報を発行する際に、これらの考案情報を出願人や考案者などの書誌情報とともにフロントページに掲載し、第三者による調査(サーチ)の便に供します。

Q3d:「図面は具体的にどのように書きますか?」
図面は必ずしも設計図などの詳細な図面である必要はなく、概念図や模式図でもかまいません。
ただし、明細書や実用新案登録請求の範囲に記載されている事項がはっきりと分かる程度に図に現わされていることが必要です。
図面には、明細書に記載されている実施形態を構成する要素(部材、部位など)と対照が取れるように、引出線を使って符号(番号、アルファベット)を付します。

なお、実用新案登録出願は意匠登録出願に変更することができますが、その可能性が見込まれる場合には、同一縮尺の六面図も併せて作成し添付しておくことが望まれます。

Q3e:「実用新案登録出願書類は自分で作成できますか?」
法制度上は、考案者や出願人がご自分で実用新案登録出願書類を作成することに何ら問題ありません。
しかし、別に説明しましたように、実際に作成することはなかなか難しい作業になります。
といいますのも、考案は社会的事実行為ですが、考案を落とし込んだ実用新案登録出願書類は優れて法律文書であるためです。
記載内容は、技術に裏付けられることを前提として、法律の面から審査に付されます。
そうしますと、書類の作成にあたっては、ご自分の専門である技術以外に、実用新案法、実用新案法施行令、実用新案法施行規則、特許庁審査基準、審決例、判例、実務上の慣行などを把握した上での作業が求められるため、一般の方には非常に負担の大きい作業となります。
代理人としての弁理士はこれらに習熟した専門家です。費用はかかりますが、弁理士に実用新案登録出願書類の作成を依頼されることをお勧めします。

≪出願段階≫

Q4:「出願手続とは?」
出願手続として、特許庁へ「出願手数料」及び「登録料」を添えて実用新案登録出願書類を提出します。
提出方法としては、電子データ化した書類を電子出願(インターネット回線を利用したオンライン手続)できるほか、書面(紙ベース)の書類を郵送提出又は窓口提出することもできます。
ただし、書面(紙ベース)で提出したときには、出願手数料とは別に、電子化手数料を納付しなければなりません。特許庁側で電子化する(実務的には、一般財団法人工業所有権電子情報化センターが処理)ための実費となります。
私どもの事務所では電子出願に対応しています。オンラインで実用新案登録出願書類が受理されますと、ただちに出願番号(例:実願2020-123456)が付与されます。

Q4a:「出願手数料とは?」
出願手数料は、実用新案登録出願書類の受理や「方式審査」及び「基礎的要件審査」のために必要な費用であり、原則として書類の提出と同時に納付することになっています。
電子出願では、出願人又は代理人が特許庁に事前に開設した予納台帳(デポジット)から引き落とす形で納付されます。
書面(紙ベース)の場合には、願書に特許印紙を貼着して納付することになります。
予納台帳が残金不足であったり、特許印紙が貼着されていない又は金額不足したりしているような場合には、定められた金額を指定期間内に納付すべき旨の補正命令が出されます。
指定期間内に納付すべき金額を納付しないときは、特許庁長官は、出願を却下することができますので、注意が必要です。
現在のところ、出願手数料は「14,000円」です(減免制度はありません)。

Q4b:「登録料とは?」
実用新案登録制度では、審査官による実体審査、ひいては審判官合議体による拒絶査定不服審判の審理が行われません。
特許庁長官は、「方式審査」及び「基礎的要件審査」が完了しますと、実用新案原簿(不動産登記簿に類するもの)に実用新案権の設定登録をします。その登録の時に実用新案権が発生します。そのため、出願人は、出願と同時に第1年~第3年までの3年分の登録料を納付します。
ただし、登録料には減免制度がありますので、別に説明します。

Q4c:「登録料の金額は?」
登録料は、現在のところ以下の金額に設定されています。
時間の経過に応じて実用新案権の経済的価値を勘案して実用新案権を維持するかどうかを判断するよう、存続期間を3段階に分けて傾斜設定されています。

・第1年-第3年までの各年:2,100円+100円×請求項の数
・第4年-第6年までの各年:6,100円+300円×請求項の数
・第7年-第10年までの各年:18,100円+900円×請求項の数

Q4d:「登録料の減免制度は?」
一定の条件を満たす出願人には登録料の減免制度が用意されています。
減免を受ける手続としては、出願人は出願と同時に「実用新案登録料減免申請書」に証明書類を添付して提出します。

・個人(市町村民税非課税者等):第1年-第3年が免除又は3年間猶予

Q5:「方式審査とは?」
方式審査とは、出願手数料及び登録料の納付のチェックに加えて、出願人の手続能力(未成年者等の場合の取扱い)、代理人への特別な授権、法律などで定められた方式(書類の様式)について特許庁長官(実際には、担当部署)が行う審査のことをいいます。
違反が発見されると、指定期間内に補正すべき旨の補正命令が出されます。
指定期間内に補正しないときは、特許庁長官は、出願を却下することができますので、注意が必要です。
さらに、不適法な手続であって補正できないもの(例えば、実用新案登録出願書類に明細書は含まれているが実用新案登録請求の範囲が含まれていないような場合)は却下されます。
却下されるということは出願として受理されないということですから、出願番号の付与もありません。

Q6:「基礎的要件審査とは?」
実用新案登録制度では、審査官による実体審査、ひいては審判官合議体による拒絶査定不服審判の審理は行われません。
一方で、出願されると設定登録によって実用新案権が成立することから、設定登録するためには一定の要件を満たしている必要があります。
そこで、特許庁長官が、方式審査に加え、基礎的要件として以下の点を審査することとし、違反が発見されると、指定期間内に補正すべき旨の補正命令が出されます。
指定期間内に補正しないときは、特許庁長官は、出願を却下することができますので、注意が必要です。
却下されるということは出願として受理されないということですから、出願番号の付与もありません。

<基礎的要件>
・考案が物品の形状、構造又は組合せに係るものであること
・考案が公序良俗・公衆衛生を害するおそれがないこと
・実用新案登録請求の範囲が記載様式を満たしていること
・考案の単一性を満たしていること
・明細書、実用新案登録請求の範囲、図面の記載が著しく不備でないこと

Q6a:「補正とは?」
実用新案登録制度では、審査官による実体審査、ひいては審判官合議体による拒絶査定不服審判の審理は行われず、方式審査と基礎的要件審査を通ると出願日から数か月で実用新案権が設定登録されます。
したがって、出願として存在する期間が短いことから、明細書、意匠登録請求の範囲、図面を補正できる期間は出願日から1か月に限られており、事実上、自発的な補正を行うことはありません。

一方、基礎的要件審査における補正命令がなされた場合には、補正命令の中で指定された期間内(補正命令の発送の日から60日以内)に手続補正書を提出して明細書、実用新案登録請求の範囲、図面について補正をすることができます。
補正にあたっては、以下の制限がかかります。
以下の要件についての違反は、無効理由となります。

<補正についての要件>
・「明細書等の補正が当初明細書等の範囲を超えないこと(新規事項を含む補正禁止)」
適法な補正の効果は出願時に遡ります。新規事項(当初明細書等の記載の範囲を超える事項)を含む補正を認めてしまうと他の出願人などの第三者に不測の不利益を与えることになるので、それを防ぐためのものです。

Q6b:「出願の分割とは?」
実用新案登録出願の分割とは、明細書、実用新案登録請求の範囲、図面において公開された考案を広く保護するという趣旨の下、記載されている複数の考案の一部を別の新たな実用新案登録出願に分割することをいいます。

出願の分割は、広い意味で補正と同じような役割を果たしますが、補正は別に説明しましたように制限がかかります。
分割の場合は、別の新たな出願に分割してそれぞれの考案の権利化を目指せることができることになります。
分割後の新たな出願は、要件を満たす場合、もとの実用新案登録出願の時にしたものみなされます。
具体的には、基礎的要件審査において考案の単一性の要件を満たしてないとして補正命令がなされたとき、補正命令の中で指定された期間内(補正命令の発送の日から60日以内)に新たな出願を分割します。
なお、新たな出願には、出願手数料、登録料が必要です。

Q6c:「出願の変更とは?」
出願の変更とは、実用新案登録出願、特許出願、意匠登録出願の間で、互いに出願形式を変更することをいいます。

実用新案登録出願は、基礎的要件審査において補正命令がなされたとき、特許出願(実用新案登録出願の出願日から3年を超えると不可)又は意匠登録出願に変更できます。
補正命令の中で指定された期間内(補正命令の発送の日から60日以内)に可能です。

要件を満たす場合は、変更後の出願はもとの実用新案登録出願の時にしたものみなされます。
もとの実用新案登録出願は、取り下げたものとみなされます。

変更後の出願には、出願手数料、出願審査請求料(特許出願の場合)が必要です。

なお、実務的には、実用新案登録出願書類をベースにして特許出願書類を作成することは容易ですが、実用新案登録出願書類をベースにして意匠登録出願書類を作成するにあたっては、図面の作成に困難を伴うことがあります。実用新案登録出願書類の図面と意匠登録出願書類の図面では要求仕様が異なるためです。
したがいまして、実用新案登録出願を意匠登録出願へ変更することが準備段階から予期されているようなときは、実用新案登録出願書類の図面に、考案の主題である物品について同一縮尺の六面図も含めておくことが望まれます。
変更後の意匠登録出願において、図面が実用新案登録出願の図面から要旨変更されていると判断されますと、その意匠登録出願の出願日は、現実に出願した日となります。

≪実用新案登録要件≫

Q7:「狭義の実用新案登録要件とは?」
狭義の実用新案登録要件とは、出願された物品の形状、構造又は組合せに係る考案(実用新案登録請求の範囲に記載された発明)が実用新案登録を受けるための最も基本的な要件です。

<考案についての要件>
・「産業上の利用可能性を有すること」
・「新規性を有すること」
・「進歩性を有すること」

<出願人についての要件>
・「考案者が原始的に実用新案登録を受ける権利を有すること」

Q7a:「産業上利用可能性とは?」
産業上の利用可能性とは、学術的・実験的にのみ実施する考案ではなく、産業すなわち工業・鉱業・農林水産業・運輸通信業・商業として実施できる考案を指しています。
効率性やコスト面での優位を持っているかどうかは関係ありません。
明らかに実施不可能な考案(地球表面全体を紫外線吸収フィルムで覆う方法)などは、産業上の利用可能性がないとされます。
なお、人間を手術するための外科器具などは工業的に生産できますので、産業上の利用可能性があります。

Q7b:「新規性とは?」
新規性とは、出願された考案が出願前に日本国内又は外国において公知になった考案でないことをいいます。
考案の定義における創作性は発明者の主観的認識で足りますが、実用新案登録要件としては、客観的に新規性を有していることが求められます。
「公知になった考案」には、出願人の考案も含まれます。
新規性のない考案は技術の累積的進歩に貢献しませんので、登録性を有しません。
整理しますと以下のようになります。

<公知になった考案>
・公然に知られた考案:守秘義務のない者に現実に知られた考案。実務上、公知といいます。

・公然実施をされた考案:公然と実施され見学者などに技術的に理解された可能性のある考案。実務上、公用といいます。

・頒布された刊行物に記載された考案、電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった考案:いずれも、不特定の者が見得るような状態に置かれた考案。
実際に見られたかどうかは関係ありません。実務上、文献公知といいます。

<公知の判断基準>
・時間的基準:出願前、すなわち出願日ではなく時分単位で判断
・地域的基準:日本国内又は外国、すなわち世界基準で判断

Q7c:「出願前に考案が公知になってしまったが?」
自分自身の考案であっても出願よりも前に公知になっていれば(新規性喪失といいます)、「公知になった考案」として拒絶理由の根拠になります。
つまり、自分自身の考案が公知になった後に出願しても、登録性はありません。

しかし、これでは、例えば、考案を研究成果として学会で発表したり、考案を施した装置を博覧会へ出品したりするタイミングと出願のタイミングが上手く取れないような場合、技術の進歩にかえって貢献できない結果となることがあります。
このような事態を避けるため、新規性喪失の例外として手続を取ることにより、公知になった考案は新規性及び進歩性の根拠として取り扱われません。

・時期的条件:公知になった日から1年以内に出願と同時に手続を行うこと

・例外の対象となる考案:
実用新案登録を受ける権利を有する者の意に反して公知になった考案(秘密にする意思があったにもかかわらず他人によって公表されてしまったような場合)、
実用新案登録を受ける権利を有する者の行為に起因して公知になった考案(博覧会へ自ら出品したような場合)

Q7b:「進歩性とは?」
進歩性とは、出願された考案が出願前に日本国内又は外国において公知になった考案に基づいて、当業者がきわめて容易に考案できたものではないことをいいます。
進歩性のない考案は技術の累積的進歩に貢献しませんので、登録性はありません。
整理しますと以下のようになります。

<判断主体>
・当業者:出願された考案の属する分野における通常の知識を有する者

<進歩性がないとされる場合の例>
・次のような考案においては、考案の構成を達成するのに困難性があり、構成を達成した結果、通常に予期されるもの以上の顕著な効果が発現されていると判断されない限り、当業者ならば想到容易ということで進歩性がないと判断されます。

・寄せ集め考案:複数の公知の考案を単に寄せ集めた考案

・置換考案・転用考案:ある分野の公知の技術を置換又は転用した考案

・用途考案:公知の技術の用途を変更したり限定したりした考案

・選択考案:先行する考案の上位概念を下位概念に限定した考案

・限定考案:公知の技術の数値・形状・配列等を限定又は変更した考案

Q7e:「考案者が原始的に実用新案登録を受ける権利を有するとは?」
これは、考案の完成と同時に考案者に「実用新案登録を受ける権利」が生じることを意味しています。出願人は、原始的には考案者ということになります。
一方、実用新案登録を受ける権利は、財産権として移転することができます。
例えば、会社の従業員が考案をした場合に実用新案登録を受ける権利を会社に承継させ、会社が出願人として出願することができます(職務考案といいます)。

Q8:「広義の実用新案登録要件とは?」
広義の実用新案登録要件には、狭義の実用新案登録要件に以下の要件が加わります(ここに記載した以外の要件もありますが、複雑になりますので割愛します)。
狭義の実用新案登録要件を含む広義の実用新案登録要件が満たされない場合には、実用新案登録を受けることはできません。

<考案についての要件>
・「先願考案/発明と同一の後願考案でないこと」
・「不登録事由に該当しないこと」
・「最先の出願であること」

<出願についての要件>
・「明細書が実施可能な程度に記載されていること」
・「実用新案登録請求の範囲が明細書の記載によって裏付けられていること」
・「考案の単一性を満たすこと」

<出願人についての要件>
・実用新案登録を受ける権利を有する者の出願であること

Q8a:「先願考案/発明と同一の後願考案でないこととは?」
この要件は、ある出願(後願B)について、その出願日よりも前の日に出願された特許又は実用新案登録出願(先願A)があり、後願Bの出願後に先願Aの実用新案掲載公報、特許公報、出願公開が発行された場合、後願Bの考案が先願Aの最初の明細書等に記載された考案/発明と同一であるときには、後願Bの考案は実用新案登録を受けることができない、というものです。

実務上、先願Aは、後願Bにとって「拡大先願」と呼ばれます。
少しややこしいですが、後願Bの考案が出願時に新規性を備えていた場合でも(後願Bの出願時には先願Aは公知になっていない)、先願Aの最初の明細書等に記載された考案/発明と同一であれば、後願Bの考案は新たな創作物ということはできないことなどを勘案して定められているものです。

ただし、先願Aと後願Bの考案者が同一の場合、後願Bの出願時に先願Aと後願Bの出願人が同一の場合には、適用されません。

Q8b:「不登録事由に該当しないこととは?」
この要件は、公益保護の観点から、考案が、公の秩序、善良の風俗、公衆の衛生を害するおそれがある場合、実用新案登録を受けることができないというものです。

Q8c:「最先の出願であることとは?」
この要件は、実質的に同一の考案について複数の出願があり、いずれも他の実用新案登録要件を満たしているとき、重複登録を排除するために、最先の出願のみが実用新案登録を受けることができるというものです(先願主義といいます)。

実質的に同一の考案かどうかの判断は、それぞれの実用新案登録請求の範囲を比較して判断します。
出願日の異同、実用新案登録出願の考案と特許出願の発明との関係から、以下のように調整されます。

<考案同士の場合>
・異なった日に複数の実用新案登録出願があった場合は、最先の出願のみ実用新案登録可。
・同じ日に複数の実用新案登録出願があった場合は、いずれも実用新案登録不可。

<考案と発明の場合>
・異なった日に実用新案登録出願と特許出願があった場合は、実用新案登録出願が先であったときのみ実用新案登録可。

Q8d:「明細書が実施可能な程度に記載されていることとは?」
この要件は実施可能要件といいます。
明細書は、当業者が追試しようとしたときに追試できる程度に記載されていなければならないというものです。

当業者である第三者が他人の出願された考案又は実用新案登録された考案の有効性や問題点を確認し、さらなる改良技術の開発を行えるようにするための要件です。
物品の考案ではその物品の生産かつ使用ができることが求められます。

Q8e:「実用新案登録請求の範囲が明細書の記載によって裏付けられていることとは?」
この要件はサポート要件といいます。
実用新案登録を受けようとする考案の内容をまとめた実用新案登録請求の範囲の記載は、明細書によって、具体的には実施形態によって裏付けられている(サポートされている)ものでなければならないというものです。

権利化したい考案の内容が実用新案登録請求の範囲にのみ記載されている場合、公衆に公開していない考案について権利を要求することになり、公開の代償として独占的な実用新案権を付与する実用新案登録制度の趣旨を逸脱してしまうためです。

Q8f:「考案の単一性を満たすこととは?」
この要件は単一性要件といいます。
異なる二以上の考案は別々に出願することを前提として、それら二以上の考案が特定の技術的関係を有することにより「単一性」の要件を満たす一群の考案であるときには一出願とすることができるというものです。

特定の技術的関係とは、例えば以下のようなものをいいます。

・同一の特別な技術的特徴を有する(例:同じ構造を採用した異なる雄ねじ)
・対応する特別な技術的特徴を有する(例:雄ねじと、対応する雌ねじ)

Q8g:「実用新案登録を受ける権利を有する者の出願であること」
前述しましたように、実用新案登録を受ける権利は原始的に考案者に帰属します。出願人が考案者でない場合、出願人は考案者から実用新案登録を受ける権利を承継していなければなりません。

実用新案登録を受ける権利が共有である場合には、各共有者は共同して出願しなければなりません。

≪実用新案技術評価≫

Q9:「実用新案技術評価とは?」
実用新案登録出願は、基礎的要件の審査を経るのみで、実用新案登録要件については審査官による実体審査を経ないで実用新案権として設定登録されます。
実用新案登録要件を備えているかどうかは、原則として、当事者(出願人又は実用新案権者など)の自己責任に委ねられることになります。
しかし、当事者の判断が困難な場合も多いと想定されます。
そこで、実用新案技術評価は、請求を受けて、特許庁が客観的な判断材料を提供しようとするものです。

実用新案技術評価は、一種の鑑定という性格をもつものであり、行政処分ではなく、実用新案権の成否を左右するものではありません。

なお、実用新案権の権利行使にあたっては、実用新案技術評価の結果を示した「実用新案技術評価書」を提示して相手方に警告することになっています。

Q9a:「実用新案技術評価請求手続とは?」
実用新案技術評価の請求は誰でも行うことができ、「実用新案技術評価請求料」を添えて「実用新案技術評価請求書」を特許庁に提出します。
実用新案技術評価の請求は、出願日以降、実用新案権消滅後でも行うことができますが、実用新案登録無効審判により無効とされた後はできません。

Q9b:「技術評価請求手数料の金額や減免制度は?」
出願手数料とは異なり、実用新案技術評価請求料は高額に設定されています。
現在のところ、「42,000円+1,000円×請求項の数」です。
これは、技術評価にあたっては、世界中の公知文献をサーチし、明細書、実用新案登録請求の範囲、図面に記載された内容を公知文献と対比検討するためには相応の費用がかかるためです。

一定の条件を満たす出願人には減免制度が用意されています。
減免を受けるための手続としては、実用新案技術評価請求書とは同時に「実用新案技術評価請求料減免申請書」に証明書類を添付して提出します。

・個人(市町村民税非課税者等):免除又は1/2に軽減

Q9c:「実用新案技術評価書とは?」
実用新案技術評価は、実用新案登録要件のうち以下の要件について、請求項ごとに、審査官が文献公知を根拠として評価できるものに限って作業が行われます。
作業の結果は実用新案技術評価書という形で整理され、以下の実用新案登録要件について、請求項ごとに6段階に分けて評価されます。
該当するすべての要件を満たす場合、「評価6」とされます。
≪実用新案権成立段階≫の権利侵害に関する説明をご参照ください。

<考案についての要件>
・「新規性を有すること」⇒ 満たさない場合、「評価1」

・「進歩性を有すること」⇒ 満たさない場合、「評価2」

・「先願考案と同一の後願考案でないこと」 ⇒満たさない場合、「評価3」

・「最先の出願であること」 ⇒満たさない場合、「評価4」又は「評価5」

≪実用新案権成立段階≫

Q10:「実用新案権の成立はいつ?」
実用新案登録制度では、審査官による実体審査、ひいては審判官合議体による拒絶査定不服審判の審理が行われません。出願人は、出願と同時に第1~第3年分までの3年分の登録料を納付します。特許庁長官は、方式審査、基礎的要件審査が整った時点で、登録料の納付、免除、猶予があると、実用新案原簿(不動産登記簿に類するもの)に実用新案権の設定登録をします。その登録の時に実用新案権が発生します。

免除も猶予もされていないのに登録料の納付がなされない場合は、実用新案登録出願は却下されることがあります。
利害関係人(ライセンシーなど)は出願人の意に反しても登録料を納付し、その費用の償還を出願人に請求できます。
設定登録によって、出願番号とは別に、実用新案登録番号(実用新案登録第xxxxxxx号)が付与されます。

Q10a:「実用新案権の存続期間とは?」
実用新案権の存続期間は、設定登録日に始まり、出願日から10年の満了日をもって終了します。
出願日から満10年という意味ではありませんので、ご注意ください。

存続期間は、設定登録によって設定登録日から3年は確保された状態となっていますが、4年目からは、第4年分以降の登録料を前年以前に納付して維持することになります。
第4年分以降の登録料は、1年分ごとでも複数年分をまとめてでも納付できます。

実用新案権者は、第4年分以降の登録料を納付しないことにより、実用新案権を消滅させることができます。
実用新案権が消滅しますとその登録実用新案は誰でも自由に実施できることとなり、実用新案権者であって者でも同一の考案について再度実用新案登録を受けることはできません。
利害関係人(ライセンシーなど)は実用新案権者の意に反しても登録料を納付し、その費用の償還を出願人に請求できますので、ご注意ください。

Q10b:「実用新案権の存続期間は延長できますか?」
実用新案権の存続期間は、特許権とは異なり、延長できません。

Q11:「登録実用新案公報とは?」
特許庁長官は、実用新案権を設定登録すると、実用新案権の確定した内容を実用新案公報(登録実用新案公報)に掲載し、公衆に向けて公表(公示)します。
実用新案登録制度では出願公開はありませんので、出願時の、又は、基礎的要件審査を通して補正をした場合は補正後の明細書、実用新案登録請求の範囲、図面が掲載されることになります。

Q12:「実用新案登録証とは?」
特許庁長官は、実用新案権を設定登録すると、実用新案権者に対し、実用新案登録証を交付します。
実用新案登録証は、実用新案権を取得したことの名誉を表徴する「証(あかし)」として交付されるものです。
権利の取得や喪失を示す権利書や効力の証明書となるものではありません。例えば、実用新案登録証を譲渡したからといって、実用新案権が「譲渡」される訳ではありません。

Q12a:「実用新案権は譲渡(売買)できますか?」
実用新案権は、財産権として、譲渡(売買)できます。

ただし、当事者同士で譲渡の合意をしただけでは、譲渡の効力は発生しません。
実用新案権は無形の財産権であるため、譲渡を含めて権利の移転(相続や会社合併による一般承継を除く)については、当事者の合意が成立していることを前提として、実用新案原簿に登録することによって初めて効力が発生します。

譲渡による移転の場合には、「実用新案権移転登録申請書」に当事者間の「譲渡証書」を添付して登録申請をします。
なお、一般承継の場合には、登録してなくても移転の効力が発生しますが、特許庁に遅滞なく届け出なければならないことになっています。

実用新案権の設定、移転などに関する権利関係情報は、特許庁に備えられている実用新案原簿によって公示されます(ただし、不動産登記簿と同様に公信力はありません)。

Q13:「実用新案権の効力とは?」
実用新案権者は、業として登録実用新案の実施をする権利を専有します。
ただし、後述します「専用実施権」を設定したときは、その設定行為(契約)の範囲内では実施をする権利を有しません。
字句のそれぞれの意味合いは次のとおりです。

・「業として」:個人的又は家庭的な実施以外の実施を指します。逆に言いますと、実用新案権の効力は、個人的家庭的な実施には及びません。

・「専有する」:独占的に保有するという意味であり(積極的効力・独占的効力・独占権)、とりもなおさず、独占を害する他人の行為を排除できることも意味します(消極的効力・排他的効力・排他権)。

Q13a:「実用新案権の効力が及ばない範囲は?」
実用新案権は非常に強力な権利ですが、場合によっては弊害が生じることがあります。
そこで、産業政策的な見地あるいは公益的な見地から、消極的効力である排他権の部分について制限を設けています。
以下のものには、業として行われていても、実用新案権の効力は及びません。

・試験又は研究のためにする登録実用新案の実施(改良考案への契機となるため)

・単に日本国内を通過するに過ぎない船舶、航空機又はこれらに使用する機械、器具、装置その他の物(国際交通機関の円滑な運航を図るため)

・実用新案登録出願の時から日本国内にある物(出願時に秘密裡に存在していた物)

Q13b:「登録実用新案の技術的範囲とは?」
登録実用新案の技術的範囲とは、登録実用新案を法律的見地からみた場合に効力範囲、権利範囲、保護範囲と捉える内容を、技術的見地からみた範囲という捉え方です。

登録実用新案の技術的範囲は、登録された実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定められます。
実用新案登録請求の範囲は文言で表現されているものであり、抽象的であるがゆえにある程度の広がり(外縁)をもつわけですが、その広がりを技術的範囲と捉えることになります。

実用新案権を侵害しているかどうかの判断は、侵害が疑われる対象物品が登録実用新案の技術的範囲に属しているか属していないかで判断されることになります。

Q13c:「登録実用新案の技術的範囲の判定とは?」
登録実用新案の技術的範囲の判定とは、利害関係人の求めにより、侵害が疑われる対象物品が技術的範囲に属しているかどうかについて、特許庁の審判官合議体が見解を示すことをいいます。

この見解は行政処分ではなく一種の鑑定ですが、専門官庁である特許庁の公式見解であり、裁判所における裁判官の心証形成に資するものとして大きな意義を有しています。

「対象物品が登録実用新案の技術的範囲に属する」という結論を求める積極的判定と、「対象物品が登録実用新案の技術的範囲に属しない」という結論を求める消極的判定の双方があります。
自分の実用新案権について、自分の実施する対象物品が技術的範囲に属するかどうかの判定を求める自問自答の判定の請求も可能です。
現在のところ、判定手数料は「40,000円」です(減免制度はありません)。

Q14:「ライセンスの設定、許諾とは?」
実用新案権者は、他人に、ライセンスとして、「専用実施権」を設定したり、「通常実施権」を許諾したりすることができます。
実用新案権者は「ライセンサー」、専用実施権者は「エクスクルーシブ・ライセンシー」、通常実施権者は「ノンエクスクルーシブ・ライセンシー」ということになります。

Q14a:「専用実施権とは?」
専用実施権者は、実用新案権者との間で定めた設定行為(契約)に範囲内において、業として登録実用新案の実施をする権利を専有します。
その設定行為の範囲内においては、実用新案権者であっても実施する権利はありません。
この意味において、専用実施権は、実用新案権と同様の独占的効力と排他的効力を有することから、特許庁の実用新案原簿に設定登録しないと成立しません。
当事者同士の契約だけでは成立しませんので、ご注意ください。
専用実施権者は、実用新案権者の承諾を得た場合は、他人に通常実施権を許諾することができます。

Q14b:「通常実施権とは?」
通常実施権者は、実用新案権者との間で定めた設定行為(契約)に範囲内において、業として登録実用新案の実施をする権利を有します。
通常実施権者は実施する権利を専有しませんので、実用新案権者、専用実施権者、他の通常実施権者は設定行為と重なる範囲でも実施できることになります。
逆の言い方をしますと、通常実施権は、独占的効力と排他的効力はなく、業として実施しても実用新案権者や専用実施権者から権利行使を受けない権利ということができます。

なお、通常実施権は、実用新案権者又は専用実施権者の許諾以外にも、法律によって、公正の観点から他人に付与されることがあります。
法律によって生じた通常実施権も特許権者や専用実施権者から権利行使を受けません。

Q15:「実用新案権等が侵害されたときの対応は?」
実用新案権又は専用実施権を侵害されていると認識したときは、実用新案権者又は専用実施権者は、まず、相手方の実施状況を十分確認し、登録実用新案の技術的範囲内で実施しているかどうかを検討します。

その蓋然性が高いと判断されたときは、「実用新案技術評価」を特許庁長官に請求し、審査官の作成した「実用新案技術評価書」を入手します。
そして、実用新案技術評価書を提示して警告書(タイトルは「伺い書」でも何でもOK)を送り、相手方の認識を確認します。

実用新案権は審査官の実体審査による実用新案登録要件の審査をしないで発生していますので、実用新案権又は専用実施権を侵害した者には過失があったと推定されません。
したがって、権利行使に先立って、審査官による実用新案技術評価書を得てから相手方に警告することが義務付けられています。

その後,相手方の反応次第で、「差止請求」や「損害賠償請求」を検討します。
新聞、業界誌、テレビ、ネット上の広告など、あらかじめ証拠を集めておくことも重要です。

Q15a:「差止請求とは?」
実用新案権者又は専用実施権者は、自己の実用新案権又は専用実施権を侵害する者又は侵害するおそれがある者に対し、侵害の停止又は予防を請求することができます。
これを、差止請求権といいます。
侵害行為には、記載した直接侵害のほかに、予備的な行為や幇助的な行為などの間接侵害も含まれます。
差止請求には、侵害者又は侵害するおそれがある者に侵害の故意や過失があったかどうかは関係ありません。
なお、差止請求とともに、侵害行為を組成した物の廃棄、侵害行為に供した設備の除却、侵害の予防に必要な行為(例えば、担保の提供)の請求もできます。

Q15b:「損害賠償請求とは?」
民法上の不法行為として、実用新案権又は専用実施権が故意又は過失によって侵害された場合には、生じた損害の賠償を請求することができます。
一般には侵害者に故意又は過失があったかどうかは権利者の側に立証責任があります。
しかし、実用新案法では、侵害者に過失があったものと推定されないことから、実用新案技術評価書を提示した警告をもって代替させています。

また、損害賠償請求にあたり、実用新案権者又は専用実施権者の立証負担の軽減を図るため、損害額の算定方式を規定しています。
さらに、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、業務上の信用を回復するために必要な措置(新聞紙上への謝罪広告など)を請求することもできます。

Q15c:「権利行使にあたっての注意は?」
実用新案権は審査官の実体審査による実用新案登録要件の審査をしないで発生しています。
なので、権利行使にあたって、実用新案権者又は専用実施権者は高度な注意義務を課されています。
すなわち、警告又は権利行使の後に「実用新案権が実用新案登録無効審判によって無効」となったときには、実用新案権者又は専用実施権者は、警告又は権利行使によって相手方に与えた損害を賠償する責任があります。

ただし、実用新案技術評価書において登録性が肯定的な「評価6」を得ていたときなど相当な注意義務を果たしていたときは免責されます。

Q15d:「刑事罰は?」
侵害が故意かつ既遂の場合、侵害者に刑事罰が与えられることがあります。
親告罪ではありませんので、実用新案権者が告訴しなくても適用があります。
例えば、法人が故意に侵害すれば、直接的に侵害をした行為者が5年以下の懲役若しくは500万円以下の罰金又はこれらを併科に処せられるとともに、法人には3億円以下の罰金刑が科せられます。

Q16:「実用新案権は取り消されたり無効とされたりしますか?」
実用新案権は、「実用新案登録無効審判」によって無効とされることがあります。
ただし、特許権に対する「特許異議申立て」や商標権に対する「登録異議申立て」のような異議申立てによって取り消される制度は採用されていません。

Q16a:「実用新案登録無効審判とは?」
実用新案登録無効審判とは、実用新案権消滅後を含めて、第三者が審判を請求して実用新案登録を無効にしようとするものです。
登録要件を満たしているとの実用新案権者の認識に過誤があった場合や、登録後に実用新案登録を維持することが不適当となる場合です。

原則として誰でも実用新案登録無効審判を請求できますが、実際は、権利侵害をしているとして実用新案権者が相手方に実用新案権を行使した場合に、相手方が無効理由を発見し(多くの場合、新規性や進歩性を否定できる公知の文献を新たに見つけ出すことです)、請求することがほとんどです。
実用新案登録を受ける権利に関する請求については、実用新案登録を受ける権利を有する者に限り請求できます。

審理は審判官合議体の進行指揮下で審判請求人と被請求人(実用新案権者)との間で裁判類似の当事者対抗手続によって進行します。
無効理由があるときは請求成立審決(無効審決)、無効理由がないときは請求不成立審決(登録維持審決)がなされます。

請求成立審決(無効審決)が確定しますと、実用新案権は初めから存在しなかったものとみなされます(登録後の後発的理由の場合は、該当するに至った時から存在しなかったものとみなされます)。

無効理由は、実用新案登録要件違反とほぼ同じですが、形式的瑕疵に係る要件(考案の単一性要件)が除外されるとともに、実用新案権成立後の訂正要件違反、後発的理由(外国人の権利享有要件違反、条約適合要件違反)が追加されています。
現在のところ、審判請求料は「49,500円+5,500円×請求項の数」です(減免制度はありません)。

Q16b:「主な無効理由は何?」
前述した実用新案登録要件及び補正要件のうち、主な無効理由には以下のものがあります。
特に、○・を付した4つの主な無効理由については、≪特許Q&A≫の拒絶理由に例を示して説明していますのでご参照ください。
なお、4つの主な拒絶理由以外の拒絶理由については、該当することがないように原則として準備段階であらかじめ調整しておきます。

<考案についての無効理由>
○・「新規性を有さない」
○・「進歩性を有さない」
○・「先願考案/発明と同一の後願考案である」

<出願についての拒絶理由>
・「明細書が実施可能な程度に記載されていない」
・「実用新案登録請求の範囲の明細書の記載によって裏付けられていない」

<補正についての無効理由>
○・「明細書等の補正が当初明細書等の範囲を超えている」

Q16c:「明細書等を訂正できますか?」
一度成立した実用新案権の内容を成立後に変更することは、法的安定性から、行われるべきではありません。
しかし、無効理由を含んでいることや、記載上の不備があることが設定登録の後に発見された場合、変更を一切認めないのは考案者や実用新案権者の保護に欠けることになります。
このため、厳格な条件下で明細書等を「訂正」することが認められています。

1つは、実用新案権者自らが最初の実用新案技術評価書の送達日から2か月以内に「訂正書」を提出する場合、もう1つは、実用新案登録無効審判が他人からなされたときに実用新案権者が対応として「訂正書」を提出する場合です。

いずれの場合も、訂正は、以下の目的に限られます。

なお、訂正の回数は、請求項の削除をするときを除いて、1回に限られていますので、注意が必要です。
現在のところ、訂正手数料は「1,400円」です(減免制度はありません)。

・実用新案登録請求の範囲の減縮
・誤記の訂正
・明瞭でない記載の釈明
・請求項間の引用関係解消
・実用新案登録請求の範囲の請求項の削除

Q16d:「実用新案権は一定期間実施しないと取り消されますか?」
商標権とは異なり、実用新案権、特許権、意匠権には、登録実用新案、特許発明、登録意匠又は類似する意匠を実施しなくても、不実施を理由に取り消す取消審判の制度はありません。

Q16e:「実用新案登録に基づく特許出願とは?」
実用新案登録に基づく特許出願とは、実用新案権者が自己の実用新案権を放棄して、実用新案登録の内容を特許出願することをいいます。

「出願の変更」の説明において、実用新案登録出願を特許出願に変更できることを説明しましたが、実用新案登録出願は順調にいけば数か月で登録されますので、出願として存在している期間、ひいては出願の変更を行える期間は非常に限られています。
そこで、以下に示す場合を除き、実用新案権を放棄する代わりに、特許出願を行えるようにしたものです。
その特許出願の内容が実用新案登録の内容の範囲内であれば、特許出願は実用新案登録出願の時にしたものとみなされます。
特許出願には、出願手数料、出願審査請求料が必要です。

・実用新案登録出願の出願日から3年を経過
・自分で実用新案技術評価を請求
・第三者が実用新案技術評価を請求し、その最初の通知を受けた日から30日を経過
・実用新案登録無効審判の最初の答弁書提出指定期間を経過

≪外国での実用新案権≫

Q17:「実用新案権の効力の地域的範囲は?」
日本の実用新案権の効力が及ぶ地域的範囲は、日本国内に限られます。

これは国家主権の問題であり、原則として、日本に限らず各国とも自国内のみ(又は政府間機関加盟国内のみ)で効力があります。
外国で実用新案権を取得するためには、日本での実用新案登録出願とは別にそれぞれの国へ手続をします。
各国で成立した実用新案権は、他の国で成立した実用新案権とは独立していることになります。

Q18:「外国で実用新案権を取得するには?」
外国へ実用新案登録出願するには主に以下の2通りの手続のルートがあります。
なお、特許制度とは異なり、実用新案登録制度は国によって違いますので、ご注意ください。
実用新案登録制度がない国、日本のように実体審査を行わない国、特許と同じように実体審査を行う国などがあります。

・各国へ個別に出願するルート(「工業所有権の保護に関するパリ条約」に基づく手続で、実務上、「パリ・ルート」といいます)

・複数の国々へまとめて出願するルート(「特許協力条約<PCT>」に基づく手続で、実務上、「PCTルート(国際出願)」といいます)

Q18a:「パリ・ルートとは?」
パリ・ルートにおいては、日本での実用新案登録出願(又は特許出願)を基礎として、その出願日から1年以内に、例えば、外国A、外国B、外国Cにそれぞれの国の言語に翻訳した明細書等をもってそれぞれに実用新案登録出願すると、外国A、外国B、外国Cでの実用新案登録要件が日本での出願日を基準として審査されます。
これを「優先権」といい、外国A、外国B、外国Cそれぞれに実用新案登録出願を行う際に優先権を主張します(日本の実用新案登録(又は特許出願)の出願日及び出願番号等を提示します)。

「パリ条約」では、先願優位の原則が貫徹される実用新案登録制度において、同じ考案を外国に出願したい出願人に1年間のアドバンテージを「優先権」という形で与えることにしたものです。
母国での実用新案登録出願と同じタイミングで各国の言語の明細書等の翻訳を用意しなければならないとすると出願人の負担が大きく、また、せっかく考案が完成しているのに実用新案登録出願が遅くなってしまうことによるものです。

Q18b:「PCTルート(国際出願)とは?」
PCTルート(国際出願)とは、特許協力条約<PCT>に基づいて、同条約の締約国である153国(政府間機関経由を含む)(2020年7月現在)であれば、1本の国際出願で複数の国々へ出願手続ができるというものです。
主な手続の流れは以下のようになります。
パリ条約の優先権を主張することも可能です。
国際出願という形で出願手続は一本化されていますが、国際実用新案登録という1つの実用新案権が成立するわけではありませんので、ご注意ください。
実用新案権は、国(政府間機関経由を含む)ごとに成立します。詳しくはお問い合わせください。

・日本語で作成した願書に特許を希望する締約国又は政府間機関を指定

・日本特許庁に願書及び日本語の明細書等を提出

・日本特許庁がWIPO(世界知的所有権機関)国際事務局に願書及び明細書等を送付

・日本特許庁が受理した日を国際出願日と認定

・国際事務局は国際出願の内容について国際公開公報を発行

・日本特許庁は国際段階として国際調査、特許性に関する見解書作成、出願人から請求あれば国際予備審査を実行

・出願人は指定国の中から実用新案権を希望する国・政府間機関を選択し、明細書等の翻訳文を付して、優先日(国際出願日又は優先権主張の場合は日本での基礎出願日)から原則として30か月以内に国内移行手続を実施

・以降、選択締約国又は政府間機関別に手続が進行

・最終的に、選択締約国又は政府間機関ごとに特許可否決定